――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
将来の夢、という大義を明確に持っているわけではないのですが、学問や芸術に関わる様々なことが日常の一部となるような生活を送ることを持続的に可能にしていきたいと思っています。今はそのために必要なことや、そもそも自分は具体的に何をして生きていきたいのか、この資本主義社会の中でその理想とどう折り合いをつけていくのか、といったことを模索している過渡期にあると認識しています。
私が今の学校を選んだのは私がまだ小学生の頃だったと思います。当時から絵を描くことが好きで、美術やデザインの領域にも関心を寄せていました。その頃は大学の事情などもよく知らず、ただ大学ランキングでトップの美大ということからセントラル・セント・マーティンズに憧れたのが始まりでした。当校はDysonの創業者であるジェームズ・ダイソンや、コンランショップのテレンス・コンランなどの著名なデザイナーを多数輩出していることから、当初はそこでデザインを学びたいと思っていたのですが、その後芸術に特化した高校に入学しデザインを専攻しはじめてすぐ、デザインよりもアートの方が自分に合っていると感じるようになり、ファインアート専攻に進むことを決意しました。
――日常生活、生活環境について
ロンドンで暮らし始めてもう4年目になりますが、ここは良い意味でも悪い意味でもニュートラルというか、プレーンな味の場所だと感じます。そのような感覚はどことなく「グローバルスタンダードとしてのヨーロッパ」というようなユーロセントリックな歴史観やコロニアリズムの反省、極めて個人主義的な価値観の根強い場所といった背景が入り混じっているからのような気もします。反対に東京は非常にうまみの効いた味わい深い場所です。でもだからこそ、自分で味をカスタマイズすることはできず、気がつけばそのうまみに飲み込まれてしまいます。それに家族や友人もみんな東京にいて、そこでは既に私という人間がどういう存在なのか、といったことが周囲に認識・評定(キャラクタライズ)されてしまっている。
一方こちらではそういうことが一切定まっていない。良くも悪くも私のことを誰も知らず、1からのスタートが切れる。そういう意味でもヨーロッパは色々なことを自分で調節できる場所だと思います。また、ロンドンには東京のように破格で外食が出来たり、風情ある喫茶店を巡ったり、気軽にショッピングしたりという環境はありません。街に出ればあるのは薄暗いバーやだだっ広い公園ぐらいなもので、まあやることがない。受動的にamuse—楽しめる場所が非常に限られているのです。これは一見悪いことのように聞こえますが、裏を返せば自分に向き合い、自分のしたいことに集中できる環境があるというふうにも言えます。そういった環境に若いうちから身を置けていることは非常に良かったなと個人的には感じています。そしてそのプレーンさは、大学内でも同様です。先生たちは基本的に何も教えてはくれません。自分でどうするか、本当に文字通り全て自分で決めなければならない。課題もいつから取りかかるかも自分次第だし、そもそもやるかどうかですら自分次第です。大学側は落第しようが留年しようがお構いなしです。放任主義というのは一長一短で、今挙げたようなとても残酷な側面も持ち合わせてはいますが、その性格を理解し自分で主体的に物事を選択・対処していくサバイバル能力を養うことができれば、それは人生のさまざまな局面において応用可能な強い武器になってくれるのかもしれません。
――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
前述の通り、叶えたい明確な夢があるわけではないのですが、強いて言えば学術や芸術と関わりを持って生きていくために、経済及び時間的な自由を手に入れ、余裕を持って過ごせる状態を継続させることに努めています。私が色々な国へ旅行しているのもその取り組みの一環であり、同時にその取り組みの成果でもあります。いまは新しいものを見たり経験したりし、様々な価値観に揺さぶられ、すべてを吸収する時期です。また、美術という自分の専門領域を超えて、言語や政治、社会学、経済や哲学をはじめとした学問を通しての学習や、その知識を抽象化し自分の制作に当てはめたり、個別の課題に適用したりする能力を養おうとしています。
――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
来年はついに今の大学を卒業予定ですので、まず学部の卒業と院の受験が今年1番チャレンジングなことになると思います。双方共に早急に取り掛からなければならない喫緊の課題としてあり、また結果次第では未来が大きく変わる故、先行きの見通せない年になると予想しています。
また、以上のチャレンジを達成するためには、課題や目標を明確化、またそれを理解し、達成のための逆算(プランニング)が重要になってきます。自分がいま持っている手札—選択肢を落ち着いて比較検討し、選択を迫られるあらゆる局面において冷静沈着に、そして主体的に責任感を持って選択をしていくこと、その重みある一つひとつの選択を蓄積していくこと、それを一年の抱負としたいと思います。