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大竹紗央  ニューヨーク大学大学院

アート部門奨学生インタビュー 2023 Vol.1
大竹紗央  ニューヨーク大学大学院

「最終的には美術を通じて、何かに貢献できれば人間として最高!」と笑う大竹紗央さん。
2023年夏にシカゴ美術館附属美術大学を卒業、秋からはニューヨーク大学大学院で学ぶ大竹さんは、高校生の時にアメリカに留学することを決心しました。そのきっかけや大学のこと、アメリカでの生活や将来についてなどを伺いました。

ー海外美大留学を目指したきっかけについて教えてください。

私はもともと日本の美大に進学しようと考えていたのですが、日本の高校では理系のクラスにいたんですね。周りの人たちには「なぜ理系なのに美大?」と不可解に思ったようで反対されたのですが、当時はとても美術をやりたいという気持ちが強く、逆に周りの反対に対する反骨心に火がついて(笑)
どうにかして美術を勉強することができないかと思っていたら、当時通っていた画塾の先生に「日本よりもアメリカの方が、社会が美術を受け入れている。アメリカの方が美術を勉強しやすいのではないか?」と言われたことが、留学を考えるきっかけになりました。


ーその後、シカゴ美術館付属美術大学に入学されましたが、なぜその大学を選んだのでしょうか?

高校生の時にアメリカに行ったものの、あまりアメリカの美術大学事情を知らない状況でした。大学選びについて、当時通っていた高校の美術の先生に相談すると、「ちょうど今週末にナショナル・ポートフォリオ・デイという、アメリカ全土の美術大学の先生や生徒が来て、高校生のポートフォリオを見てくれるイベントがあるので、そこに行って、自分に合う学校を見つけてきたら?」とおススメされたんです。

そこで、シカゴ美術館附属美術大学の先生達から、「うちの学校は美術専門だけど、どんなものを勉強してもOK。建築を取りながら彫刻だったり、サウンドを取りながらパフォーマンスもアリ」っていうのを聞いて。それだったら自分がずっと作りたかったインスタレーションを多角的な方面からアプローチできるんじゃないか、と思ってこの学校にしようって決めました。

「美術を勉強したい」という夢を諦める後進の人たちが少なくなるような世に貢献したいと力強く語ってくれました


ーシカゴ美術館附属美術大学での4年間で1番印象に残っている授業、そしてどのようなことを学んだかについて教えて下さい。

大学1年生の時に必修のクラスだった、リサーチクラスとコアクラスというのがすごく印象に残っています。リサーチクラスが作品のアイディアだったり、作品になりそうな種を見つけるような、ベースの部分を勉強するんですね。そして、コアクラスでは見つけた種をどうやって作品化するか、具現化するのかっていう方法論について学ぶクラスだったんです。
印象に残った理由としては、その2つが確かに全ての作品づくりの基礎になったっていう点もあるんですけど、授業を通して、やっぱり芸術は人間の内側から生まれるもので、人から生まれるからこそ人間に何かしらの影響を与えることができるんだな、っていうのを気づくことができた。それが面白くて、いまだにずっとそのクラスで起こったことだったり、学んだことをよく覚えています。

ー日本から海外美大へ留学する時、困難だったことはなんですか?

一番苦労したと思っているのが言葉の問題です。ある程度その土地の言葉が使えないと、その土地のコミュニティに参加が難しくて、機会も得られないので、すごく言葉の大切さを思い知らされました。アメリカに行った時は、聞く・読む・書くはできたけど話すのができなかったんですね。それで、毎週土曜日に通っていた日本人補習校の友人が、どうやったらアメリカの学校で生き残れるのかとか、効率的な英語の学習方法を惜しまずに伝授してくれて。
大学生時代はルームメイトが英語学習にすごく付き合ってくれて、そのおかげで割と外交的に英語を使ってコミュニティに参加することができました。言語習得にとても苦労したのですが、それを経て仲間の大切さを思い知って、良い仲間を作ることが海外で生き残る術なのかな、という風に思いました。

ー秋からニューヨーク大学大学院に進学されるそうですが、次のステージではどのようなことを学びたいですか?

私の作品のテーマは都市空間とそこに生活する人々を紐帯することです。人と空間を結びつける為に、作品が間に立ち、何かしらアクションを起こして2つをくっつけることができたらいいなと考え、大学2年生くらいから作品にインタラクティヴィティ・双方向性を持たせるために、クリエイティブコーディングやマイコンボードなどを使って、空間や観衆の動きに反応して展開される作品を作っていました。私がこれから行く大学院はまさに、そういうことを腰を据えて勉強できるところです。また、技術を磨くのと同時に、学部時代にぶち当たった双方向性を持たせることは作品と空間と観衆の関わり方を制限してしまう、という問題を解決する方法を模索出来たらいいな、と思っています。

作品にインタラクティヴィティを持たせて、空間と人々を紐帯することをテーマとした制作に取り組んでいます


ー明確なテーマがあるのでやりがいがある大学院生活になりそうですね!
その先にはどんなアーティストになりたいですか?

将来的には自分の作品を通して、日本で生きる人達の生活の中に芸術を差し込みたいと思っています。そうすることで日本の人たちがもっと芸術に親しみを持ってくれるのではないかと。私の作品が社会に広まっていくことによって、これから芸術を学ぼうと考える後進の人たちが、私が高校生の時に苦しんでいた、美術を勉強したいけど現実的じゃないからという考えに行きついてしまっても、自分の夢を諦めたくなることが少なくなるような世に貢献できたらいいです。

ー将来はどこを拠点に活動したいですか?

日本で生まれて育ってきたから、最終的には日本に戻って、この国に貢献したいなっていう気持ちはあります。でも今はまだその時じゃないと思っていて。アメリカに行くっていうのが、私は留学っていうよりは修行を積みに行くようなイメージがあるんですね。今はまだいつになるかは分からないけど、いつかは貢献できるくらいまでの力をつけて戻ってこようかなって思っています。

器楽部門44回生の上野通明さんの無伴奏チェロリサイタルにて披露された曲「Phoenix」の演奏に、大竹紗央さん制作のエレクトロニックインスタレーションアートの映像が投影されるコラボレーションを実施

ー海外留学生活を通じて、自分の中で良い変化は起こりましたか?

生きる力がとても強くなりましたね。困難ばかりが立ちはだかってくるので、それをどうやって解決しようか、本当に困った時に誰に助けてって言うのが最適なのかっていう、リスク管理や最悪の状況を常に想定して何かをやることがうまくなったように思います。だから自分の期待と大きく逸れた結果になっても、それは例えば別のプランBがあるからまた立て直せる、というような感じでなんとか乗り切ってたのかなっていう風に思います。

ーでは、逆に悪い変化は起こりましたか?

アメリカの学生は口を揃えて言うんですけど、ちゃんと勉強をしないと卒業できないので、学生の専攻を問わずものすごく忙しいんですね。忙しすぎるから、ご飯にあまり興味がなくなってしまったという点は悪い変化かもしれません。
アメリカでの外食はとても高額ですし、自炊に時間が掛けられないので、適当なものを食べていたら、本当に食に対してこだわりが少なくなってしまいました。日本に帰ってきて友人たちに会うと、みんなが「どこのご飯が美味しいよ!」って教えてくれて、行って食べると本当に美味しいんですよ。その後に、例えば課題とかやると、すっごくパフォーマンスがいいんです。良いパフォーマンスは良い食事からこれを実行しよう!って思うけど、たぶんアメリカに戻って大学院が始まったら、いつもの生活に戻るのかな


ー良い変化も悪い変化も、とてもたくましくなるエピソードですね(笑)
最後に、これから海外美大に留学したいと思っている方へのメッセージをお願いします。

大学院に行くのか就職するのかで悩んでいた時期に、大学1年生の頃からすごくお世話になっている建築科のジョセフ・サージャン先生からアドバイスをいただいたんですね。「若いうちは勉強を続けなさい、お金がなかったら奨学金などの何かしらの制度を駆使してお金を集める、お家に帰ることはいつでもできるんだから甘ったれたこと言うんじゃない、遠くに行って勉強し続けろ」みたいな、結構厳しい事を言われてしまって。
なんで遠くまで行かなきゃならないんだって思ったんですけど、若い時ってあまり立場とかに関係なく、仲間を作りやすいじゃないですか。若い時に、そういう仲間を見つけて増やしておけば、自分が何か新しいことをやりたいと思った時に簡単に手を繋ぎやすい。だから、そういう人達を見つけて仲間を増やしておくと、自分の将来が豊かになるんじゃないかってことで、できるだけ遠くにって。近いとやっぱり似たような人達が集まるので、遠くに行って勉強を続けなさいって言ったのかなって思って。

そういう点では海外留学ってすごく良い機会だなって思っていて、せっかく江副記念リクルート財団さんも美術にお金を出してくれているので、こういう制度を存分に利用して外に出て色々見つけてきて、最終的には日本に貢献することや、他の国・人に貢献するみたいなことができると、人間としては最高なのかなって思いました!

ニューヨーク大学大学院進学後も、人と空間をつなぐ作品をテーマとした制作へ挑戦を続ける大竹さんを応援しています!


プロフィール

大竹 紗央
2015年:金城学院高等学校
2017年:Huron High School
2019年:シカゴ美術館附属美術大学
2023年:ニューヨーク大学大学院

江副記念リクルート財団ホームページ