トップページ > 奨学生活動レポート > 貴島 萌

奨学生活動レポート

academic

2022.01
貴島 萌 Moe Kishima
>プロフィールはこちら

――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

私はイギリス、ロンドンにあるユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)医学部医学科の六年生です。中学三年生の時に参加した講演会で元国境なき医師団の医師だった山本敏晴先生のお話を聞いた事がきっかけで、最も必要とされる場所で役に立てる仕事をしたいと考え、国際的に働ける医師を目指しました。もともと文系の方が強かった私は社会、歴史系の本を読むことが好きで、特に現在世界に存在する様々な格差やその背景に興味を持っていました。また、その格差を無くすために尽力したいと考えていました。山本先生の講演を拝聴した際にこんなに格好良くてやりがいがありそうな仕事は他にない、とビビッと来たのは今でも覚えています。

同質的な環境の日本を出て、早くから多様なバックグラウンドを持つ人たちの中で英語でコミュニケーションを取れるよう、また、新しい環境にも柔軟に対応できる様になっておきたいと思い高校から渡英しました。UCLは授業や研究の質の評価が高いだけでなくホリスティックな医療に重きを置いているのが魅力的だと思います。様々な人種が集まるロンドンでだからこそ学べることもありますし、イギリスで最初に女性に医学部入学を認めた、など先進的な校風にも惹かれました。

三年生の時に取得した学位、iBSc in Medical Physics and Biomedical Engineeringの卒業論文を持ちUCL Main Building前で撮影

現在の夢はいくつかありますが一つ目はまず患者さん一人一人ときちんと向き合いながらエビデンスに基づいた医療を行う一流の医者になる事です。病気、怪我をするということはその個人、また家族にとっては生活や人生をも左右し得るほどの一大イベントです。そんな時に、この人なら信頼できる、この人と出会えて良かったと思ってもらえる医者になるのが目標です。2つ目は限られた資源の中でも効率よく高いクオリティの医療が万人に行き届く医療システムを作る事です。人道支援や途上国医療の発展に貢献するのももちろんですが、イギリスや日本の医療システムも完璧とは言い難い状況だと思うので、将来的には自分の知識や経験をいろいろな方面で活かせればと考えています。

――日常生活、生活環境について

一年生の時は学生寮に住んでいましたが、二年生からは高校からの友達と住んでいます。最終学年はロンドン以外での研修が多いので今年度は一、二ヶ月に一回引っ越す生活をしています。生活リズムも、どの診療科で研修をしているかによって変わるので生活環境は一定ではありません。基本的に月曜から金曜は研修に行き、早く終われば自習をしたり課外活動をしたりしています。今年は就職の準備もあるので、行きたい地域や病院のリサーチをしたり試験勉強にも時間を使っています。休日はパンデミックで失った研修の機会を補うために病院に行ったり、カンファレンスや勉強会などの課外活動と自分の時間と半分くらいずつ適度なバランスを保ちつつ過ごしています。食事は基本的に自炊ですが、日本での評判とは違い、ロンドンには美味しいお店もあるので友達と会う時などは街に出て新しいお店の開拓などもしています。また中高の部活の影響もありミュージカルの大ファンなので落ち込んだ時や時間がある時はミュージカルや劇を観に行きます。引越し続きの生活になる前はアマチュアダンスカンパニーに所属して毎週クラスに通い、年二回あった舞台にむけて練習していました。残念ながら今年はダンスは続けられていませんが、家やジムで運動して体の健康を保つこともとても大切にしています。

また、イギリスは世界の中でもコロナウイルスの感染率がとても高いですが、幸い私はコロナウイルス感染拡大に影響を受けつつも意義のある臨床実習を続けることができています。第一波の際は臨床研修は中止になりオンラインの授業に変更となりましたが20209月から同時に一つの病棟にいる学生の数を減らして実習が再開されました。2021年の1月には1日の新規感染者が5万人を超えるほどの大きな第二波があり、医学生も医療従事者として患者対応のサポートとして働くように要請がありました。3ヶ月ほどロックダウンの中、コロナ患者の集中治療室(ICU)の看護サポートと医学部の実習を並行して行う日々が続きました。ICUでとても容態の悪い患者を目の当たりにしながら長時間働くのは大変でしたが、看護師の仕事を経験し医者以外の医療従事者への理解や尊敬が格段に増したことや、パンデミックの中皆が一丸となって働く中で一緒に働かせて頂けたのはとても貴重な経験でしたし、少しでも役に立てたのは嬉しかったです。現在は新規感染者数は非常に多いものの、コロナウイルス感染による入院患者数は比較的増えていないのでもとのように実習を続けています。

左:外科での研修 – Royal Free病院にて。市民から届いた無数の感謝状がプリントされているコロナ病棟となったICUの廊下

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

良い医者になるには座学も大切ですが経験には勝てないと私は考えています。なので、実習の際にはなるべく積極的に参加して臨床手技の練習をしたりケースディスカッションを先生としたり、患者さんとコミュニケーションをとるようにしたりしています。また、国際協力や効率的な医療システムの開発には政治、経済の知識や他分野の方々とのチームワークやコミュニケーションが必須になると考えています。他分野の見聞を広げるために、医学系のカンファレンスだけではなく興味がありそうな勉強会を見つけたら参加するようにしています。ロンドンは多くの大学が隣接しており、他大学のイベントにも参加可能なのでUCL以外の講演会などにも参加できるのはとても便利です。

他にもボランティア活動や大学のソサエティーに参加することによって交流の幅を広げています。特に、一年間UCL日本ソサエティーの会長を務めた際は代表としての他組織や企業との関わり方、イベントなどの企画のしかたや自分自身のリーダーとしての長所短所など多くのことを学びました。また最近ではクリントン財団が運営する社会起業家プログラムに参加しイギリスにいる難民の医療アクセス改善のためのプロジェクトを立ち上げたり、慶應大学医学部の国際医学生カンファレンスで発表させて頂くなどアウトプットもするように努めています。常にアンテナを張り、周りにある様々な機会になるべく敏感に反応しバランス良く人間として成長したいと思っています。

UCL日本ソサエティの会長を務めていた時に7つの他のアジアの国のソサエティと共同開催した文化交流イベント

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

今年は医学部卒業という節目の年です。ようやく医者になるという一つの目標を達成できる嬉しさがあるとともに、まだまだスタートラインに立っただけで道のりは長いので油断してはいけないという思いもあります。周りを見ていても研修医は労働時間の長さや責任の増幅などからとても大変そうではありますが、目の前にあるやるべきことを丁寧にこなしつつも長期的な目標を見失わないよう視野を広く持ち続けたいです。医学以外でも言語や公衆衛生学や経済学など勉強したいことがあるので、こつこつとできることはやり、医者としての基盤ができたらしっかり腰を据えて学びたいと考えています。

卒業まではあと半年を切りましたが最後まで気を抜かず理想の医者像に近づけるようにしっかり勉学に励みながら最後の学生生活を謳歌したいです。また、江副記念リクルート財団関係者の方やサポートして下さってきた皆様のお陰で今、ここに自分がいるという感謝と謙虚な気持ちを忘れずに精進してまいります。

貴島 萌 Moe Kishima
>プロフィールはこちら