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奨学生活動レポート

academic

2022.09
田久保 勇志 Yuji Takubo
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――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

記憶に無いほど幼いころから宇宙飛行士に強い憧れがあり、そこから約15年近く宇宙を追い続けてきました。数年前に尊敬しているエンジニアの講演会に足を運んだ時に、彼が「情熱や夢は、即ち飢えや渇きである」と言っているのを聞いて腑に落ちたのですが、ある意味での偏執も10年経てば夢になるものだな、と最近思います。

元々スペースシャトルが大好きだったこともあってか、宇宙への漠たる関心は次第に工学方向へと流れていき、中学入学以後、本場アメリカで学を修めたいと思うようになりました。現在所属しているジョージア工科大学は航空宇宙工学の名門で、全米最大級の学部規模を誇っています。日本では知名度があまり高い大学ではないため進学時にやや不安になったりもしましたが、研究領域の質、量、そして多様性を考えると、他校では実現できないリソースを貰っていると感じています。特に研究領域の多様性に関しては、毎年ユニークな研究をしている教員を積極的に採用している気があり、”Versatile”という単語が非常に似合う学部だなと思っています。

現在の夢は、「人類の宇宙における経済圏の獲得に貢献する」ことです。『新たなる領域は恩寵として与えられるものではなく、獲得するものである』という命題は、陸・海・空における経済圏の獲得が遥か昔になってしまったことで、我々が忘れてしまいがちなことの一つだと思っています。新幹線に乗って新たな土地へ行ったり、船を出して釣りに行くのと全く同等に、宇宙空間を誰もが使える領域にすることに大きな意義を感じています。

自分の研究の一つでは「月で氷(=水素&酸素)を採掘してロケットに燃料補給をし、そのまま火星に行く」というようなSF染みた話を大真面目にしており、地に足の着いた分野・仕事に対して引け目を感じるタイミングもないと言えば嘘になりますが、100年後に『そういえば我々のひいおじいさんの世代は宇宙に行くだけで命がけだったんだよね』という世界線になってくれればしめたものかなと思います。

今年頭に採択された論文より。宇宙での配送計画と宇宙機の同時最適化を、強化学習を用いて解いています。

――日常生活、生活環境について

…と大きな口をきいてしまいましたが、一介の学部生、かなり地味な暮らしをしています。米国大学のキャンパスライフは、良くも悪くも非常に閉鎖的です。衣食住、そして友人たちなどもすべてキャンパスの中に包摂されているため、基本的にキャンパスを出ずに生活が回ります。学問に集中するにはもってこいの環境で、日々研鑽を積んでいます。

学部3年次は午前~夕方に授業、夕飯を食べてから図書館に戻って研究、というような生活をしていました。来学期(4年次)はさらに授業が減り、研究や大学院入試の準備をすることが増えそうです。授業と研究の両立・時間配分は非常に難しい問題で、未だにうまくこなせている自信がありませんが、自分への期待値を上げすぎずにやっていくのも、(特に長期に渡る博士課程に向けて)大事なことの一つかなと考えています。

研究では、宇宙ミッション設計、不確定性を含む最適化、アストロダイナミクス/軌道設計、最適制御など幅広くの分野に手を出しています。学部の目標として「なるべく広範囲の知識を得て、大学院でやりたい事のリストをなるべくたくさん作る」ということを掲げており、今のところは順調に興味の幅が広がっています。

学部で仲良くしている友人たちを見渡した時に、研究に時間を注いでいる人や博士課程進学を考えている友達は非常に少なく、殆どが学部(或いは5年で修士)卒業直後に就職をするケースが大多数を占めています。中には目を疑うような金額をひと夏のインターンで稼ぎ出すソフトウェアエンジニアの友人などもいます。しかし、そういった日本の大学生では見ることのない刺激が自分の将来への考えを深め、何故博士課程に行きたいかを再言語化することに繋がっていると感じています。人生の次のステップに向ける準備を着々とするためのサポートをしていただいてる財団には、心から感謝しています。

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

毎日コツコツやり続けることは常日頃から言い聞かせています。頭が回らない日、息抜きをする日など色々な形で言い訳が漏れそうになる非日常は訪れますが、10年後の自分が見て後悔しない努力の仕方をしたいなと思っています。「諦めがつけるほど努力をする」と言うとやや消極的で聞こえが悪いですが、他人と比べずに自分の渇きに対して一途にやっていくのが大事だなと常々思っています。

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

実はこの夏、NASA ジェット推進研究所(JPL)でのインターンの機会を頂き、土星の衛星エンケラドスへ向かう探査機の軌道設計(i.e., 太陽系のどこを宇宙機が飛んでいくか)を行いました。長らく「いつかは」と恋焦がれていた場所に学部3年の時点で到達してしまい、喜びを通り抜けたあっけなさを感じながら、妙な気持で仕事をしています。NASA JPLでの研究は心底楽しく(実際に飛ぶかもしれない宇宙機に自分の仕事が乗ることに何にも勝る満足感があります)、我武者羅に働いていたら論文を一本書けそうで非常に充実した夏休みになりました。

今夏イタリアでの学会にて。不確定要素(予測不可能な風)がある環境での飛行機の着陸軌道をデザインしました。

同時に、中期的な人生目標が達成されたことである種の夢が蒸発してしまった気持ちもあり、果たして本当にここが自分が将来働きたい場所なのか、ということをここ1か月ほどは逡巡しています。大学院の応募前に、「何故宇宙なのか」ということに対する自分の気持ちを今一度言語化する必要があるな、と感じています。

ここからの一年は受験生なため、過酷な学期になると思いますが、心身の健康を第一に頑張っていきたいと思っています。最後に重ねてになりますが、財団の皆様の日頃からの支援、本当にありがとうございます。

田久保 勇志 Yuji Takubo
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