江副記念リクルート財団は2026年8月6日、東京にて毎年夏恒例の対面イベント『Meetup Reclabo 2026』を開催しました。
本イベントは、「世界に挑戦し、ずば抜けた活躍」を志すアート・学術部門の財団生が一堂に会し、互いの専門や部門の枠を超えて交流を深める年に1度の機会です。
今年度は、学術部門の選考委員であり、カリフォルニア大学バークレー校・教授として世界最先端の理論物理研究を行う野村泰紀先生をゲストにお迎えしました。先生の思考プロセスや生き方に直接触れ、37名の奨学生一人ひとりが新たな刺激や気づきを得て、自身の研究・創作活動の「次の一歩」へとつなげる実り多い時間となりました。
本レポートでは、当日の熱気あふれるハイライトをお届けします。
開催概要
◇日時:2026年8月6日(木) 10:00~15:30
◇内容
・基調講演 野村泰紀先生(カリフォルニア大学バークレー校 教授/バークレー・ラインウェバー理論物理学研究所 所長/学術部門選考委員)
・ワークショップ
・成果報告① 学術部門:西健斗(マサチューセッツ工科大学 博士課程)
・成果報告② 学術部門:内藤直樹(ハーバード大学 博士課程)
・理事長挨拶 峰岸真澄
基調講演 野村泰紀先生
野村先生による基調講演では、「宇宙とは何か」という根源的な問いを入り口に、現代の物理学が明らかにしてきた宇宙の姿、そしてマルチバースについてお話しいただきました。
宇宙の外側には何があるのか?宇宙が始まる前には何があったのか?
こうした問いを起点に、私たちが普段当たり前に捉えている時間や空間とは何なのかを考えるところから、講演は始まります。

そこから、アインシュタインの一般相対性理論、宇宙の膨張、ビッグバン、インフレーション、量子力学、ダークマター・ダークエネルギーへと話は展開。宇宙がどのように捉えられ、その成り立ちが解き明かされてきたのかが、順を追って紐解かれていきました。
こうした宇宙をめぐる話に、財団生からも次々と質問が寄せられます。宇宙の初期状態から、直接観測することのできないマルチバースをどのように科学的に検証するのかまで、幅広い問いを通じて野村先生との活発な対話が生まれました。

さらに講演は、地球が数ある惑星の一つ、太陽が数ある恒星の一つ、銀河系が数ある銀河の一つであることを人類が発見してきた歴史から、私たちの宇宙もまた唯一のものではないかもしれないというマルチバースの可能性へと広がっていきます。
当たり前だと思っている前提を問い直し、理論と観測を通じて世界の捉え方を更新していく。専門分野の異なる学生一人ひとりにとって、未知の領域に向き合うための新たな視点を得る講演となりました。
ワークショップ
基調講演に続いて行われたワークショップでは、異なる専門分野の財団生による混成チームを編成。それぞれのチームに一つだけ現実とは異なるパラメーターを設定し、その条件のもとで社会や暮らし、科学技術、文化がどのように変化するのかを、それぞれの専門分野の知識や視点を持ち寄りながら議論しました。

各チームに設定されたのは、光の速度が大幅に遅くなる、一度接触した物質の間に永遠に引力が働く、睡眠中に人類が共通の夢空間につながる、情報に質量がある、など、私たちが当たり前だと思っている世界の前提を一つだけ変えたもの。それぞれの世界で何が起こるのかを、科学、テクノロジー、医療、社会、アートなど多様な視点から考えていきました。
例えば、光の速度が大幅に遅くなる世界を考えたチームでは、遠く離れた人とのコミュニケーションが難しくなることで、生活圏や人間関係はより地域に閉じたものになるのではないかと議論。一方で、光速に近い速度で移動した際に生じる時間の遅れを利用し、臓器をより長く保存できるのではないかという、医療への応用にも発想が広がりました。

また、一度接触した物質の間に永遠に引力が働く世界では、人や物に触れること自体が大きな意味を持つようになります。接触を避けるためにファッションやアートのあり方が変化する一方、生命科学の視点からは、がん細胞の転移や感染症の広がり方への影響、さらに過去に何と接触したのかという膨大な履歴をどのように把握するのかという情報処理の問題にまで議論が広がりました。
情報に質量がある世界を考えたチームでは、情報を蓄積するほど物が重くなるという設定から、膨大なデータをどこに保存するのか、情報を持ち続けることが社会や人々の行動にどのような影響を与えるのかを議論。情報を保存する場所や方法そのものを考え直すアイデアへと発展しました。

各チームの発表後には、野村先生からもそれぞれの設定や議論に対してコメントが寄せられました。学生たちが自由な発想から組み立てた世界が、実際の物理学と意外なところでつながる場面も。情報に質量があるという設定に対しては、実際の物理学にも限られた空間に保存できる情報量には上限があるという考え方があることが紹介され、ブラックホールや情報は本当に消すことができるのか?というテーマへと対話が広がりました。

成果報告① 学術部門52回生 西健斗(マサチューセッツ工科大学 博士課程)
2026年5月にハーバード大学を卒業(コンピュータサイエンス学士・修士同時取得)し、秋からMIT EECS博士課程に進学する西健斗さんは、現在取り組む「AIの内部表現や誤作動の機構・理由を解明する研究」について発表しました。
まず、大学での活動を通じて研究への関心がどのように変化したかについて言及。大学入学当初の「誰もが検証・改善できるオープンなAIの開発」という目標から、現在の「AIのシステムの原理を科学的に理解し、共有する」ことへ主眼が移った経緯を説明しました。そして、そのシステムを理解するための具体的な手法として、AIの入力・出力だけでなく、中間層の計算を分析して原理を把握する取り組みについて語りました。

成果報告② 学術部門53回生 内藤直樹(ハーバード大学 博士課程)
2023年夏からハーバード大学博士課程に在籍する内藤直樹さんは、「分子をデザインする見えないものを作る有機化学」というテーマで発表しました。 安価で多様な結合様式を持つ「硫黄」の可能性を引き出すため、不安定な硫黄化合物を安定化させる独自の構造を設計・合成した過程を説明。これを活用し、二酸化炭素から工業的に有用な一酸化炭素への変換を行うシステムや、医薬品に頻出する環状構造の合成手法を開発していることを報告しました。

閉会挨拶 峰岸真澄
イベントの締めくくりには、理事長の峰岸真澄より挨拶を行いました。
AIの急速な進展など、社会や仕事のあり方が大きく変化する中で、学びを続け、時に挑戦し、自ら新しいものを生み出していくことの重要性を財団生に伝えました。
また、進学や研究、キャリアなど、これからさまざまな分岐点を迎える中では、悩んだり、進む方向を変えたりすることもあるとしたうえで、軌道修正を重ねても、最初に抱いた情熱を忘れず、自分が本当に打ち込みたいことを追求し続けてほしいとエールを送りました。
最後に、高い目標に向かって挑戦する財団生を、厳しい基準を持ちながらもしっかりと支えていくという財団の姿勢にも触れ、困ったときにはいつでも相談してほしいと呼びかけ、イベントを締めくくりました。




