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第52回江副記念リクルート財団総会を開催しました

財団交流イベント
第52回江副記念リクルート財団総会を開催しました

当財団では、毎年総会を開催し、現役奨学生・役員・選考委員らが一堂に会して成果報告や交流セッションなど多彩なコンテンツで交流を行っています。

今年も引き続きオンラインでの開催となりましたが、時差を考慮し午前の部・午後の部の二部構成で実施。午後の部では新規奨学生紹介、卒業報告、成果報告をはじめ、特別講演やパネルディスカッションなど多くのコンテンツで充実したイベントとなりました。今年度より奨学生の有志が総会委員としてこれらのコンテンツを企画し、司会は学術部門49回生の山口暉善さんが務めました。

 



◇新規奨学生紹介 

器楽5名、スポーツ7名、アート2名、学術8名の合計22名と本年度も各部門で世界に挑戦する新規奨学生が採択されました。新規奨学生の皆さんは自己紹介と自身の専攻や競技の魅力、これからの意気込みを発表しました。

新規奨学生22名




◇特別講演:第24回生 池谷裕二さん
今年は特別コンテンツとして、現在、東京大学薬学部教授で当財団第24回生の池谷裕二氏をお招きし、「脳をAIで啓く」というテーマでご講演をしていただきました。現在は薬理学者・脳科学者として、光学的画像や電気生理学などの計測技術を用いて研究を行っていらっしゃいます。財団在籍時の思い出も交え、ご自身の現在の研究についてとこれからをお話ししてくださいました。

池谷裕二さん 1970年静岡県生まれ。東京大学大学院薬学系研究科卒業。薬理学者・脳科学者。コロンビア大学客員研究員、科学技術振興財団さきがけ研究員、東京大学准教授などを歴任、現在は東京大学薬学部教授。著書に「脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか」「進化しすぎた脳」ほか多数。光学的画像や電気生理学などの計測技術を用いて研究を行っている。神経回路の動作原理に関する研究は、日本学士院学術奨励賞、日本学術振興会賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞などの学術賞を受けている。学術部門24回生。


まずはブレイン・マシーン・インターフェースについて。AIで脳内の情報を解読し、ロボットの腕を操作させることで実際には体を動かせない人が脳波の情報だけで念じて、チョコレートを食べれるようになるという実験の例から、神経科学がこれからの未来をになっていくとご自身の研究分野が印象付けられました。

読み出し、つまり様々な脳情報を解読することができるの逆である書き込み、脳情報を移植するという取り組みについて、話が展開していきます。例えば、目が見えない人でも脳を刺激して脳裏に文字を浮かばせることによって文字が描けるようになるといった実験。

「脳にAIを埋め込んだら何ができる」か、池谷さんが現在取り組まれている脳とAIの融合プロジェクト。文字通り、脳とAIをくっつけたら、人には見えていない情報、人間の生物学的な性能だけではできないこと(フィギュアスケートのプロ並みのジャンプの識別眼の習得や自分の体をコントロールすることなど)を可能にすることができるかもしれないと、限界を突破する夢のある研究をさらなる身近な例を用いて、お話しいただきました。

プレゼンの後の質疑応答では、人工知能を研究している学術の学生からの鋭い専門的な質問や器楽部門の奨学生からの違った角度からの質問など、絶え間なく質問が続き、熱い議論が繰り広げられました。財団の大先輩で、今もなおご自身の研究に没頭・限界に挑戦されている姿には刺激を受け、勇気付けられた財団生も多かったと思います。



◇パネルディスカッション
(学術部門:48回生佐藤満龍さん、器楽部門:48回生戸澤采紀さん、アート部門:50回生 増田麻耶さん)※進行:学術部門44・49回生 久保田しおんさん

パネリスト3名とファシリテーター

今回は、3名の学生が「パンデミックが変えたものと、変えなかったもの」というテーマに対してパネルディスカッションを行いました。進行は学術部門44・49回生の久保田しおんさんが務めました。

イギリスにてコンピュータサイエンスやAIの研究をする佐藤さん、ドイツにてバイオリンを勉強する戸澤さん、現代美術を学ぶ増田さんと、異なる部門・視点からコロナ禍での変化について議論するところからスタートしました。

演奏会のキャンセル続きの現実やそれがいかに心のストレスとなったか、いかに厳しい選択を迫られることも多かったかを共有してくれた戸澤さん。「音楽が不要不急に含まれているのを見ていて悲しかった」という言葉は印象的でした。

器楽部門48回生 戸澤采紀さん


増田さんも様々な芸術媒体があるものの、物質的なニューメディアを扱う人やバイオアートに取り組む人ほど影響が大きく、器楽とともにアートは「人対人」を大事にする空間芸術なので、コロナ禍で変わらざるを得ない期間は長かった辛さを話してくれました。観客が戻ってきた時の感慨深さや改めて美術・音楽の尊さを感じた経験を語ってくれました。

アート部門50回生 増田麻耶さん


一方の佐藤さんは、ご自身の専攻分野ではオンラインで滞ることはなく、スムーズに順応していった印象を語ってくれました。コンピュータサイエンスの分野では、制限が段階的に解除されていく中、コロナ前の形に戻ろうという人、反対にコロナ禍での新たなオンラインの形を採用する人、どちらもいたとのこと。分野によってパンデミックのもたらした影響が様々であったという議論は印象的でした。しかし、音楽・アートでも決してネガティブなことだけではなく、どの分野にも共通して、それぞれの分野の新しい部分を知ることができたことや改めてそれぞれが取り組んでいることの尊さに気づけたといった前向きな姿勢を語ってくれました。

学術部門48回生 佐藤満龍さん

コロナ禍での変化やポストコロナのことだけではなく、それぞれの日常生活や食生活などにも話が及び、それぞれの生活の違いについても興味深かったのではないでしょうか。

進行の学術部門44・49回生 久保田しおんさん

最後に「どんな変化を自分の分野にもたらしたいか」という久保田さんの質問に対し、それぞれの今後のビジョンや目標を熱く語ってくれました。
事後アンケートでは、コロナという大きな変化の中でも様々な方面で変化に対応し、ベストを尽くしているパネリストの皆さんの議論は刺激になった、普段の生活状況を知ることができて面白かった、などといった声が聞かれるなど、多くの財団生にとって身近なテーマでの議論は興味深いものとなりました。



◇奨学生成果報告① 学術部門 ナップダニエルさん

奨学生成果報告の1人目は学術部門第48回生で、現在プリンストン大学で物理学を学ぶナップ ダニエルさん。今回は「高精度ミリ波文光法による、イッテルビウムのスペクトル測定」についての成果を発表しました。
聴き馴染みのない「イッテルビウムとは」という話から展開し、自身の研究で取り組んだ量子コンピューティングのプロセスや実験で用いた器具を説明しました。事後アンケートでは日々取り組む姿勢や興味分野に対する熱意に刺激を受けたと言った感想が寄せられました。

学術部門第48回生 ナップダニエルさん





◇奨学生成果報告② スポーツ部門 上野優佳さん
続いてスポーツ部門の上野優佳さんが登場。上野さんはフェンシングの中でもフルーレに取り組み、2021年には東京オリンピックに出場。女子個人で日本人女子選手最高の6位入賞を果たしています。競技ついての説明の後、2024年のパリ五輪出場に向け、世界ランキングをあげられるよう、毎試合懸命に取り組んでいる様子を紹介しました。「1ヶ月に1,2大会という過密スケジュールではあるが目標に向け頑張りたい」という言葉は力強く、普段のコミュニケーション面でも努力する真っ直ぐな姿勢が印象的でした。質疑応答では、スランプに陥った経験をシェア。またフェンシングにおける柔軟性の重要さという興味深い視点での質問も丁寧に回答をしてくれました。

スポーツ部門第51回生 上野優佳さん

 



◇奨学生成果報告③ 器楽部門 佐々木つくしさん
成果報告最後は、器楽部門の佐々木つくしさんが登場。東京藝術大学音楽部器楽科を卒業し、今年度よりドイツのリューベック音楽大学にて留学生活をスタート。2020年には東京音楽コンクール弦楽部門第2位に入賞するなどバイオリンでの活躍に加え、音楽の研究もしています。今回は身体と音楽の関係性についての研究について発表をしました。

バイオリンを構えると思うように体を動かせなかったり、自分の思うように音を出せない・表現できないという経験に悩まされていた佐々木さん。この経験に対して、アレキサンダーテクニックと呼ばれるものを使って徐々に自分の体が自由になってきたという実体験を語ってくれました。

体と音楽とが一体となって演奏するには、盲目的にがむしゃらに弾いてすぐに結果を出すことを求めるのではなく、そのプロセスを大事にすること。完璧な姿勢を意識しすぎると体がうまく使えなくなるため、「どう構えるか」をリラックスした状態で体の中のコーディネーションを辿っていくプロセスを大事にして練習を心がけているとのこと。自身の経験を研究に結び付け、音楽家として研鑽を積まれている佐々木さん。「可能であれば死ぬまで音楽家として生きていきたいので、今後も体の使い方を気をつけながら練習してきたい」という熱い言葉には胸を打たれました。部門の垣根を超えて様々な視点から質問が飛び交い、佐々木さんの挑戦に対する温かい感想も寄せられました。

器楽部門第51回生 佐々木つくしさん

 



◇特別奨学金授与の報告:小野光希 (スポーツ部門スノーボード・ハーフパイプ)
当財団では器楽・スポーツ部門を対象に「世界でずば抜けた活躍実績」を残した現役奨学生に対する報奨金として、特別奨学金の制度があります。2022年度は、3月に行われたスノーボードの世界選手権で3位に輝いた小野光希さんに特別奨学金が授与されました。小野さんは2022年度、ワールドカップ種目別総合優勝も果たすなど大活躍の一年でした。
小野さんは「今回の結果に満足することなく今後も努力していきたい」と謙虚な姿勢を忘れず、今後も期待や支援に応えられるように、学業との両立にもより一層力を入れ頑張っていきたいと語ってくれました。スノーボードは精神面がとても重要な競技とのことで、今後はどんな状況でも自分のベストを出せるように練習を積み重ねていきたいと今後のさらなる抱負を話してくれました。



◇卒業生紹介
2022年度は21名が財団を卒業し、桑原志織さんが卒業生を代表してご挨拶をしました。
多感な時期に世界への扉を開いて、生き生きと頑張っていた財団生としての年月を振り返り、奨学金支援に留まらない財団の支援がいかに励みとなったかを話してくれました。音楽家としてのこれからの真価が問われていると前を見据え、「御恩と感謝を胸に刻んで音楽の道を歩み、社会に貢献していきたい」という力強いメッセージには一同胸打たれ、現役奨学生にとっても励みとなるメッセージでした。



◇理事長挨拶
最後に当財団理事長の峰岸真澄よりご挨拶をいたしました。
今回の総会に対する総括ではこの一年の奨学生の活躍を称えるとともに、コロナ禍が収束に向かっている中、ロシアのウクライナ侵攻やインフレなど世界情勢が不透明な状況においても、奨学生に対する財団の応援体制は整っており、これからも若い時にしかできないそれぞれの分野で没頭する、好きなことに打ち込むということを安心して続けていって欲しいとお伝えしました。
今後も分野を超えてのネットワーキングや情報交換、お互い切磋琢磨していける場に、いつでも辛い時に帰ってこられる場にしたいとし、これからも頑張っていきましょうと励ましのメッセージを送り、今年の総会は閉会しました。

◇奨学生交流セッション
午後の部では閉会後、ブレイクアウトルームに分かれ、分野の垣根を超えての奨学生交流セッションを行いました。他愛のない話から、総会での特別講演の話と関連付けてディスカッションが行われるルームもあり、「普段なかなか話す機会のない色々な部門の奨学生の同士のお話を伺うことができて大満足」といった声も聞かれ、双方向での交流を楽しむ時間となりました。


2020年からオンラインでの開催が始まって4回目となった今年。
色々な部門の方から多岐にわたるお話を聞いて、自身のモチベーション向上につながったという声が多く寄せられ、他部門が交わる当財団だからこそ濃密な時間になったのではないかと思います。第45回生の八村塁さんからの応援メッセージ動画も冒頭で紹介されるなど、現役奨学生だけに留まらず、OBOGとの繋がりも大事にする当財団。今後も分野の垣根を超えた交流、財団に関わる全ての方々との繋がりを大切に、お互いが刺激し合える場、成長や挑戦をし続けられる場として、来年度以降の総会も運営していきたいと思います。