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上野通明 さん
(チェロ)

読響 展覧会の絵 カサド:チェロ協奏曲

2019.04.27(土) 
東京芸術劇場

読売日本交響楽団 首席客演指揮者 コルネリウス・マイスター
上野通明(チェロ)

◆プログラム
プロコフィエフ: 交響曲 第1番「古典」ニ長調 作品25
カサド: チェロ協奏曲 ニ短調
ムソグルスキー(ラヴェル編): 組曲「展覧会の絵」

上野通明さんが憧れていたという読売日本交響楽団さんとの初共演。上野さんが演奏するのは、スペインが生んだ20世紀を代表するチェリストでもあり、日本人ピアニスト原智恵子と結婚したカサドによるチェロ協奏曲。幼少期をスペインで過ごした上野さんには自然と通じるものがあったようです。今回の演奏会にどのような意気込みで臨んだのか、その辺も交えてお聞きしました。

Q1.  カサドはスペイン生まれのチェリストであり作曲家。日本人の妻を持つ。そのようなバックグランドをもつカサドは、幼少期をバルセロナで過ごした上野さんとは何か通じるものがある気がします。いかがでしょうか。

A1.  幼いころバルセロナにいたので、少なくとも幼少期は同じ国で過ごしたこととなり、また奥様が日本人であるということから、日本という国が身近であるという共通点があります。バルセロナの地中海の鮮やかな海の色や雲一つない空、そこから遠く離れた日本という国の独特の文化に対するエキゾチックな印象、どちらも自分なりに共有できる気がします。

Q2. カサドはスペインで生まれ、同じくスペインで生まれでパリに移り住んだパブロ・カザルスに見いだされ、彼のもとで音楽を学んだとか。上野さんは、ドイツのデュッセルドルフ音楽大学に留学し勉強されています。ドイツとスペインは、文化も気候も随分異なるのではないかと思います。文化の違いは音楽にも表れるかと思いますが、いかがでしょうか。

A2. 文化の違いは音楽の違いに大きく反映すると思います。まず言葉の違いと音楽の違いが大変強く結びついていると思います。スペインはラテン系の言語、ドイツ語はゲルマン系の言語なので、全く違います。また、真っ青な空が印象的な地中海性気候のスペインと、日差しが貴重に思われるドイツとでは、人々の心持や性格も大きく違うと思います。根本的にそれぞれの国の作曲家の作品たちは大きく違うと思います。

僕はスペインから日本に来たばかりの小さい頃、今から思えば弾く曲はバッハは別として圧倒的にラテン系が多かったような気がします。(笑)(ボッケリーニ、サンサーンス、カサド、グラナドス、等々…)ベートーヴェンのソナタを最初にひいたとき、若干の戸惑いがあった気がしますが、勉強すればするほど、構成や和声の仕組み、理論的に構築されたドイツ物の魅力がわかってきて、今、その形の中で自分を表現する音楽の基礎となるようなものを肌で学べている気がするので、将来さまざまな作品に出合いながら、その土台に自由な感性を不安なく載せてゆくことができるのではと、財団様のおかげでドイツ留学を実現することができて本当に心から感謝しています。

Q3. カサドの協奏曲は、一般の聴衆にとってはなかなか聴く機会がないかと思います。この曲の魅力は何でしょうか。何を表現したいと思って演奏されていましたか。

A3. この作品はスペインと日本それぞれの国の印象がとてもわかりやすく聞きやすく盛り込まれており、時にはヒロイックにかっこよく、時にはエキゾチックにだれもが聴いて楽しめる作品になっていると思います。

何よりもカサドがカザルスの下で勉強することに対し奨学金などを出して全面的にサポートしてくれた自国への愛と、はじめは、奥様の原さんの母国である日本を意識して書かれたのだと思っていました。しかし、調べると年代的に奥様と知り合われるずっと前に書かれたものでしたので、当時まだ原さんと出会ってもいなかったはずのカサドが、将来の伴侶が日本人になると知ってか知らずか、強く持っていたに違いない東洋へのあこがれや興味、関心がとてもあたたかな愛情となってこの作品に表れているのではないかと感じました。

Q4. 読売日本交響楽団さんとは初共演とのこと。終演後、「いろいろと温かく接していただいて、大変勉強になりました。」とおっしゃっていました。チェリストにとって協奏曲をオーケストラと共演することは誇りであると同時に、緊張もされるのではないかと思います。また学ぶところも多いかと思いますが、いかがでしょうか。

A4. オーケストラと共演させていただけることは、チェリストにとって大きな喜びでもあり楽しみでもあり、もちろん緊張もするときもありますが、それ以上に自分一人では作りえない何か時別な大きな世界を、指揮者の方やオーケストラの皆様と一緒になって伝えられたかもしれないと思える時、言葉では言い表せない達成感や興奮、幸福感があります。

また、とても勉強になるのは、当然のことではあるのですが、同じ作品を演奏させていただいても、共演する指揮者やオーケストラによって、解釈やフレージング、細かい色々なところが異なり、その都度新しい発見があります。でも、何よりびっくりするのは、オーケストラによって音がそれぞれ違うということです。一つの楽器を弾くことが人によって音色が違うのはわかるのですが、オーケストラにはいろんな楽器の人がいるので、それが全体に混ざって、オーケストラの音、となるのだと思いますが、それがそれぞれのオーケストラによって全然違うのが今自分にとってはとても興味深いことです。

読響さんご提供

Q5. デュッセルドルフ音楽大学での勉強も4年目に入り来年は卒業されるのでしょうか。入学した当時と比べ、ご自分はどのように変わったと思われますか。また今後、どのような方向に進んでいきたいとお考えですか。

A5. 19歳でドイツに来てから、毎日夢中で過ごしているうちに、本当にあっという間に4年目となってしまいました。自分は語学の準備が間に合わず、まず最初にコンツエルトエグザメンという普通最後に取るコースに入学してしまったので、初めの二年は濃厚な実技のレッスンを受けながら日本と毎月行き来し、少しずつ向こうの言葉や風習になれていった感じでした。

一昨年エグザメンを無事首席で卒業し、まだまだ学びたいことがあるので、順番が逆になってしまいましたがドイツ語の資格も取り大学に入ることができましたので、卒業するまで実際にはあと二年かかります。でも、自分の歳にはもう社会に出ている友人も多く、いつまでも学生の身に当たり前のように甘んじているのはよくないと考えつつも、今しか学べないことを夢中で学び、できる限り沢山の経験を得て悔いなく過ごし、5年、10年先の自分が一生更にどんどん進化していけるように大きな土台を作りたいと思っているところです。

入学して一番変わったものはやはり演奏だと思います。まだまだだと思う部分を納得できるところまで磨き、沢山の好奇心を持ちながら人間としても演奏家としても、もっともっと幅を広げたいです。

Q6. 音楽の勉強も楽しい時ばかりではないかと思います。ご自分のモチベーションを上げ、奮い立たせるものは何でしょうか。

A6. ステージで稀にですが、信じられないことができて言いようのない幸福感を味わうことができるときがあります。その時のことを思い出したり、そうなることを想像することが自分にとっては唯一の原動力なのですが、たまに、それが永遠に見えないような気がしてしまうときがあります。そういう時は、本番の後に、旅行に行くとか映画を見に行くとか、おいしいものを食べるとか、何か具体的に楽しい事をする予定を立て、何とか自分を鼓舞します。

Q7. 時間がぽっかりと空いた時、気分転換をしたい時、何をされていますか。

A7. ただただボーッとしたり、好物の美味しいチョコを食べてパワーを充電したり、散歩をしたり、本を読んだり、ゲームもします(笑)

上野さんはとても感性鋭く、好奇心旺盛。日々いろいろな発見をし、経験をし、それを全て自分の成長の糧としているように感じます。そのような濃い毎日を過ごし、5年後、10年後の進化の土台にしたいという上野さん。どのような進化を遂げるのか本当に楽しみです。応援しています🎻