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蔵内淡  セントラル・セント・マーチンズ

アート部門奨学生インタビュー 2023 Vol.2
蔵内淡  セントラル・セント・マーチンズ

高校を自主退学後、世界一の美術大学を目指した蔵内淡さん。ロンドンでの留学生活では、当たり前の日常から解放されながらも、あらゆることに主体的に取り組むようになったと語ります。そんな蔵内さんの大学生活から日常まで、お話を伺いました。

ー蔵内さんが海外美大留学を目指すまでの経緯について教えてください。

周囲への反骨心が力となり、世界一の美大への挑戦を決意したと語る蔵内さん

僕はとても珍しいケースと思うのですが、父が美術系で東京藝大で教鞭を取っていたんですね。そういう環境の中で育ったものの、反抗期がひどくて、もう・・・本当にかなりやばかったんです。
大学も、親が行く大学には行きたくない、という気持ちもあったし、その親よりもスゴくなりたいみたいな、すごい漠然としたのがあったんですね。それで、東京藝大は日本一だけど、世界一はどこだろう?と世界大学ランキングを見ている中で、ロンドン芸術大学っていう大学があるらしいぞと。英語はまぁまぁできたし、ここは目指せるんじゃないか、という感じで、非常にまともな理由じゃないんですが、そういう経緯で目指すことになりました。



ーなぜイギリスのロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズに進学を決めたのですか?

アメリカも考えていたのですが、学費がイギリスの倍くらいするんですよね。親からそれは難しい、と言われたことと、僕は英語しか喋れなくて。学費の問題と言語の問題でイギリスになるのかなという感じでした。
あと、僕は元々デザイン系を目指していて、セントラル・セント・マーチンズはデザインが有名で、ダイソンの掃除機とかをデザインしたジェームズ・ダイソンや、ファッションデザイナーで今でも活躍しているような人達がたくさんいるんですね。なんとなく、漠然とここに行けば、そういう人達に囲まれて自分のやりたいことを存分にできるんじゃないか、そういう感じで行きました。


ー セントラル・セント・マーチンズではどんな授業をされていますか?

これがけっこう特殊で、うちの学校はすごく教えないというか。じゃあ、どうするかっていったら自分でやるしかない。もちろんレクチャーや、 クリティカルスタディズみたいものはするんですが、大学側は入学した時点で、やりたいことに自分で突き進んでいける、主体的な人達をサポートするみたいな、そういう環境ですね。やっぱりロンドン芸術大学っていうのは世界でもトップレベルで、入るのはとても難しいですし、そこの時点で「教わらなくても自分で俺はできる」みたいな、主体的にやっていける人の母数は、たぶん他の大学と比べて多いと思うんですね。やっぱり、生徒のモチベーションが高くて、そういう環境があって成立する感じなのかな、と思います。

キャンパス内の様子


日本から海外美大に留学する時に、お金・語学以外に困難だったところは、どういったことがありましたか?

親には、藝大への進学を勧められている中で、僕は高校を自主的に辞めるという選択を取ったんですね。高校を辞めた時点では、まだ海外大学に受かっていない状況だったので、親からのプレッシャーはすごくありましたね。やっぱり親からの理解ってすごく大事じゃないですか?それが得られない状況もあり、プレッシャーや焦燥感みたいな、精神的なところは大きかったですね。

ー セントラル・セント・マーチンズに合格した時のお父様の反応はいかがでしたか?

父親はあまり感情を表に出さないタイプなんですが、「へぇ」みたいな感じで、たぶん嬉しかったと思います。


ー それは本当に良かったですね。イギリスでは現在どんな作品づくりに取り組まれていらっしゃいますか?

最近までは、自分の考えをアウトプットとして、アート作品に落とし込むみたいな方法を取っていたんですが、ケインズっていう経済学者が言っていたのが、アーティストっていうのは、ある種の”欲望によってものを作り出す人”みたいな事を言っていて、それをすごい面白いというか、納得したんですね。例えば、ものを作りたいという欲望はAIと違って、人間固有のものですよね。自分がこうしたいみたいな、素直な気持ちに対して忠実になることが大事だなと思って。
最近は、本当に自分が作りたいって思ったものや、こうしてみたいと思うもの、そういう気持ちに対して、素直に忠実になってものを作っていくっていう感じなんです。わりと一貫性みたいなものを無視していて、というのも一貫性があると、そこに束縛されてしまう時もあって、結構そのハードルが高かったりするんですね。なので、その統一感みたいなものはあえて出さずに、色んなところに四方八方に足を延ばして作っていくようなスタイルで今やっています。

2023年7月に渋谷ヒカリエで実施したグループ展での作品


ー 将来的にはこんな作品にチャレンジしたい、というものはありますか?

すごい大きい作品を作りたいみたいな、漠然としてるんですけど、美術館の常設展とかにあるインスタレーションとか、すごい大きかったりとかするじゃないですか。素朴ですけどやっぱ大きさって結構大事。パワーが溢れてるし、やっぱりそういうものって、今この段階では作りづらいというか、現実的ではないものなので、将来的に大きくて人を囲むというか、人を包囲するぐらい大きい作品みたいなものは作りたいな、と思っています。

ー将来はどこを拠点に活動したいですか?

親の事業を引き継がなければいけないと思うので、30歳になるくらい前には帰ってきて、東京を拠点にすると思います。親の事業を引き継ぎながら作家として、二足の草鞋でやっていくのかなと。

ーイギリスに行かれて約2年だと思いますが、海外留学生活を通じて、自分の中で良い変化は起こりましたか?

良い変化は色々あるんですが、主体的に制作に取り組めるような、そういうモチベーションはたくさん得ました。生活面だと、食事の管理は全部自炊ですし、僕は気をつけないと本当に体調崩したりとかするんですね。そういう些細なことですけど、家の掃除をしたりとか、それこそ自分で主体的にやっていくっていうのは良い変化かもしれません。

ロンドンの自宅にて


ーでは、逆に悪い変化は起こりましたか?

イギリスって物価が本当にすごいので、 外で何かを食べるみたいなのはちょっと論外なんですよ。そういう意味で友達とソーシャルライフみたいなものは減ったかな、という風に思います。

ー蔵内さんが海外美大を目指すまでのキャリアを伺っていると、とてもユニークで、自分も挑戦してみたいなって思う学生の方も多いと思うんですね。そういう方たちに向けて、最後にメッセージをお願いできますか?

ロンドンでのあらゆる学びを通じて、今後どのような作品が制作されるのかとても楽しみです

20歳になったばかりなんですが、思ったのは20年間生きてきた中でも、留学ってすごく大きな経験で、本当に留学していなかった自分が考えられないぐらい、自分が変化しているんですよ。そういう意味で、海外に行って1人で生活する経験は本当に貴重だし、そういうことを若いうちからやっておく事は、非常に自分の武器になると思うんですね。
日本で当たり前と思っていることでも、海外では全然そうじゃないこともたくさんありますし、例えば、日本の朝は満員電車がすごいじゃないですか?でも、イギリスとかって全然そんなことないんですよ。イギリスに来た時に思ったのが、なんで俺は毎朝、ギュウギュウ詰めの電車に毎日籠って移動していたのかな、みたいな。
そんな当たり前から、日常から解放されるような、そういう新鮮さとかもすごい勉強になったりはするので、そういう意味でも留学はすごくいい経験になると思います。ぜひ皆さんにしてほしいし、留学はあらゆる意味でオススメです。


プロフィール

蔵内 淡
2019年:都立総合芸術高校
2021年:ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズ

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