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卒業レポート

academic

2022.09
小谷航平
第45回生 - ジョージア工科大学院
卒業後の進路:Astroscale

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・専攻分野について
 江副記念リクルート財団からご支援していただいたのは6年前からになります。高校生のときは将来宇宙開発に携わりたく、宇宙開発を学ぶならば最先端を進んでいる米国で学ぶことが最も近道なのではないか、と思い米国大学進学を決意しました。同時に当時から、フェアトレードなどを通して国際関係のことにも興味があったため、エンジニアと他の分野を学ぶことができるリベラルアーツ・カレッジで学ぶことにしました。その中でもGrinnell CollegeはSTEMの大学院進学率が高く、アイオワという場所も体験してみたいと思いGrinnell Collegeで4年間を過ごすことにしました。
 Grinnell Collegeでは物理とコンピュータサイエンスのダブル専攻にしました。リベラルアーツ・カレッジには基本的にエンジニアリングの専攻はなく、自分のしたいことから最も近い専攻を選択することになります。僕は電子回路とソフトウェアを専門にしたかったため、最も近い専攻は物理とコンピュータサイエンスになりました。Grinnell College在学中には宇宙開発スタートアップ、日米の大学研究室でのインターンシップをすることができ、現場での体験ができました。ドローン製作のクラブも立ち上げ、ハードウェアを含めたドローン制御の難しさも身をもって感じることができました。4年次にはFPGAを使用したIndependent Researchをすることができ、そこでFPGA開発の基礎に触れることができました。ここでのFPGA経験が、大学院でのFPGAを活用した研究につながったと思います。
 Grinnell Collegeでは当初の目標通り、専門的なことを学び、経験しながらもリベラルアーツらしく、専門分野以外のことも多く学ぶことができました。エンジニアリングには直接関係なくとも、人生を豊かにしてくれる考え方、価値観に触れ合うことができたと感じます。
 大学院ではGeorgia Techのエアロスペース、修士課程に進学することができました。修士研究では光ファイバーを使用し、小型衛星用の高速、小型通信システムを実装しました。実装にあたりFPGAを使用しての開発が主で、FPGA開発のノウハウはたくさん身についたと思います。半導体不足のあおりを受け、必要だった開発ボードを手に入れることができませんでしたが、Raspberry Pi Compute ModuleとFPGA間をPCIe通信で行うことで何とか代替することができました。代替品だったためベストな結果を得ることはできませんでしたが、PCIeとOS関連の知識は意図せず身につきました。

開発したハードウェアの外観


 大学院に来て痛感したことは、エアロスペースでハードウェアが関わる研究は基本的に留学生は関われないという現実でした。エアロスペースは国や軍からの資金が多く、Stipendを貰いながらの研究は留学生には現実的ではなさそうです。僕が自分の好きな研究をできたのも、国や軍からの資金に頼らなかったからでした。江副記念リクルート財団皆様からのご支援があったからこそ、自分が本当にやりたい研究に2年間没頭することができました。とても有り難いです。6年間ありがとうございました。
 8月からは東京で宇宙開発のスタートアップでFPGA/Software Engineerとして働きます。せめてOPT期間中はアメリカで生活したいと思っていましたが、先の通りアメリカでは自分のやりたいことができません。これからの就職先ではとてもユニークなデブリ除去、ゆくゆくは軌道上サービスを提供する宇宙機を開発しており、先日は世界初の実証実験も成功しています。この分野では世界をリードしているスタートアップなので、これからの仕事がとても楽しみでワクワクしています。これからも引き続き知識と経験を積み、ハードウェアとソフトウェアの境界を制するエンジニアになりたいです。
 6年以上の修行をもって、高校生の頃から夢見た宇宙開発エンジニアにようやくなれそうです。本当に楽しみです。長い間のご支援ありがとうございました。

・専攻分野以外について
 Grinnell Collegeでは専攻分野以外のクラスを取る機会が多々ありました。宗教学では女性の描かれ方を世界各地の宗教から比較、考察してみたり、歴史のクラスでは疫病から世界の歴史を紐解いてみたり、と現在のコロナに通ずるところもありました。中国とロシアの食文化を学ぶクラスでは実際に中国とロシアを訪問し、現地の食生活をクラスメイトと共に体験しました。学生は皆寮生活だったため、時間を気にせず深夜まで様々な事柄について話した機会もありました。自分では考えられない価値観と出会うことで、自分の考え、価値観を言語化して理解することができたりしました。今となっては忘れられない記憶になっており、10年後には良い青春時代だったなと振り返ることができそうです。大学院時代にはPhD生と交流する機会が多かったです。自分もPhDへ進む選択肢がありましたが、現場でスキルをもっと吸収したい、早く経済的に自立したいという欲が高いことに気づきました。人と交流し、内省の時間も設けることで自分自身にとっての大事なこと、優先順位は何かということに気づけるようになりました。
 長期休暇には一人でアウトドアに行く機会も多かったです。Yellowstone、Grand Tetonでのトレッキング、テント泊、アラスカのソロバックパック、近くの州立公園でのソロキャンプなどは一人で楽しみました。友人と行く国立公園も楽しかったですが、自分のスキルに見合ったレベルのコースを自分で判断して進んでいけるソロ行動はとても楽しいものです。この一人でのアウトドアの経験が体力、知識、自信の向上につながったと感じます。大自然のなかで認知できる人間は自分のみ。何か困ることがあっても自分で解決しなければならない、ということもありました。何千キロという運転も安全に気をつけながらこなし、車の不調を感じたらその場で応急処置をする場面もありました。お金に余裕がない学生生活だったため、車の修理も自分でこなし、車の知識も身についたのは棚からぼた餅でした。一人で国立公園を数週間楽しみたい、となるとそれ以外の長距離運転、車の知識、アメリカでのアウトドア知識など乗り越えなければならない壁がたくさん出てきます。それを一つ一つ乗り越えてきた経験は人として成長できた証なのかと思います。

Denali National Parkでの登山道がない山頂からの景色



・後輩たちへのメッセージ
 実力、努力だけでは達成できない目標はあると思います。良いこと悪いことがあっても、その時点では納得できないかもしれませんが、後に振り返ってみるとそれらの点と点が線となって現在につながっていると思う機会がやってくるはずです。将来後悔しないような選択を続けていけば納得できる世界に身を置けると思うので、毎日を懸命に過ごすのが大事かなと思っています。

小谷航平
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