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岡本 侑也さん
(チェロ)

クリスチャン・ツィメルマン 室内楽プロジェクト ブラームスを弾く

2019.10.17(木) 19:00
サントリーホール

ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
ヴァイオリン:マリシャ・ノヴァク
ヴィオラ:カタジナ・ブゥドニク
チェロ:岡本侑也

◆プログラム
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第3番 ハ短調 Op.60
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調 Op.26

10月17日(木)サントリーホールで素晴らしいコンサートが開かれました。クリスチャン・ツィメルマン氏がピアノを弾き、岡本侑也さんがチェロを弾く室内楽です。曲はブラームスのピアノ四重奏曲。イタリアのペーザロ、ミラノ、クレモナでコンサートを行った後、日本では兵庫、福山、そして最終日のサントリーホールと続きました。

終演後、このツァーコンサートに関すること、留学生活に関すること等、いろいろなお話を岡本さんに伺い、とても興味深い回答をいただきました。

Q1. 四重奏曲を聴いていて「一体感」という言葉が浮かびました。それぞれの楽器から生まれる音色、旋律が溶け合って一つの美しいものを創り上げているように感じました。これはやはりツァーで、各奏者とたくさんの一緒の時間を過ごしたからでしょうか。ツァーは、移動もあり、何度も本番があり大変かと思いますが、更に作品が深まるような気もします。ツァーをどのように感じていらっしゃいますか。

A1. この1ヶ月間、計6つのコンサートがあったのですが、本番の無い日も、ほぼ毎日濃密なリハーサルを行い、その日その日で微細な調整を重ねておりました。リハーサル以外の時間も、毎日の食事や、空き時間のちょっとした観光、そして都市間の移動の時間など、ご一緒させていただく時間は長く、本当に貴重な交流の時間となりました。やはり、皆さまのお人柄を存じ上げた上でアンサンブルができますと、音楽上のコミュニケーションにも大きな違いが出るように思います。

ペーザロにあるテアトロ・ロッシーニ (写真は全て岡本さんご提供)


Q2. 舞台袖に入る時、ツィメルマン氏が岡本さんの背中を優しく叩いていましたね。また最後も固い握手を交わしていらっしゃいました。巨匠ツィメルマン氏とはかなり年が離れていますが、素顔はどんな方なのでしょうか。

A2. 大変紳士的で正義感に溢れ、同時に絶妙なユーモアに溢れて、とてもフレンドリーな方です。普段から、年齢の差など全く感じさせること無く、とても気さくに接してくださいました。

ペーザロにあるテアトロ・ロッシーニでのコンサートのポスター

Q3. このような素晴らしい演奏者とリハーサルを重ね、イタリアで3回、日本でも3回演奏されました。この期間を通じて得たこと、経験したことは大きかったのではないかと思いますが、如何でしょうか。

A3. ツィメルマン氏をはじめ皆様との演奏を通して、自分の中での音楽のスケールの大きさに対する意識がまた変わったように思います。そして、クラシック音楽そのものがこんなにも豊かで素晴らしく、尊いものであるんだということを改めて実感致しました。

リハーサルや本番で体験させていただいたことは、ブラームスのカルテットに限らず、ほかの楽曲にも通じることが沢山あったので、他の場面でも今後応用していくことができるように、肝に命じて精進して参りたいと思います。

ペーザロにあるテアトロ・ロッシーニ
ミラノでのコンサートのポスター

Q4. 最終日のサントリーホールでのコンサートでは、聴衆の皆様はスタンディングオベーションでしたね。皆様、とても幸せな一時を過ごされたのだと思います。ツァーの最後を迎えて、聴衆の皆様の大きな拍手を受けて、何を感じていらっしゃいましたか。

A4. この1ヶ月は、自分のキャパシティを広げるための作業が続きました。その最中は限界に直面して辛い瞬間もありましたが、一つ一つの本番を終えていくごとに、その先に見える景色がだんだんと変わっていく実感がありました。

特に最後のサントリーホール公演では、言葉だけでは言い表しがたい、喜びに満ちた達成感に包まれました。本番が終わった今も、ポジティブなモチベーションに溢れて、音楽との向き合い方が変わったような気が致します。このような素晴らしい機会をいただき、心から感謝しております。

クレモナでのコンサートのプログラム
クレモナにあるヴァイオリン博物館内のホール

Q5. 2013年にミュンヘン音楽演劇大学に入学し、2017年には首席で卒業され、大学院に進まれました。入学してから早6年。ミュンヘン音楽演劇大学はどんな大学でしょうか。この6年はどんな6年でしたか。また今後この大学での留学生活をどのように過ごしたいと考えていらっしゃいますか。

A5. こちらでの生活は、この秋から7年目に突入しました。音大の先生方は、素晴らしいレッスンをしてくださったり、時にはレッスン以外のことでも親身に相談に乗ってくださったりして、その都度自分にとって一番良い方向にいつも導いてくださいました。有難くも大変面倒見の良い先生方に恵まれました。そして門下生は家族のような、温かい絆で繋がります。この音大はとても居心地が良く、落ち着いて勉強に集中できる環境が整っていると思います。

今年7月に大学院(ソロ科)を修了したのですが、室内楽科という別の科で再び大学院に進学し、大変素晴らしいヴァイオリニストとヴィオリストとの仲間と弦楽トリオを組むことになりました。今まで室内楽を固定のメンバーでじっくり勉強する機会が無かったので、今回長いスパンをかけて、アンサンブルに取り組むチャンスをいただき、大変有り難い気持ちでいっぱいです。室内楽を集中的に勉強し、その経験やノウハウを、自分のソロの活動にも活かしていきたいと思っております。新しいことを沢山吸収して、自分の表現の幅を広げることができるように、日々音楽と向き合っていきたいと思います。

岡本さんが通うミュンヘン音楽演劇大学

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このツァーは、9月29日に イタリア、ペーザロにあるテアトロ・ロッシーニで開かれたコンサートを皮切りに、10月1日 はイタリア、ミラノにあるミラノ音楽院、10月3日 はイタリア、クレモナにあるヴァイオリン博物館 室内楽ホールで開かれ、日本では10月12日に兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール、10月14日はふくやま芸術文化ホール リーデンローズ、そして最終日の10月17日はサントリーホール、と続きました。

この間、岡本さんは移動、リハーサル、本番、すべての瞬間において多くの得難い貴重な経験を積まれたようです。それも岡本さんのすべてを吸収したい、チェリストとして引き出しを広げ大きくなりたいという真摯な姿勢と意欲の賜物なのでしょう。「一つ一つの本番を終えていくごとに、その先に見える景色がだんだんと変わっていく実感がありました。」この言葉が物語っているようです。また一回りも二回りも大きくなった岡本さんの演奏を聴きたいと思います。