2025/08/15

ドイツ留学からベルリン・フィルへ│佐々木つくし

2025/08/15

佐々木つくし

佐々木 つくし Tsukushi Sasaki

留学を始めてはや2年が経ちますが、20代半ばになってもこうして学びに費やすことができるのは本当に幸せなことだと実感しております。たくさん学んで失敗できる最後のフェーズだと思って様々なことに挑戦し、自己と音楽と真摯に向き合…

今年の4月からまた財団の奨学生として戻って来てくれた佐々木つくしさん。ここ数年の飛躍は目を見張るものがあります。何がその飛躍を支えたのか。また今新しい環境で何を見ているのか。いろいろな質問に答えてくれました。

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Q1. この日のプログラムは、モーツァルトで始まり、プーランク、武満徹、そしてシューベルトでした。変化に富んだプログラムで最後まで集中して楽しむことができました。このプログラミングはどのように考えて選ばれましたか?
 

シューベルトの「幻想曲」は、藝大時代の師匠である玉井菜採先生がご自身のリサイタルで弾かれていたのを拝聴して以来、強く憧れていました。いつか日本で大きいリサイタルをするときに絶対弾きたいと前から思っていたので、今回のプログラムに組み込みました。シューベルトの存在感が強いので、後半はファンタジーな世界観でまとめようと思い、武満の「妖精の距離」を、前半には1月のコンクールで弾いていたモーツァルトとプーランクの相性が良かったので、それを弾くことにしました。

リサイタル終演後、ピアニスト秋元孝介さんと

Q2. 佐々木さんは、2023年4月リューベック音楽大学に留学開始。2024年5月プラハの春国際音楽コンクール第1位。2024年10月ベルリンフィルハーモニーのカラヤンアカデミーに合格。2025年1月ドイツの音楽大学からの選抜者で行われるメンデルスゾーンコンクールヴァイオリン部門で第1位。ここ1,2年の成長は目を見張るものがありますね。ご自分でも自信につながっているのではないかと思いますが、何が成功につながったと思いますか? 

一番大きかったのは、やはり留学による環境の変化だと思います。正直、生活面での方が大変なことが多かったですが、恥ずかしい思いをしながらも体当たりで生活していくうちに、今までの鎧が取れたのか、音楽に対しても等身大で素直に向き合えるようになりました。

また、リューベックは時間の流れがゆったりとした小さな街なので、今までの人生で一番練習に集中することができたと思います。太陽が出たらお散歩をする(北ドイツならではの天気ゆえ)、日曜日はいつもより長い教会の鐘で目を覚ます、などなど生活に根付いた習慣からインスピレーションをもらえるところもよかったです。

リューベック旧市街には5つの教会があり、そのうちの一つ

Q3. 今年からベルリンフィルのカラヤンアカデミーに合格されて、ベルリンフィルと演奏されていますね。戸惑い、新しい発見、学びなどがあったと思いますが、いかがでしょうか。 

ベルリンフィルはソリストの集まりと言われていますがその通りで、どこに座っていてもあらゆる方向から輝かしい音が聞こえてきます。それどころかどんなメロディもパッセージも、彼らが弾くとものすごく説得力があるのです。周りの団員さん方が上手すぎて、そっちに気を取られてよくミスをしてしまうということを除けば、最高な環境です。

また、オーケストラを弾くという点で言うと、色々な作曲家の音楽(しかも作曲家たちが一番力を入れたであろう交響曲の分野)に頻繁に触れられるので、たくさんの気づきがあります。大人数だからこその音楽的なうねりや揺らぎ、はたまた他の楽器から学べる発音やアーティキュレーション、音のシェイプといった細かいことまで、ヴァイオリンを一人で練習していては気づけないことばかりです。

毎週新しい曲を譜読みして本番を3日間やるのは大変ですが、今は新鮮でとても楽しいです。

ベルリンフィル初めての公演

Q4. ソリストとして、また室内楽奏者として演奏する機会があると思いますが、それぞれの演奏の楽しいところ、難しいところはどんなところでしょうか。互いに影響を与え合うこともあると思いますが、いかがでしょうか。 

私はそこまで別分野として考えていないのですが、ソロは1人で世界観をつくることができ、室内楽は複数人で同じ世界観をつくることができる、というところが醍醐味じゃないでしょうか。でもソリストとしてオーケストラと室内楽的に音楽を作っていくこともありますし、ソロで多声部を演奏することもあります。ですので、室内楽を勉強することは弦楽器奏者にとって必要不可欠だと思います。 

Q5. 留学されて2年程過ぎたと思いますが、一番印象に残っている出来事はどんなことでしょうか。 

たくさんありますが、リューベック大学のオーケストラでマーラー9番をコンサートミストレスとして演奏できたことでしょうか。指揮してくださったChristoph Altstadt 先生はユースオーケストラの指揮にも慣れていらっしゃる方で、とても効率的なリハーサルをしてくださいました。リューベックの学生はライバル意識が強すぎないので、みんなが素直に音楽に向き合います。拙い私にもしっかりついてきてくれ、本番は個人個人の強い気持ちがギュっと集まり昇華したような体験ができました。

マーラー9番の終演後

Q6. 佐々木さんが演奏活動を続けていくうえで一番大事にしているのはどんなことですか? 

一期一会という言葉が好きなのですが、さまざまな場を通じて多くの方と出会えることに感謝すること。聴いてくださるお客様に対する感謝を込めてお辞儀をすること。 

Q7. 今後どんなことに挑戦し、何を学んでいきたいと思っていますか? 

引き続き国際コンクールに挑戦し、自分の表現を追求していきたいです。あとはカルテットを弾くのが大好きなので、カルテットを組んで大学に入学する夢もまだ諦めていません! 

Q8. 今、ヴァイオリン以外で一番興味を持っていることは何でしょうか。  

ありきたりですが、自炊を頑張っています。

ヨーロッパの建築物の歴史にも興味があるので、さまざまな都市を訪ね、知識を増やしていきたいです。

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ドイツのリューベック音楽大学に留学、国際コンクールで優勝、カラヤンアカデミーに合格、ベルリンフィルで演奏。この2年で驚く程大きく羽ばたいたつくしさん。その成長を存分に披露した「明日への扉」のコンサートは、聴き手にとっても驚きと喜びに満ちた忘れられないひとときとなりました。奨学生の飛躍を間近で見届けられることへの感謝の気持ちを新たにしたコンサートでした。

佐々木つくし

日時:2025年07月24日 19:00
会場:日本製鉄 紀尾井ホール

◆プログラム
「明日への扉」Vol. 46
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.454
プーランク:ヴァイオリン・ソナタ FP119
武満徹:妖精の距離
シューベルト:幻想曲 ハ長調 D934