――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
“物理学とは、すべての現象をひとつの考え方で説明する学問です“
これは高校の物理科の先生が授業で頻繁に口にしていた文句で、物理学の本質を簡潔に表した言葉だと思います。この言葉に感動した私は、小さい頃からの医者になるという夢を諦めて、大学でもっと物理を学びたいと思うようになりました。東京での生活に生意気にも窮屈と退屈を感じていた私は、進路選択の際に進学先として海外の大学を志望しました。幸運にも、物理や数学の研究機関として名高いプリンストン大学に入学することができ、今に至ります。
私の将来の夢は、生物物理の研究を通して、人類文明の知の探究の一部となることです。従来、物理学は天文、素粒子、物性など、無機的な現象を扱うことが主でしたが、生物物理はその対象を有機的な、生命的な現象に拡張する取り組みです。神経細胞の発火から森林の成長まで、時間的にも空間的にもさまざまなスケールの現象に、全く別の目的と経緯で発展した物理学の理論と実験手法を、真に驚くべき形で応用する。この点で「すべての現象をひとつの考え方で説明する」という物理学の目標をよく体現した分野であると思います。生命的な現象を見ることによって、生物学的な問いはもちろん、例えば乱流や相転移といった物理学的な問いの解決を目指す、まさに物理学と生物学の対話的な取り組みであると言えます。

――日常生活、生活環境について
平日は、朝から講義に出席し、予定がない時には授業の課題に取り組みます。普段は物理や数学の勉強に多くの時間を使いますが、プリンストン大学では数理系の専攻であっても人文科目が必修となっているため、たとえば幼児文学、米政治、イスラム史、フランス語やロシア語など、専攻科目とは関係のない科目も勉強します。週末にも課題や研究の作業を進めるため、週を通して非常に忙しいことが多いです。
日常生活は大学のキャンパス内で完結します。大学のイメージカラーが橙色であることから、学生の間で”Orange Bubble”という言葉があるほど、学期中にキャンパス外に踏み出ることはほとんどありません。街には本屋やレストランが並び(中華やメキシコ料理が人気です)、日本食を専門に扱う商店もあるので、大学が休みの時には友人たちと出かけることもあります。大学の周りには裕福な家庭が多く、治安はとても良好です。校風としては、アイビーリーグの中ではかなり政治的に保守と言われていますが、全体的に浮世離れしたような雰囲気があり、政治的トラブルも少なく、勉学に集中できる環境が整っています。また、ボストンやニューヨークと違って都会の騒雑から離れていて、自然が豊かで、私はとても気に入っています。

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
現在は、非平衡系や乱流の物理学をテーマとして、研究室に所属して磁性細菌の集団運動に関する研究をおこなっています。自分自身のプロジェクトを持たせてもらえているので、自分で好きなように物事を進められる一方で、実験装置のエンジニアリングから理論の構築まで一貫して担わなければならないため、たくさんの人の知恵と力(とお金)の恩恵に授かっています。また、生物物理学というユニークな分野に携わる身として、物理学だけでなく分子生物学や工学などの学科のセミナーにも出席しています。このようにして、何か困った時や行き詰まった時にアドバイスをもらえるように、日頃から顔を広げるよう努めています。
学業以外には、大学の水泳部に所属しており、長生きするために体力維持を心がけています。典礼等のカトリックの活動にも頻繁に関わっています。
――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
プリンストンで3年目となる今年の目標は、現在行なっているプロジェクトを進め、いずれ論文として形にすることです。また、物理学専攻の三年生は、秋学期と春学期に1回ずつ、研究プロジェクトを行う必要があります。これは現在行なっている研究とは違ったトピックのものにする必要があるため、今まで学んだスキルを活かす良いチャンスになるはずです。
最後に、平素より学生生活を親身にサポートしていただいている江副記念リクルート財団の皆様に、厚くお礼申し上げます。
