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平野 優芽 インタビュー│東京2020オリンピック

世界での活躍を目指し、ハードなトレーニングを積み重ねてきたスポーツ部門奨学生/助成対象者がこの度晴れてオリンピック代表に選出されました。競技やオリンピックにかける想いについて、他部門奨学生がインタビューを実施しました。
 

平野 優芽
第48回生

●出場種目
7月29日〜31日│女子7人制ラグビー

私は小さな頃から運動がとても苦手で、運動会の徒競走と言えばビリッケツの常連で、「選手として世界に挑む」などということと無縁の人生を送ってきました。そんな私が、自分とは全く違う経験を積み努力を重ねてきた選手に直接お話をお伺する機会があることを知り、一も二もなく手を挙げました。オリンピック選手が長い競技人生の中で、どのように高いレベルのモチベーションを保ってきたのか、またどのようにしてその突出した力を育んできたのか、お話しを伺いたいと思いました。(冠)

【インタビュアー:学術部門47回生 冠 楓子
エジンバラ大学脳科学専攻。細胞死の研究を行なっているのですが、死ぬはずの細胞がなかなか死んでくれないので、最近は、扱っている細胞を嫌いになりかけています。

小中学生の頃は本気で水泳選手になろうと思っていた私にとって、スポーツ選手はいつもどこか憧れる存在です。なので、オリンピック選手とお話しできる機会をいただいてとても嬉しいです。インタビューするにあたって実際の試合動画などを見ましたが、スクラムやキック、またパスをつないで得点を稼いだりなど、いろいろな要素やスキルが詰まっていました。初心者の私でも見ていて楽しいスポーツで、是非もっとラグビーの魅力を知りたいと思い、インタビューしました。(町野)

【インタビュアー:学術部門50回生 町野 有夏
7年過ごしたイギリスMillfield Schoolを卒業し、9月からMITに進学予定。
アメリカに行くのはすごく楽しみですが、シャーロックホームズなど、イギリスの探偵ものをテレビで観るたびに少し寂しくなっています。
 

ーーラグビー選手の特徴や強みとはなんですか?(町野)

平野 : 昔から男の子たちと外で遊んでいるような子だったので、(接触の多い)コンタクトスポーツというのは魅力的でした。ラグビーはチームスポーツで、みんなと頑張れるというところが好きです。また、味方のために体を張るということが多く、ラグビーを通して人に対する思いやりや、自分が周りを助けてあげたいという気持ちを持てるようになったと思います。

ーー 悔しい経験はありましたか?それを克服するために努力していることがあれば教えてください。(冠)

 平野 : 女子ラグビーという競技において、日本はまだ強いとはいえません。国際試合に出るたびに負けてしまうということの悔しさを経験しています。海外の選手は身体が大きく、走るのが早い選手がたくさんいます。極端に持って生まれてきた身体や身体能力を変えてしまうことはできません。身体の大きな世界の選手を相手に、身体の強化だけで勝つことは難しいと思っています。

私たち日本チームのメンバーは、小さな頃から共に戦ってきた仲間です。年間で250日を強化合宿で一緒に過ごしてきたので、それぞれの性格やスキル、特徴をお互いに把握しています。お互いをよく知っていることで可能となる連携プレーをより洗練させることが、世界で勝ち抜くためには大事だと考えています。そんな私たちだからこそ、細かいスキルを磨くことやきめ細やかな戦術を組み立てる練習を積み重ねることで、ひとりひとりでは敵わない相手でもチームとして相手に勝つことができると確信しています。

ーー平野さんは司令塔という役割ですが、司令塔とはどういうポジションですか?心掛けていることなどはありますか?(町野)

平野 : 司令塔は周りに指揮をするポジションです。なので、合宿などでチームメイトと生活していく中で、それぞれのラグビーの強み弱みやキャラクターを理解することが司令塔としてみんなを生かすためには重要だと思っています。練習以外の面でも朝ご飯を食べるところから夕ご飯を食べるところまで、みんなと過ごす時間を大事にしています。

ーー「優れた司令官」であるために平野選手が努力してきたことはなんですか?また、その努力が実を結んだと感じるのはどんな時ですか? (冠)

平野 : 司令塔は小学1年生でラグビーを始めた頃からずっと担当してきました。その頃から自分の試合映像はもちろん、男子の試合、海外の強い選手の試合映像などをたくさん観ることを心がけていました。自分の試合映像を観て振り返ることで自分自身が組み立てた戦術の改善点を見つけます。また、他のチーム、特にニュージーランドなどラグビー強豪国の試合映像からは、ゲームのプレー選択や戦術などを学び、自分の戦術構築に生かせるようにしました。

私自身でトライできた時はもちろん嬉しいのですが、それ以上に自分のプレー選択によって味方が相手からトライを取れた時、身につけたことが役に立っていると充実感を感じます。

ーー他のポジションについても教えて下さい。(町野)

平野 : スクラムを組むフォワードの選手は体が大きかったり、タックルなどでぶつかり合うのが好きな人も多いです。バックスはボールを持って走ることが多く、フォワードほど大きくはありませんが、足の速さやパスのうまさで味方を生かしていきます。

ですが海外の選手はみんな体が大きいので、フォワードみたいな体格でも、走るのが速くてバックスだったっていうこともあります。そういう意味では、海外とのギャップみたいなものがあります。

ーー平野さんのどのような家庭環境や性格がご自身のラグビーのスキルを向上させ、精神面で良い影響を与えてきたと思いますか?(冠)

平野 : 私と弟は、父と祖父の影響で小さな頃からラグビーを始めました。父は私が入ったラグビースクールのコーチだったので、自宅で父に指導してもらいながら弟とパスやタックルの練習を積み重ねてラグビースクールの時間以外にもスキルアップしてきました。ラグビーに没頭しスキルを磨くのにはとても恵まれた環境だったと思います。

また、私の中で一番怖い存在であった父が、「女の子だから」と差をつけることなく、私と弟を対等に指導してくれたことが今日の私につながっていると感じています。父はいつも私と弟に対して平等に厳しく接してくれていたので、どんな場面でも頑張ることができる精神力や、日々の辛いトレーニングを全力でやり遂げる力を得ることができたのだと思います。

ーーご自分では性格をどのように思いますか?(冠)

平野 : 私は「辛いことやしんどいことはすぐに忘れる」という性格なので、この性格が「走るトレーニング」など日々辛いと感じる練習を乗り越えられるよう助けてくれたように思います。試合で勝った時には辛かったことをすっかり忘れ、「あのトレーニングを頑張って良かった」と喜びでいっぱいになります。こんな性格なので、次の試合に向けてきついトレーニングにも向き合うことができるのだと思います。

育った環境や自分自身の性格など全てのことが私のラグビープレーを形成し、また、選手にとって必要な心の強さの向上に繋がっていると感じています。

ーーラグビー選手あるあるを教えて下さい!(町野)

平野 : 普段体が大きい選手に囲まれているので、ラグビー仲間からは私が細く見られがちですが、町に出ると自分の肩幅が大きいことや、それほど細くないことに気付いたりします。

また、日常生活でラグビー選手っぽさが出ることもあります。私はバックスで、相手をステップで抜くことも多いのですが、スクランブル交差点などの人混みでステップを切って人を避けて、触れられないように歩くのが得意です。

ーーオリンピックで楽しみにしていることはありますか?(町野)

平野 : 自分たちより強い海外のチームと戦うのが楽しみです。試合がなかった間に自分たちがやってきた練習が、どれだけ相手に通用するのか試したいです。どれだけ上達してきたかを見せつけて、ビックリさせたいというのもあります。予選からリオオリンピックで金メダルのオーストラリアと戦います。前回のチャンピオンをホスト国として倒したいと思っています。

トップアスリートの方々と一緒に日本選手団として国を背負って戦うことや、会場で間近にそういう選手を見かけるのも楽しみです。特に、年下ですが、水泳の池江選手を尊敬しています。病気という大きい壁にぶつかっても諦めずにまた夢を叶える姿には、同じアスリートとしても、人間としてもパワーをもらいました。

最後に、女子ラグビーはまだまだ知らない方も多いと思いますが、オリンピックという注目される場で結果を残すことでこれからの女子ラグビーの発展につなげたいです。まずはいろんな人にラグビーという競技を知っていただきたいです。そしてオリンピックも、たくさんの方に画面越しからでも観ていただきたいです。

写真:左/平野 優芽 中央/冠 楓子 右/町野 有夏
【インタビューを終えて…】

インタビューのスタンバイをしていた画面に平野さんが現れたとき、想像していた「大きな体でたくましい選手」とは全く違う、ごく普通の可愛い女の子がモニターに現れたことに、私は正直すごく驚きました。しかし、その直後、私はインタビューを進める中で、可愛らしい第一印象とは裏腹に、幼少の頃から司令官として重責を担ってきた平野さんの本当の強さを目の当たりにました。私は平野さんのお話を伺って、自分のスキルを磨き続けるという向上心、そして一瞬も逃さず適切に行動するいう集中力と判断力、さらにそれを維持し続けるモチベーション、これら全ての要素が世界で認められる人を目指す上では、とても重要であるということを学び、自分の“これから”にぜひ活かしていきたいと思いました。(冠)


インタビューを通して、ラグビーとはすごく人間的なスポーツだと思いました。表向きはタックルなど激しくてフィジカルなイメージが強いですが、その裏にあるチームの団結力はどのスポーツにも増して重要なんだなと感じました。お互いの性格を把握するために朝ご飯から夕ご飯までみんなと過ごす時間を大切にしていると話す平野さんは、チームスポーツをしたことのない私には眩しく見えました。(町野)

(取材日:2021年7月5日 文:学術部門 冠 楓子、町野 有夏)


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