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部井久 アダム 勇樹 インタビュー│東京2020オリンピック

世界での活躍を目指し、ハードなトレーニングを積み重ねてきたスポーツ部門奨学生/助成対象者がこの度晴れてオリンピック代表に選出されました。競技やオリンピックにかける想いについて、他部門奨学生がインタビューを実施しました。
 

部井久 アダム 勇樹
第47回生

●出場種目
7月24日〜8月7日│ハンドボール

部井久アダム勇樹さんのことは江副記念リクルート財団のホームページで知りました。ハンドボール競技には、激しいフィジカルコンタクトや空中でフェイントを入れてからのトリッキーなシュートなど、ダイナミックなスピード感に魅力を感じていました。世界トップレベルのフランスのリーグで戦っていた部井久選手に対しては、心から尊敬の念を抱いており、対談の機会を作っていただいた際にはとても嬉しかったです。

【インタビュアー:学術部門48回生 岸上 知志
現在オックスフォード大学に所属し、ウイルス粒子の構造や挙動に関する研究を行なっています。今回のインタビューでは世界トップレベルのアスリートのお話を伺うことができる貴重な機会にチャレンジしました。

ーー試合の前に行っているルーティーン(試合前の食事やウォーミングアップ中の集中力を高めるための儀式など)があれば教えて欲しいです。

部井久 : そうですね、なんかありきたりなのですけど、試合前は音楽をよく聴いています。気持ちにスイッチを入れられるプレイリストを作っているんです。最近だと洋楽ではラップ、日本でもハマっているバンドの曲を爆音で流して試合に挑んでいます。試合中はアドレナリンもすごく出て後で覚えていないほどプレーに夢中になってしまうこともあるので、こみ上げ過ぎる興奮を抑えて周りも見渡せるよう意識しています。自分より大きい相手に向かっていくにはファイトが必要ですが、そこでいっぱいいっぱいにならないようにしなければいけませんから。

ーーオリンピックに出場するハンドボール日本代表の他の選手や、海外の選手で、目標にしているプレイヤーがいたら教えて欲しいです。

部井久 : 同じチーム内だと、年齢が近くて今ポーランドリーグでプレーしている吉田守一選手と徳田廉之介選手。僕もフランスでプレーしていたこともあるので、この二人には負けたくないというのはあります。一緒に日本代表として試合に出ているときは、逆に自分たち若い世代で日本を引っ張って行きたいという思いが強くあります。


ーーハンドボール以外の種目のアスリートで、影響を受けた選手がいたらぜひ知りたいです。

部井久 : サッカーの長友佑都選手です。まだ小学生だった頃に母親が長友選手の「日本男児」という本を買ってきてくれて、大きな影響を受けました。長友選手は無名時代からすごい努力をして認められてきた人です。これだけ頑張っている人がいるのだから、自分もやらなければならないという気持ちにさせられました。『自分はサッカーの天才ではないけど努力の天才だと思う』という長友選手の言葉に特に影響を受けました。

ーー海外のプロチームでプレーしてきたご経験から、海外と日本の違いや、良い点/悪い点などあれば教えてください。

部井久 : そうですね、海外では基本的に企業チーム所属ではなくプロリーグチームの選手となるので、そこの違いは大きいと思いました。ハンドボールの結果が自分や家族の生活に直結してくるので、練習中から競争心というか闘争心が強いんです。負けたら終わりだ、とかなり意識していて、試合前の顔つきや目の色が全然日本とは違うと思いましたし、そういった負けん気とかがないとあのレベルまでにはいけないなとも思いました。

試合中の当たりの強さには、最初は慣れるまですごく大変でした。でもそれが海外のスタンダードなので、日本選手はフィジカルコンタクトのレベルも上げていかないといけません。掴まれてユニフォームが破けることも日常茶飯事。実際は反則にはなってしまうんですけど、勝利にこだわる意識が大事なのかなと思います。あとは、審判のジャッジの基準を海外のスタンダードに合わせていくことも、競技力の向上には必要だと感じました。審判の笛によってプレーも変わります。海外と日本の比較で、反則と取られるか取られないかの違いは大きいです。

ーー今年1月、エジプトで開催された世界選手権の直前にケガをされたと聞いています。気持ちをどのように立て直されましたか?

エジプト入りしてからの代表合宿は、チームも自分もとても調子が良かったんです。なのに大会2日前に左手の甲を骨折してしまい、人生で最も落ち込んだと言えるほどショックを受けました。ホテルは仲のいい選手との相部屋でしたが、雰囲気があっという間に地獄に。

自分がいることでチームに悪影響を与えたくなかったので、監督にすぐ帰国を申し出ましたが、逆にチームのために残ってくれと言われました。チームのためにできること、その意味を考えるようになってサポートに徹することができました。

結果、日本代表は予選を勝ち残ってメインラウンドに進む結果を残せました。サポートができて良かった、とは思いましたが、それ以上にコートに立てなかったことがとても悔しかった。その気持ちが、よりトレーニングを頑張れるモチベーションになっています。

ーーハンドボール日本代表チームとしての目標とは別に、個人として今回のオリンピックで目標にしていることは何かありますか?

部井久 : 数字的な目標は決めていないのですが、持ち味のシュート力を発揮したいです。男子日本は34年ぶりの出場で、予選リーグ初戦から世界王者のデンマークと当たるなど、厳しい戦いになります。ただ、その中で自分のシュートが世界トップにも通用することを証明したい。全試合に出場して全試合で得点することがまず目標です。また、ここ1、2年の間で自分のディフェンスの成長を感じていて、チーム内で任されることが増えてきました。チームにデフェンスでも貢献できたらと思っています。なるべく長く試合に出たいですね。

写真:左/部井久 アダム 勇樹 右/岸上 知志
【インタビューを終えて…】
オリンピック前のとても忙しい時期であったのにも関わらず、部井久さんはとても親切に落ち着いてこちらの質問に答えてくださり、ハンドボール選手としての世界トップレベルの能力だけでなく、人格の高潔さも兼ね備えた素晴らしいアスリートだと思いました。日本のアスリートが海外で活躍するための課題など、一般にも広く通用するお話が聞けたと感じています。オリンピックに出場されるハンドボール日本代表チームと部井久さんを心から応援したいです。

(取材日:2021年7月2日 文:学術部門 岸上 知志)


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