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山口 茜 インタビュー│東京2020オリンピック

世界での活躍を目指し、ハードなトレーニングを積み重ねてきたスポーツ部門奨学生/助成対象者がこの度晴れてオリンピック代表に選出されました。競技やオリンピックにかける想いについて、他部門奨学生がインタビューを実施しました。

 


山口 茜
43回生 東京オリンピック特別助成対象

●出場種目
7月24日〜8月1日│バドミントン女子シングルス

スポーツ部門の奨学生に直接お話を伺える機会をいただき、大変嬉しく思います。オリンピック日本代表選手のお話を聞くことで、スポーツとデザインの繋がりや、自分で持ち得なかった新たな視点の発見を期待し、インタビューの実施を希望しました。 

山口さんについて印象に残っているのは、山口さんの落ち着きと真摯な態度です。真っ直ぐ画面を見ながらゆったりと話してくださる山口さんの姿につられて、私も自然と肩の力を抜き、緊張せずに次々話題を投げていくことができました。事前共有済みの質問には筋の通った回答をいただき、山口さんがインタビューに向けて準備してきてくださったのだと気づきました。そんな真面目で誠実な山口さんの魅力を、文章を通して少しでもお伝えできれば幸いです。

【インタビュアー:アート部門48回生 合田 結内奈
ロンドン大学ゴールドスミス校・デザイン学部所属。「コミュニケーション」を主なテーマとして、さまざまな分野のデザイン作品を制作する。

ーー自分と観衆が「楽しむ」ことができるかどうかをモットーにプレーするとのことですが、「楽しむ」ことを重要視するようになったきっかけはあるのでしょうか?

山口 : ひとつは、親の教育方針や、小中学生の頃に通っていたジュニアクラブの指導方針が「バドミントンを楽しむ」が一番だったことです。幼いときから周りに「まず楽しむ」という考えの方がたくさんいたので、それが自然と身についていったのかな、と思います。

もうひとつは、日本代表になって責任のある立場になったときに、勝つことを意識しすぎるとあまり良いプレーができなかったことにあります。「バドミントンという競技を楽しもう」と思ったときに一番良いプレーができて、結果も残せるということに段々気づいてきたので、そういった経験もすごく大切にしています。

ーー個人的に、特に楽しむ事ができた試合があれば教えてください。

山口 : 2014年、高校2年生のときのヨネックスジャパンオープンという日本国内で唯一開催される国際大会の1回戦で、当時世界ランキング1位の中国人選手と対戦した試合です。世界トップの選手とけっこう良い勝負ができて、自分らしさも出せました。負けてしまったけど楽しかった、というのが自分の中ではすごく印象に残っています。

ーー一番辛い/しんどい練習はなんですか?そんなとき、どのようなことを思い、考えると頑張れる/乗り越えられるのでしょうか?

 

山口 : バドミントンをトップレベルでプレーするにあたって、体づくりがさらに大切になってくるんですが、私は走り込みやウェイトトレーニングなどバドミントンに直結しないトレーニングが少し苦手だなと感じてしまいます。でもそれをしっかりやることで、直線的ではなくても成長を実感できた成功体験があるので、「もう一回頑張ろう」と思えます。

ただ、自分で今の状態に満足していると練習を妥協してしまうので、そういうときはいつも応援してくれてる方やサポートしてくれてる方が「これを頑張ったら良い結果が出て喜んでくれる」と思い出して、あとで後悔しないようにちゃんとやろうと思います。

 

ーーそういう時に思い浮かべる人は、どんな人ですか?

山口 : 例えば直近でしゃべった人であったり、バドミントン教室で「がんばれ!」と応援してくれた子供たちですかね。ちょっとトモダチ感覚で応援してくれて嬉しいんです。

ーーコロナ禍で新たに取り入れたこと・変わったことはありますか?

山口 : 練習で新しく始めたことはありません。日常生活もインドア派なので、特別変わったことはないですね。もともとシングルス種目ではコートに大人数入ることも少なくて、メインの練習はあまり変わらない印象です。

プライベートではひとりの時間が増えて、いろいろなことに対して改めて考える時間も多かったな、という風に思います。でも結局たどり着くのは、やっぱり、当たり前は当たり前じゃないということや、普段からいろんな人に支えられてバドミントンや生活ができているというところなので、これからも感謝してやっていかなきゃいけないと何回も考えました。

ーーバドミントンの本質とは何なのでしょうか?個人的な見方を教えてください。

山口 : これはすごく難しくてですね…バドミントンだけに当てはまることがない分すごく難しくて、ラケット競技で言えばテニスや卓球に対しても同じようなことが言えるんじゃないか、とか、スポーツ全体でみても、本質、って言うと同じなのかな、っていう感じはあって…。

バドミントンはまず道具を使うので、道具と一体化する能力はすごく大事だと思います。相手との駆け引きもあるので、考えを瞬時に表現するというのもすごく大切です。その中で、ミスをしない「リスク管理」や、得点をする「自由な発想」、というか、相手の意表をつく想像力や感性が、いわゆる才能って言われる部分なのかなと思うので…

山口さん「うまくまとめられないんですけど…」

この質問すごく難しいなと思って、質問いただいたときにバドミントンの本質とかスポーツの本質について検索してみました。

一番最初に「スポーツの本質は遊びである」っていうのが出てきて、それがすごく自分の中ではしっくりきています。最初は自分も遊び感覚でバドミントンを始めて、競技としてやる、というのはだいぶ大人になって日本代表に選ばれた頃やっと自覚とかが出てきた感じでして。やっぱり「バドミントンは趣味」というか、楽しみたいという気持ちが強いんです。でもひとりではできないので、相手に対する敬意や周りに対する感謝、ルールを守ることなど、その遊びのなかでたくさん学んで、人生を豊かにしてくれるようなもの…というのがしっくりきています。

ーー最後にオリンピックでの目標を教えてください!

具体的なものでいうと、前回のリオオリンピックがベスト8/ 5位入賞だったので、それ以上に入れれば個人的には成長を実感できる結果になると思います。

でもそれ以上に、自分自身が楽しくプレーをすることです。リオオリンピックでは試合後のインタビューで泣いてしまって、とても恥ずかしい思いをしたので、今回は笑顔で終えられるような大会にしたいです。プレー面では、いつも応援してくれる方や、試合を見ていただいた方に、元気とか勇気、「明日頑張ろう」と思えるようなプレーをお届けしたいな、と思っています。

趣味の漫画についてお聞きしました。共感できる現実味のあるアツい作品が好みなのだそうで、「自分はそんなに感情を表に出さないので、良いなあ…」と思うそうです。では、山口さんの心の中ではアツい心が煮えたぎっているという事でしょうか?と聞いてみると、「そう思っていただけると幸いです…」とご回答いただきました。
写真:左/山口 茜 右/合田 結内奈
【インタビューを終えて…】
山口さんの「試合を楽しむ」というプレースタイルは、バドミントンの中に限らず、山口さんを構成する重要な人生のモットーとして存在しているように思えました。常に目の前のことをどう楽しめるか、またそこから何を学べるか考え続ける姿勢が、山口さんの語る「スポーツは遊びである」という本質の解釈に繋がっているのではないでしょうか。

そして、山口さんは人々の声援をモチベーションに変換し、糧にする事ができる人なのだと理解しました。さまざまなサポーターの想いを背負って戦う山口さんが、少しでも今後を楽しめるよう応援したい。オンラインでの取材が終わった頃には自然と、山口さんの笑顔の試合後インタビューを願うようになりました。記事をご覧の皆さまも、良ければ一緒に山口さんの活躍の応援をお願いいたします!

(取材日:2021年6月28日 文:アート部門 合田 結内奈 )


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