江副記念リクルート財団では、2025年12月23日、世界でのTOPを目指す学生アスリート同士が、競技の垣根を越えて学び、互いに刺激を受け合うことを目的とした交流会を開催しました。
当日は、オリンピックに4大会連続出場し、世界の舞台で第一線を走り続けてこられた当財団スポーツ部門選考委員の松田丈志さんを講師としてお招きし、講演およびワークショップを実施しました。本イベントでは、日頃は異なる競技の第一線で挑戦を続ける学生たちが互いの考え方や取り組みを知り、新たな視点や気づきを得るとともに、ネットワークを育む機会となりました。
松田丈志さん講演 「世界で戦うためのマインドセット」
ー世界で戦ってきたトップアスリートの「思考の軸」
講演では、松田さんご自身の競技人生を振り返りながら、結果が出ない時期や大きな壁に直面した経験をもとに、何を基準に考え、どのように競技と向き合ってきたのかについて、率直な言葉で語っていただきました。
高校時代に初めて世界のトップ選手と練習を共にした際には、自分では努力しているつもりでも、世界のトップはその遥か上の基準で日々の取り組みを重ねていることを、初めて実感したといいます。一方で、その事実を知ったことで、同じ基準で取り組むことができれば、自身にも可能性があると前向きに捉えられるようになったことが語られました。世界を知ることは、自信を失うことではなく、自分の立ち位置と、次に目指す基準を明確にすること。そのメッセージは、学生たちに強く響いていました。

ー結果が出なかった経験を、どう次につなげるか
初めてのオリンピックで思うような結果を残せなかった経験についても、松田さんは「どれほど優れた選手であっても、最初から結果を出せるわけではなく、悔しさや失敗の経験こそが、次に進むための準備になる。当時は苦しかった経験も、後から振り返れば、一段階上に進むための大切なプロセスだった」と語られました。結果が出なかった出来事そのものを否定するのではなく、次への糧として捉え直す視点は、学生アスリートにとって大きな示唆となりました。
ー個人競技でも「一人では勝てない」
講演の後半では、周囲の支えをどのように競技力につなげていくかについても触れられました。競技自体は個人で行うものであっても、最高の舞台で結果を出す選手は、指導者や仲間、スタッフなど、周囲の人の力を自分の力に変えられる存在である。そうした支えを受け取り、活かすことも、競技力の一部であると語られました。

ー学生との質疑応答から
講演後の質疑応答では、大きな舞台になるほど緊張してしまい、自分の力を出し切れないという悩みが学生から寄せられました。
これに対し松田さんは、ご自身も最初のオリンピックではストイックになり過ぎて、競技そのものを楽しむ余裕がなかったことを振り返りました。一方で、結果を出していた選手たちは、集中すべき場面と、あえて力を抜く時間の切り替えが非常に上手く、極限の集中状態を作るためには、意識的にリラックスする時間を持つことも重要だと語られました。トップレベルで戦うためには、技術や体力だけでなく、心身の状態を整える力も欠かせないことが、具体的な経験とともに共有されました。

ワークショップで「次の一歩」を言語化
講演後は、競技の垣根を越えたグループに分かれ、ワークショップを実施しました。学生たちは、松田さんの講演を通じて得た気づきや問いを出発点に、それぞれが目指している目標や、現在置かれている状況を改めて言語化していきました。グループ内では、競技や環境の異なる学生同士が互いの考えや経験を共有し、他競技の学生から投げかけられる質問や視点によって、自分では意識していなかった課題や思考の偏りに気づく場面も多く見られました。こうした対話を通じて、学生たちは自身の現状を客観的に捉え直し、目標と現実との間にあるギャップを整理していきました。
その上で、今後取り得る選択肢について幅広く検討し、競技生活や日々の取り組みの中で、どのような行動であれば実行可能なのかを一つひとつ吟味しました。最終的には、それぞれが「次の一歩」を具体的な行動としてまとめ、講演で得た学びを、自身の競技人生に結びつける時間となりました。

発表とフィードバックを通じて
発表とフィードバックの時間では、各グループから代表者が登壇し、講演やワークショップを通じて得た気づきや、自身が次に取り組もうとしている行動について発表しました。学生たちは限られた時間の中で、自分の言葉として考えをまとめ、全体に共有する姿からは、学生一人ひとりが真剣に自身の競技人生と向き合っている様子がうかがえました。これらの発表を受けて、松田さんからは、世界を基準に考える上で大切な視点や、行動に移す際に意識すべき点についてフィードバックが寄せられました。また、財団役員からも、学生それぞれの思考の深さや挑戦する姿勢に目を向けたフィードバックがあり、学生にとって自身の考えや行動を客観的に捉え直す機会となりました。
発表とフィードバックを通じて、学生たちは単に考えを共有するだけでなく、他者からの言葉を通じて、自身の取り組みの意味や方向性を再確認し、次の行動へとつなげていくための確かな手応えを得る時間となりました。

本イベントを通じて、学生たちは「世界で戦う」とは何かについて改めて考え、どのような姿勢で競技と向き合い、どのように日々の行動を積み重ねていくのかを、自身の競技人生に引き寄せて言語化する機会を得ました。講演での学びや、競技の垣根を越えた対話、発表とフィードバックを通じて得た気づきは、それぞれの置かれている環境や競技レベルに応じて、今後の取り組みの指針として活かされていくことが期待されます。
当財団では今後も、奨学生同士が互いに学び合い、刺激を受け合う場を継続的に設けることで、学生アスリートが自ら考え、行動し、長期的な視点で成長していく過程を支援してまいります。



