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卒業レポート

academic

2023.07
ナップ ダニエル
第48回生 - Princeton University
卒業後の進路:大学院: Vrije Universiteit AmsterdamでのPhD

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 レーザーの制御、ハチの群れの動きの記録と分析、量子的な多体問題の数値趣味レーション、原子ビームを用いたスペクトルの測定など、江副記念リクルート財団に支援していただいた4年間で多数のプロジェクトに挑戦することができた。プリンストン大学での経験の中で、このような研究に参加し、それを通して知り合った生徒や研究者とかかわったことが、間違いなく最も価値のあるものだった。研究を進めるなかで、専門性の高い知識を得るだけでなく、今まで触れることができなかったような大型なプロジェクトの発展に沿って自分も成長することができた。コロナウイルスの影響で一年半程キャンパスから離れていた期間もあったが、それにもかかわらず、財団のサポートを通して、非常に濃厚な時間を過ごすことができた。

 大学での初の研究経験はチュク研究室でのリモートのプロジェクトだった。レーザーの制御装置を設計し、その性能を確認した。この研究を通して、後に自分の専門分野として選択したAMO(Atomic,Molecular, and Optical)物理に出会えた。特に毎週のグループミィーティングでのディスカッションを聞き、知らない単語やコンセプトを後から調べることを通して、早くから専門性の高い知識を積み重ねた。知識に欠ける大学一年生の学生だったにもかかわらず、研究に飛び込むことができた。

 次の研究プロジェクトはコーカー研究室でのハチの群れの映像を分析するソフトウェアの開発だった。パンデミックが続き、本来の夏の予定がキャンセルされたため、物理からある程度の距離があるような研究内容だったが、この研究をどのような形で物理の学習につなげることができるか考えることを通して、次の研究の題材となる多体問題に興味をもつことができた。そして、過去には遊び程度で触れていたプログラミングを応用することで、実践的なスキルを得た。

 三年次の冬季では数値シュミレーションの理論的なプロジェクトに挑戦した。自分なりに満足できる成果を得たが、この経験はやはり今後の研究では実験面に集中したいという決断をする根拠にもなった。多体問題の実験面の研究となると、元々の最初の研究経験の分野だったAMOである。このような自然な道筋をたどって、最終的な卒業論文の研究として、AMOに戻ることになった。

 卒業論文では、イッテルビウムのスペクトルの測定の実験について報告した。このプロジェクトに携わった一年間の間で、たくさんの作業をし、実験の多様な部分に貢献することができた。しかし、卒業論文そのものでは、その幅広い内容に加え、自己で行っていた理論計算を添えるなかで、うまくそれらをまとめることができなかった。少し悔いが残る最終的な完成作品を残してしまった。アドバイザーとのコミュニケーションをより重視し、研究の内容だけでなくその方針や優先順位を決めるうえでアドバイスを求める重要性を学んだ。大学院に進む前にこの教訓を得られることができてよかったと思う。

卒業論文の実験室の風景。右には原子ビームが取り入れられている真空チャンバーがあり、左側には付属機器が映っている。


 研究だけでなく、プリンストン大学の授業も、入学時に想像もできていなかった内容を扱うことができた。特に、4年次の秋学期の量子コンピューティング実験の授業での課題となったダイヤモンド窒素-空孔中心の測定が印象的だった。このような最先端の実験を、その実験を専門にしている教授のもとで、授業の一環として経験できることは到底信じられないようなことだと思う。

 留学を通して得たもう一つの要素はリベラル・アーツ大学での学習である。専攻に偏った内容だけではなく、幅広く多分野での学習をすることで、よりバランスのとれた研究者に成長できたと実感している。哲学、古典文学、英文学、イタリア語、ジェンダー論、など幅広い分野での学習を並行して進ませることができた。

 江副記念リクルート財団にいただいた支援は、海外大学での学習を可能にした経済的なものだけではなかった。奨学生のコミュニティーを通して知り合った方とのコミュニケーションを通して互いにサポートをし、他の奨学生のレポートで報告されている成果に励まされた。総会での成果発表や交流会なども、春学期の途中、体力が絶えそうな時期に到来し、ラストスパートのエネルギーを与えてくれた。大学での同級生とは同じような時期に苦労をしたり、切磋琢磨する(言い方を変えれば、競争をする)ことができたが、財団の奨学生との間にできた純粋なサポートを共有することができなかったと思う。

 今後は、オランダのVrije Universiteit AmsterdamでのPhDに進む。研究内容として、水素分子のスペクトルの測定に進む。水素分子は、a priori の理論計算からスペクトルを予想できることから、現在の最先端の理論を確かめる題材として重要な立場を占めている。ヨーロッパでのPhDは米国と異なり、期間が少し短い。研究室に付属したスタッフが普段PhD生に課される仕事を担当するため、専門度の高い研究内容の濃度が増える。これに備えて、卒業論文から得た経験を活かして、物事の優先順位をより整理することを目標にする。研究者として必要な基礎知識やスキルと伴う、プロジェクトを管理するスキルをつけていきたい。

 後輩へのメッセージとして、学習内容と生活の両立を重視してほしいということを伝えたい。大学では、たくさんのチャレンジに取り組む機会が無数にあり、いつの間にか溺れてしまいやすい。また、今まで見たことないような素晴らしい実力を持つ生徒があつまり、自分を彼らと比べてしまうと、自己の強い点を見失ってしまう恐れがある。必ず、自己の実力をしっかりと考慮し、大学生活を短距離走ではなく、マラソンとしてペースを管理しながら走り終えることが欠かせない。

ナップ ダニエル
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