昨年9月にイギリスで行われたリーズ国際ピアノコンクールで第2位および最優秀室内楽演奏賞を受賞した小林海都さんが、初のサントリーホールで協奏曲を演奏されました。
高校を卒業された2014年に渡欧し、ベルギーのエリザベート王妃音楽院、そして2016年からはスイスのバーゼル音楽院で勉強をされている小林さんですが、昨年はこの8年のぶれない真摯な研鑽が大きな成果を生んだ年だったのではないでしょうか。
コンサート、コンクール、留学、そして愛してやまない作曲家のことなど、素朴な疑問をお聞きしました。お答えから小林さんの素顔が見えてきます。
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Q. 今回のコンサートで演奏されたのは、パガニーニの主題による狂詩曲作品43でした。今回の公演が決まってから取り組み始めた新曲とのことですが、この曲を選んだ理由は何でしょうか。
今回は、曲目変更は無しでの代役出演という形でお話をいただきました。用意する期間を考え悩みましたが、個人的に最近作成した「近々取り組みたい協奏曲リスト」の中の1曲がこの曲でしたので、思いきって挑戦させていただくことにしました。
Q. そうだったのですね。3回の公演後、SNSなどで高評価のコメントを拝見しましたが、ご自分ではどのように感じていますか。
このようなご時世の中沢山の方に演奏会にいらしていただけてとても嬉しいです。
新曲なので初日は1番緊張がありましたが、ゴージャスなオーケストラの音に触発され思い切って演奏することができました。
本番の度に課題も見つかり、たとえ2公演目が翌日だとしても与えられた時間の中であらゆる箇所の質を向上していくことや、音楽的な流れの多様性を模索する時間を取り、音楽により深みが増すように努力しました。
この曲に必要な大胆さという点では、最終日がより表現できたように思いますが、うまくいったところがあった分、より良くしたい部分もまた出てきましたので、一生涯かけてこのプロセスを繰り返しながら磨いていきたいと思います。
Q. リーズ国際ピアノコンクール、第2位入賞おめでとうございます!第2位に入賞されて、得たものの中で一番大きなものは何でしょうか。
一言で言うならば「出会い」だと思います。
コンクール期間中にお世話になったホストファミリー、一緒にコンクールを乗り越えたコンテスタント、セミファイナルの室内楽と本選の協奏曲での共演者、コンクールの審査員…など多くの新たな出会いに恵まれ、そこから新たな世界に繋がっていることを感じています。
Q.このコンクールで一番大変だったのはどんなことでしょうか。
全てのプログラムの準備が最も大変でした。
音源審査を除いて5時間を超えるプログラムを提出しました。現代曲も僕が選んだクルタークの作品は小さな曲が何百曲とありますから、それを全て聴いて自分で良いと思うものを選んでいく作業から始まりました。
それぞれのラウンドでのプログラミングはもちろんのこと、全ラウンドを通してあらゆる時代やスタイルの曲を聴いてもらうということもコンクールでは重要な要素ですので、それも意識しました。
実際に現地入りしてからも、目の前のラウンドだけに集中してしまっていては、本選に進んだ際にその曲を1週間以上全く弾かずにオーケストラ合わせをしないといけない、という状況になってしまうので、練習の計画をよく考えることが必須でした。
セミファイナルは2つの75分のプログラムを出場決定する直前まで満遍なく用意することが求められましたので、精神的にも、肉体的にもハードでした。
Q. 高校を卒業された2014年からベルギーのエリザベート王妃音楽院、そして2016年からスイスのバーゼル音楽院で勉強をされていますが、この8年は小林さんにとってどんな8年でしたか。
留学生活は正に自分の音楽探しの時間であったと思います。
マリア・ジョアン・ピリス先生とクラウディオ・マルティネス・メーナー先生という性格、音楽へのアプローチ、ピアニズムも全く異なるお二方から色んな角度から刺激をいただき、ようやく自分の中で揺らがない「核」ができはじめたように感じます。終わりのない世界なので、まだまだ勉強しなければいけないことが沢山ありますが、焦らずにじっくりと音楽に向き合っていきたいと思っています。
Q.これから先の具体的な目標はどんなことに定めていらっしゃいますか。
演奏形態に拘らず幅広く活動していきたいと思っています。取り組みたい協奏曲も沢山ありますし、僕が愛してやまないシューベルトをソロと室内楽共に取り上げたコンサートだったり、視野を広く持ちながらその時に興味のあることを積極的に取り組んでいきたいです。
Q.「愛してやまないシューベルト」とのことですが、シューベルトのどんなところに惹かれているのでしょうか。
着飾らない自然な歌心というのでしょうか。
何かをアピールする表現も多い中、シューベルトは独りよがりの音楽ではなく、どこまでも純粋で美しく、そして「発信」するのではなく、「受け止める音楽」と感じています。
シューベルトにおいては、音楽を受け止める気持ちでいると音楽があるがままに流れていき、それに身を委ねる感覚が僕にはとても心地良さを感じます。
Q. 好きな趣味などはありますか。
趣味と言えるかはわからないですが、時間に余裕のある時には料理をすることが気晴らしになっています。料理動画を見るのも好きです。
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8年の留学から、大きなコンクールで2位を受賞され、世界が大きく広がっていく。そんな小林さんを近くで見ることができたのは大きな幸運でした。これからの小林さんがどのように世界に羽ばたいていかれるのか、それを追いかけるのも本当に楽しみです。
名古屋フィルハーモニー交響楽団東京特別公演
日時:2022年01月25日
19:00
会場:サントリーホール
指揮:小泉和裕(名フィル音楽監督)
ピアノ:小林海都
オーケストラ:名古屋フィルハーモニー交響楽団
◆プログラム
モーツァルト:交響曲第31番2長調 K.297(300a)『パリ』
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
ソリスト:小林海都
チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調 作品13『冬の日の幻想』