――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
私の将来の夢は、糖尿病の根治治療と、患者のQOL(Quality of Life)を向上させる医療機器を化学の力で開発することです。特に1型糖尿病は、発症の正確な原因が未解明でありながら、自身の免疫系によって膵臓のβ細胞が破壊されることで発症し、一生涯にわたり毎日5回以上のインスリン自己注射と採血による血糖値管理が必要となる、日常生活に大きな負担を強いる深刻な疾患です。高血糖や低血糖時には倦怠感や頭痛などが生じ、生活に厳しい制約がかかります。血糖値管理を怠れば透析や失明などの合併症を引き起こす、不治の病でもあります。
2型糖尿病が生活習慣病として広く知られている一方で、1型糖尿病は成人病ではなく、日本では10万人に2〜3人しかいない希少な自己免疫疾患です。100年前、カナダ人研究者によるインスリンの発明は多くの命を救いましたが、根治には至っていません。
私がこの病を身近に感じるようになったのは、家族に1型糖尿病患者がいることがきっかけです。幼少期からその苦悩を間近で見てきた経験から、高校時代には家族だけでなく、世界中の同じ病で苦しむ人々の助けになりたいと強く意識するようになりました。
1980年代には、オックスフォード大学化学学部が現在の血糖値計の基礎技術を開発し、1型糖尿病治療は大きく進歩しました。私は、イギリスが世界トップレベルの研究施設、世界中からの豊富な投資資金、そして整備された治験体制を兼ね備えた環境であることを知り、この地なら自分の夢を実現できると確信し、イギリスへの留学を志しました。

――日常生活、生活環境について
ロンドンでの学生生活は、学問面でも文化面でも非常に刺激的です。インペリアル・カレッジ・ロンドンは学生の約半数が留学生で、医療・工学・物理・化学の優秀な研究者が世界中から集まるトップレベルの拠点です。平日は午前から夕方まで講義やラボ実験が続き、帰宅後も夜遅くまで予習・復習に取り組みます。化学学科では年に2度の大きな試験があり、長期休暇明けに実施されるため、試験前は24時間オープンの図書館で徹夜し、そのまま仮眠を取ることもあります。期間中は友人と料理を作り合い、ディスカッションを通して教え合いながら乗り越えています。
生活面では、地下鉄で数駅の距離にある学生寮に住み、物価の高いロンドンでは外食が高額で、ラーメン一杯が3,000円することもあるため、自炊が基本です。学業の合間にはイギリスの野球リーグでピッチャーとしてプレーし、多国籍なチームメイトとの交流が何よりの息抜きとなっています。
また、学内のジャパン・ソサエティー(日本文化サークル)では財務担当として予算管理や会計報告を行い、さらに年に一度、約600名の日本人留学生が参加するテムズ川クルーズのボートパーティー企画・運営にも携わりました。研究・健康・スポーツ・社会活動のバランスを保ちながら、充実した大学生活を送っています。

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
糖尿病の根治治療やQOL向上に直結する研究に少しでも貢献するため、私の活動は研究室内外に広がっています。特に昨年度、同大学の研究室で参加した5週間のインターンでは、抗炎症に深く関わるタンパク質であるインターロイキンが、患者を模した細胞に与える影響を調査しました。実験計画の立案やデータ解析方法の習得など、研究者としての基礎を築く貴重な経験となり、さらに実際の1型糖尿病研究の最先端に触れたことで、夢に一歩近づいた手応えを得ました。
また、日常的にインプットを増やすべく、研究室訪問にも積極的に取り組んでいます。今夏には、4月に日経新聞でも大きく報じられた、日本初の再生医療を用いた1型糖尿病の治験を行った京都大学再生医療研究所のグループを訪問予定です。iPS細胞から作成した膵臓のインスリン分泌細胞を患者に移植する治験であり、これまでの研究の苦労や今後の展望を直接伺えることを非常に楽しみにしています。
――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
今後1年間は大学3年次の最終年となり、その後は同大学の修士課程に進む予定です。欧米や中国の科学分野での活躍は目覚ましい一方、日本もiPS細胞研究のように世界をリードする成果を挙げています。私は日本人としてこの科学的挑戦に誇りを持ち、国際的視野を備えた研究者へと成長したいと考えています。並行して、患者団体や医療機関との対話を重ね、患者目線で修士課程や将来の博士課程への準備を進めます。特にこの1年間は、生物工学分野で化学者ならではの視点から新たな発見を導くため、研究の基盤となる化学の理解を徹底的に磨き上げたいと考えています。
最終的には、国際的なネットワークと現場感覚を兼ね備えた人材となることを目指しています。これまでロンドン、そして今年は日本でインターンを経験し、来夏は米国での挑戦を計画しています。ロンドンで得た知見を日本の研究現場と共有し、日英双方の強みを融合させながら、世界と日本の最前線を体感し続けたいと考えています。そして、根治治療とQOL向上の両面から糖尿病に挑む研究者として歩みを進めていきます。
