奨学生活動レポート

art

2021.10
小林 颯 Hayate Kobayashi
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――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

僕の留学はリモートから始まりました。東京とベルリンの時差は7時間あります。夕方からのビデオ通話を開くと、ドイツはもちろん、台湾、韓国、コロンビアから時差を越えて集います。密だとかGoToトラベルと聞こえる最中、厳しいロックダウンのさなか、どこか鬱屈とした表情を浮かべた友人が画面越しにいる。それらの違いは、くっきりとコントラストとして僕の目の前に現れ、自身の制作に影響を及ぼしました。初めの半年間はリモートで、遠く離れたベルリンを想像するところから制作が始まりました。コロナ禍だからこそ、生活から見える国や立場、言葉の違いが一層気になり、ゆるやかに制作へと反映されたように感じます。

リモートの半年間に制作したものをいくつか紹介します。
例えば「Dividoorism」は、離れていることから出発した映像です。それまで一度も会ったことのないベルリン在住の学生との共同制作で、こちら側がノックすると向こう側のドアがノックされる装置を作り、24時間zoomをしました。初めはその状況の滑稽さにしばらくドアノックしあっていたのですが、時間が経つにつれて、ドゥルーズの分人のごとくドアノックを通して様々な人格が現れていきました。

Dividoorism, 2021, 4’21”

また「Condensed Coffee」では、密をキーワードに、渋谷スクランブル交差点の人通りが多いほどコーヒーを淹れる装置を作りました。緊急事態宣言下でも人通りの多い渋谷スクランブル交差点のライブ映像を見せて、同期が呆然としていたのを今でも覚えています。また、密が持つ滑稽さを英語で説明を試みても伝わらない経験から、翻訳や言葉に関心が出てきました。

Condensed Coffee, 2021, 2’21”

2021年4月にベルリンに来て、白菜は白菜のような食材へと変わり、話す言葉はドイツ語と英語が混ざったような言葉になりました。長年日本に住んで信じ切っていた安心が一旦崩れ、しかしその寄る辺なさをむしろどこか心地良く感じていました。
ベルリンは移民が集う都市です。それもあって、皆ドイツ語以外の母国語を大切にしています。例えばイスタンブール人の同期にデモでばったり会って、トルコ語で「自由」と書いたプラカードを掲げて歩きました。僕も気づけば日本語で独り言を堂々と呟いて、心の安寧を保つようになりました。

ベルリンにレジデンスで来る予定だった友人が来れなくて、日本へ留学したいベルリンの友人が行けなくて、それでも僕は学生ビザがあることでベルリンにいる。その状況がどこかおかしくて、でも同時に憤りを感じて、ささやかな祈りとして、自分の生活中の出来事をただ喋る映像をたまに撮って載せることにしました。数年後に見返して良い記録になっていたらいいなと思います。これも母国語を大事にする友人を前に、ゆるやかに生じた制作です。

dailylog, 2021-

心地良いほどのわからなさとその変化から、些細な有り難みを敏感に感じるようになりました。例えばワクチンが予約できた時や、陰性証明書が無くても本屋に入れる時。そうした生活の中で現れる変化を大事にしながら、これからも装置と映像を作っていきたいです。

小林 颯 Hayate Kobayashi
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