2023/03/01

「後世を良くするものを残す」食を通じた挑戦、そして研究で得た自信。│筧 路加

2023/03/01

筧 路加

筧 路加 Roka Kakehi

私にとって化学は、見えないものを見ようとする手段です。大学では化学と栄養学を学び、食と科学が交差する分野について知識を深めます。また、培養肉の研究を通して、近い将来に人類が抱えることになる食の問題を自身の技術で解決したい…

――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

人生の意義は、後世を良くするものを残すことだと考えています。私の現在抱いている目標は、世界の食の定義を変え、テクノロジーの観点から向上させることです。中学生の頃から食(料理)と化学の関係に学問的興味を持っていました。高校生の時にコスタリカに留学した際には、毎日食べるものが自らの身体・体調にダイレクトに影響を与えていることを実感しました。また、日本とは全く違うラテンアメリカの食文化の豊かさに触れた一方、コスタリカでは肥満が社会問題になっており、各国の豊かな食文化を保ったまま、食生活により引き起こされる生活習慣病を無くす方法を探求するようになりました。

学術的な関心は化学にあったため、化学を軸におきながら食にも関わることのできる学びを探しました。現在学んでいるペンシルベニア大学では、化学を専攻しながら、世界トップクラスのNursing(看護)学部が提供している栄養学を副専攻として学ぶことができるカリキュラムがある点に魅力を感じ、進学しました。

    Chemistry building (化学の建物)。授業や実験など、1日の大半をこの建物で過ごしています。

――日常生活、生活環境について

朝一番早い授業は8時半からあるので、毎日その時間には学校に着き授業、もしくは図書館で勉強するようにしています。

化学専攻では無機化学・有機化学・物理化学など様々な分野の授業を取り、それぞれ授業の規模は様々です。現在受講している生化学の授業は200人程と規模が大きく、その分bioengineeringなど異なる分野を専攻している友人と話す機会が多く、授業中の何気ない会話から刺激を得ています。


授業で心がけている点は、教授のオフィスアワーに毎回行くことです。アメリカの大学では授業外で教授に質問できるオフィスアワー制度が充実しています。本質は細部に宿ると考えているので、小さな疑問も見逃さずに積極的に質問し解決することで、毎週の勉学のリズムを作るように心がけています。実際、取るに足りないと思った質問でも、教授と話すと、実はその化学反応の本質に関連していたことが多々ありました。

今学期はindependent researchという一つの授業として、現在所属している研究室でEnantioselective aziridination (エナンチオ選択的 アジリジン合成)に関する研究を行っています。有機化学における全合成は新たな反応を生み出すサイエンスの根幹であり、特にアジリジンは創薬化学や有機合成化学など広く応用が期待されています。クロスカップリング反応を行うことが多い実験室で、つい先日は薗頭カップリングを行いました。鈴木カップリングや根岸カップリング(根岸先生はペンシルベニア大学博士課程に留学されていました)に代表されるように、日本人の研究者の方々が発見された偉大な反応に触れる度に背筋が伸びる思いです。

放っておくと一日勉強してしまうので、意識的に勉強から切り離すために、大学の社交ダンス部に入りました。ゼロから始めましたが、学部生の他にも院生、卒業生など多様な人が参加しており、毎週練習をしています。他の大学で開かれる大会に出場するため、New YorkやMarylandに行きました。

    社交ダンス部のユニフォーム。お気に入りのダンスはワルツとクイックステップです。

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

冒頭で、後世に残るものを残したいと書きましたが、scienceに関わる者として論文を出すことはそれを叶える一つの方法であると考えています。

昨年大学を一年休学し、培養肉に関する研究を行いました。ウシ筋細胞の凍結保存に関する実験を行い、研究結果をまとめ、筆頭著者として論文を出すことが出来ました(https://doi.org/10.3389/fsufs.2023.1023057)。培養肉に関する研究は世界でもまだまだ始まったばかりですが、そのような分野で研究を行い論文という形で世に残せたことは、自分も貢献できるのだというアカデミックな自信に繋がりました。生きた細胞を扱っていた培養肉の実験と比べると、現在のラボでの実験は手技や実験のスケジュールの立て方など多々異なる部分があります。しかし、繰り返し実験を行い、研究結果をまとめ、その研究の意義をどう伝えるのかを熟考するという、論文を書く上での姿勢は変わりません。論文を読む際にはデータを追うだけでなく、筆者がどのように伝えようとしているのかを汲み、日々の実験の際にはその意義を毎回確認するように心がけています。

また、長期的な目線を忘れないようにしています。一年生の初めの頃は目の前の課題や試験に追われ、目線が狭まり苦しくなってしまっていました。財団の方との対話や休学中の経験を通して、大望を持って目線をあげて日々を過ごすようになりました。

                 現在の研究室での実験の様子

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

今年は大学院受験を控え、自分にとって決断の年になります。研究に触れる機会を増やすために、栄養学など異なる分野でも研究を開始する計画です。

海外で学びたいと思ったきっかけは、小学生の時にアメリカの大学を訪れた時です。その時は英語は全くわからず、アメリカのサイズの大きさにただ圧倒されただけでしたが、時がたった今キャンパスを歩いていると、あの時見上げていた景色の続きを生きているのだと感じます。

このような学びが出来ているのは、ひとえに財団の皆様のご支援と、応援してくださる方々のおかげです。貴重な機会に深く感謝するとともに、この学びを通して世界を良くできるように、今後も最大限に学んでいきます。