――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
私は現在ハーバード大学で数学の博士課程に取り組んでおり、数学者として未知の現象を解明していくことを目指しています。
幼いころから、ひらめきがあれば解けるような算数の問題が好きでした。中学校に入学してから数学を勉強するようになり、正しい証明をしていけば永遠に変わらない真実に辿り着ける、ということに強く惹かれました。そのなかでも、整数は一つ二つと数えられて日常でも馴染みが深いのにも関わらず、素数などはとても不思議な性質をもっているということに興味を持ちました。図書館でより本格的な整数論の本を読むようになり、数の性質を調べるために、素因数分解が成り立たないような新しい数の体系が必要になったり、それを理解するためにイデアルという抽象的な概念が重要になる、ということを学び衝撃を受けました。
また、学校の数学研究会での出会いをきっかけに、競技数学にも取り組むようになりました。数学オリンピックでは、一つの問題を数時間かけて解いていくのですが、あれでもないこれでもないと試行錯誤を重ねたあとに、何ページにもわたる証明を完成させることに充実感がありました。ブラジルとルーマニアで開催された国際大会に参加した際に、外国の参加者の多くがアメリカの大学に進学予定だったこともあり、次第に海外大学への進学を目指すようになりました。
マサチューセッツ工科大学で数学の学位を取得したあとは、数学の研究を続けるために、ハーバード大学の博士課程に進学しました。数学は紙とペンがあれば研究ができるため実験室がないのが特徴で、指導教官のMark Kisin教授と一対一のミーティングを重ねながら、研究を進めています。研究ではまだ世界中の誰も答えを知らない問題に取り組むので、新しいことを発見したり、アイデアを思いついたりしたときの喜びは他には変え難いように思います。
――日常生活、生活環境について
私は、アメリカの東海岸にあるボストンという都市に住んでいます。ここにはハーバード大学やMITをはじめとする多くの大学が立ち並んでいて、街は学生で賑わっています。また、この二つの大学に沿うように、大西洋へと続くチャールズ川が流れています。ハーバード大学の数学科では大学院生全員が個室のオフィスを与えられるので、大学にいるときはオフィスで研究を進めます。行き詰まったときには、気分転換にチャールズ川のあたりまで散歩をして、ベンチから水面を眺めることが日課になっています。
また研究をするときは座りっぱなしになるので、運動の習慣を作るようにしています。大学院に入学した当初は、オフィスから帰るときにキャンパス内にあるジムに寄ってトレーニングをすることでリフレッシュしていました。また一時期はランニングにはまり、ボストンで行われたハーフマラソンにも参加しました。最近は、週末に友達と集まってバスケットボールをしています。屋外のバスケコートなので、そこに居合わせた人たちと一緒に試合をすることもあります。博士課程では長いスパンで一つの問題に取り組むため忍耐が必要になり、日々の健康を保つことが重要であると痛感しています。
――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
「数学は永い会話である」というのは、ハーバード大学のBarry Mazur教授の言葉です。数学は極めて厳密な学問なので、もしかすると無味乾燥なものに思われるかもしれませんが、実のところは、アイデアや新しい現象を発見したときの喜びなど人間的な側面が強いように思えます。
私の現在の研究では、Jean-Marc Fontaineというフランスの数学者が作った理論の枠組みを拡げることを目指しています。博士課程の最初のプロジェクトでは、1990年に書かれた彼の記念碑的な論文で、未解決のまま残っていた問題に肯定的な解決を与えることができました。
今月アメリカのユタ州で、指導教官であるMark Kisin教授の誕生日を記念する国際学会が開催されました。そこで招待講演をする機会に恵まれ、現段階での研究成果を発表しました。講演後には、分野を牽引してきたフランスの数学者と研究を議論する機会もありました。彼はもともとFontaineの指導学生だったので、この問題に取り組んでいることに関心を示してくれ、肯定的な解決があることを喜んでくれました。私自身、彼の論文から多くのインスピレーションを得ていたので、本人からコメントをもらえたことは大きな励みになりましたし、確かに「数学は永い会話」であり、自分もそれに続いていくのだと実感しました。
――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
今年、Simons Foundationというアメリカの財団から博士課程のための研究費を獲得することが出来ました。私が研究している分野は、先述のFontaineの弟子を中心にして、フランスで大きな発展を遂げてきました。今月開かれた学会を機にフランスをはじめとするヨーロッパの数学者たちとの議論を始めることができたので、Simons Foundationの研究費を活用することで研究滞在を実現させ、研究を進展させていくことを目指します。
研究では、世界中の誰もまだ答えを知らない問いに向き合っています。純粋数学のプロジェクトは、着想を得てから具体的な研究成果につながるまでに数年間かかることもあります。江副記念リクルート財団に採択していただいた際に、「好奇心をもって、自分の興味をとことん追求してほしい」と言って背中を押していただいたことが、今でも強い支えになっています。これからも初心を忘れずに、数学の神秘を解明していきたいと思います。



