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奨学生活動レポート

art

2021.10
鈴木 友里恵 Yurie Suzuki
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――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

社会の変化を独自の視点で切り取ることはもちろんのこと、社会にインパクトをもたらす科学技術とも制作テーマでうまく付き合えるような力のあるアーティストになりたいと思っています。
もともと高校までは好きで作品を作っており、体系的な美術教育を受けたこともありませんでした。高校までは趣味で絵を描いていましたが、一度プロに評価される機会を持ちたいと思いアメリカの高校生が大学の単位をとるAPというプログラムで2-D Designを選択しそこで初めてテーマを持って作品集を作ることを求められたんです。

その作品集のテーマのリサーチで大阪大学が人間に限りなく近い見た目のロボットを発表したニュースを知りました。その発表されたロボットの画像を見た時、「これもアートじゃない!?」と衝撃を受けたんです。それまでアート=絵画・彫刻というイメージがあったので、そのヒューマノイドのデザイン性・技術性・新規性が融合した見た目は一気に私の中のアートのカテゴリを広くしてくれました。

当時は高校3年生でしたので、大学の研究室が取り組むようなテクノロジーと美術が融合した作品を追いかけるには知識・技術面で無理がありました。それでもアートを実践する者として「ロボットのどのような要素が、私たちに親近感をもたらすのだろうか?」という問いは立てられると思ったんです。当時は紙にイラストを描くくらいしか自信のある技法を持たなかったため肝心の表現手段としては、イラストレーションボードにインクで手書きをしました。この時、ロボットとその社会的影響をテーマに作品を作った経験が、現在アートやデザインの分野から社会の変革やそのインパクトをもたらす技術にアンテナを張る態度の土台になっていると思います。

高校3年次にAP-Artで取り組んだ制作物 この作品を含むグラフィック作品でヒューマノイドという技術を考えた経験が現在アート・デザインの分野においてもテクノロジーから逃げないという気持ちにつながっています。

学部はアートと技術、社会課題をバランスよく考えられる美大が思い浮かばなかったため総合大学に進みました。現在はRoyal College of Artに在籍していますが、RCAを知り進学を決意したきっかけには大学3年次に卒業生のスプツニ子!氏の講演をお聞きし、彼女のようなアーティストを輩出した大学は一体どのような場所だろうと興味を持った出来事がありました。スプツニ子!氏が在籍した学科は残念ながら現在残っていないのですが、学科では当時スペキュラティブデザインの分野で教鞭をとった先生にもご指導いただいています。
授業では学科を超えた生徒同士の意見交換の場が多く、学び舎としてのRCAの懐の広さを感じる瞬間がたくさんあり改めて学ぶ機会を得ることができて本当によかったと思う毎日です。

――日常生活、生活環境について

私が入学した年は世界的に新型コロナウイルスを鑑みフルリモートの年でした。
RCAは美大ですが多くの学生が自宅での制作を余儀なくされ私の学部も約半分が自国に留まりイギリス時間で授業を受けていると言った状況でした。入学時の学長のスピーチでも、第二次世界大戦時RCA生が疎開を余儀なくされた時のエピソードを引用するほど世界中に在校生が散らばった状態からの奇妙なスタートでした。

私も例にもれずイギリス時間に合わせて生活し、夕方6時ごろから授業出席し深夜2時ごろに解散する生活が続きました。印象に残っている授業はたくさんありますが、中でもRCAのデザインスクール伝統のデザインコンペ参加が外せません。RCAのデザインスクールには毎年世界規模の課題をテーマに選びデザインスクールの修士生(例年約400名前後)総出でアイデアを競う4週間の通称・Grand Challengeというプログラムがあります。配属されるチームが発表される1日目と、そこから4週間後にはテーマに沿ったデザインのプレゼンを完了させなければならないタイトな内容で、1日何時間取り組むか、いつ取り組むかはチーム完全に委ねられているところがポイントです。このためGrand Challenge参加の4週間が、考える時間も1日の作業量も多く入学以来もっとも過酷だったと記憶しています。RCAではデザインスクールに所属していてもファイインアートなど学科外の授業やアーティストトークを聞く機会も豊富です。しかし、普段インプットした分のアウトプットを求める厳しさがある点や、実績のある先生方が評価しフィードバックしてくださるところも学生生活ではやりがいに感じています。

 

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

将来アーティストとして活躍していくイメージを膨らませるために、情報収集は怠らないようにしています。リクルート財団は事務局と奨学生の間でリクエストしやすいフラットな関係があることが強みだと感じており、先日も事務局とアート部門の審査員の先生方のサポートを経て大学卒業後のアーティストの活躍を考えるトークイベントを実施できました。大学院から美大に進学したため、周りのロールモデルの少なさは少しハンデに感じていましたが、トークイベントを主催してプロの方の考え方を聞いたり現役アート部門奨学生同士でも月に1度近況を雑談し合う時間を持つことで今後の活動イメージを膨らませる時間を作っています。

アーティストの進路を考えるため、アート部門現役奨学生達と企画したトークイベント。実施には財団事務局スタッフの皆様や審査員の先生方に多大なご助力をいただきました。

制作面においては、RCAの非美大出身者の学生や先生が集まった環境で様々な専門に気軽に相談できる雰囲気に助けられています。毎日自分の所属以外の学部からもネットワーキングやトークイベントの案内が届くためできるだけ、自分の制作や研究で方法に行き詰まっているときはこの機会に博士生やゲストの先生に相談しに行きます。他にはアーティストには意外に思うかもしれませんが、学会やカンファレンスに出ることも制作と同じくらい重視しています。これはアート・デザインの分野から科学系の専門分野とコラボしていく際、アカデミアの作法や交流の仕方を知っておくことが将来的に制作やリサーチで助けになると考えるためです。他にも、美大以外の学生と交流できるコミュニティーに最低1つは属していることもふとした会話がアイデアの種になったりするため、制作や研究の下準備と捉えています。実際に、学外ではNPOに所属しており宇宙物理や機械学習を専攻する国内の大学生とNPOの仕事を通じて交流できていることは自分の強みに感じています。

色々なポイントを交えましたが、基本的に何か興味のあるニュースやテーマが見つかった時すぐに反応できるようにアンテナをたくさん張っておくよう日々心がけています。アートやデザインに無駄な知識・生かせない知識はないと思います。こうした日々のインプットの蓄積をすることで、ある日アイデアになって浮かんで来る瞬間があることが今の私の学生生活の魅力です。

 

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

大学院入学をきっかけにアート・デザインの世界に入ってまだ1年しかキャリアがないため、制作のスキルはどんどん鍛えていきたいと思っています。直近ではTouch Designer やプロジェクションマッピングを作品に取り入れたいと思い、研究の合間に大学のテクニカルサポートを利用してソフトを練習する日々です。

最近取り組んでいるTouch Designerのサンプル画面、マイコンボードから光学式心拍センサーのデータを送りTouch Designerで描画を試している。

制作面だけでなく、アート部門の奨学生とも距離は離れていますがアーティスト同士の交流を続けていきたいと思っています。単に交流で終わるのではなく、長期的に展示や若手のアーティストの活躍を盛り上げていく仲間として将来共に仕事ができたらこんなに嬉しいことはありません。

今年度は何もかもが手探りでしたが、来年からは状況を見て国外のアートフェアやコンペにどんどん進出していきたいと思っています!

鈴木 友里恵 Yurie Suzuki
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