2026/04/06

細田 翠 卒業レポート

2026/04/06

細田翠

細田 翠 Midori Hosoda

世界の人々の健康格差を解消し、患者を人間としてみられる医師を目指しています。現在はオックスフォード大学修士課程で、ブータンにおける若年薬物依存症者のナラティブ分析を行っています。学部はコロンビア大学で、医療文学と生物学と…

専攻分野について

 

救急医療とグローバルヘルスは、私にとって医学を学び続ける原動力となっています。日本の中学・高校を卒業した後、アメリカやイギリスで大学、修士課程、そして現在のメディカルスクールで教育を受けてきた経験は、医学そのものと医療へのアクセスに対する私の視点を大きく形作ってきました。このコネチカット州ニューヘイブンで見られる医療格差は、地球規模における格差を反映していることを、私はメディカルスクールの一年目から実感してきました。

 

これから四年間の救急科専門医(Emergency Medicine)の研修と集中治療フェローシップを見据える中で、鎌状赤血球症の啓発活動とポイント・オブ・ケア超音波(Point of Care UltrasoundPOCUS)の教育活動を軸に、一見離れているように思われる私の関心領域は、より具体的で統一た実行可能なビジョンとなっています。鎌状赤血球症は、急性期の救急医療とグローバルヘルスの公平性が交差する象徴的な疾患です。コロンビアにいた大学時代はSTRIVEメンターシップ・プログラムの運営に携わり、メディカルスクールではSTRIVEをイェール大学に拡大し、若い患者が抱える多層的な課題を実感してきました。


【臨床と研究の両立】 Dr. Cecelia CalhounとAmerican Society of Hematology Annual Meeting and Expositionでポスター発表を行いました。



救急外来では、激しい痛みを伴
鎌状赤血球症のクリーゼという、即時の専門的介入を必要とする急性の医療事象に日常的に直面します。世界的に見ると、鎌状赤血球症深刻な合併症を軽減するためには、薬物療法だけでなく、早期の遺伝子スクリーニングや家族計画、継続的なカウンセリング、地域社会の支援など、体系的なサポートが不可欠です。これまでの経験から、包括的な救急医療には急性期の対応だけでなく、その背景にある医療資源の不足や社会的要因にも目を向ける必要があることを学びました。STRIVEメンターシップ・プログラムを通じた活動も、その課題への一つの取り組みでした。

 

私がポイント・オブ・ケア超音波(POCUS)の教育に力を入れてきたのも、同じ問題意識に基づいています。POCUSは、急性期の現場でベッドサイドから即座に診断情報を得ることができる手法であり、医療資源が限られた環境でも使えます。救急医療の現場では、一秒を争う状況で迅速な診断を可能にする重要なツールです。私が実践的な超音波ワークショップの拡大や医学生への教育に取り組んできたのは、POCUSがイェール・ニューヘイブン病院内だけでなく、世界中の医療資源が限られた地域でも活用できる医療技術だからです。それは高度な診断能力を患者のもとへ直接届けることを可能にし、経済的・地理的な障壁を越える手段となり得ます。

 

鎌状赤血球症の意識喚起と超音波教育における私の経験は、最終的に「医療資源の状況に関係なく質の高い急性期医療を提供する」という一つの使命へと収束しています。私の目標は、疎外されがちな患者や地域社会のために医療へのアクセスを広げることです。救急医療はその実現に最も適した分野であり、重篤な疾患に対応する専門的能力を身につけると同時に、世界中の脆弱な人々に対して、実践的で持続可能な医療介入を推進したいと考えています。

 

私の将来の夢は、中高時代から変わらず、医師としてWHOや国境なき医師団などの国際機関で活動し、世界の健康格差の是正に貢献することです。その実現に向けて、メディカルスクール卒業後は救急科のレジデンシーに進み、その後集中治療のフェローシップを経て、専門医資格の取得を目指しています。江副記念リクルート財団のご支援のおかげで夢の実現に向けた大きな一歩を踏み出すことができました。

 

専攻分野以外について

 

メディカルスクールでの生活は、あらゆる意味で想像を超えるものでした。そこには多くの「不確実性」がありました。医師になるための学びの一つは、その不確実性と共存できるようになることだと感じます。その中で私が学んだのは、まず自分自身を大切にすることです。自分が心身ともに健全でなければ、何も始まりません。

 

中高、そして大学時代、私はかなり無理を重ね、身体を限界まで追い込んでしまうことがよくありました。念願だったメディカルスクールに入学した後、精神科医であるファカルティーコーチと最初の秋学期に立てた目標は、「睡眠時間を確保する」ことでした。また一年目は、以前の活動レポートで述べたトライアスロン部を立ち上げ、平日の夜や週末に水泳、サイクリング、ランニングの練習を続けてきました。現在は、週に最低三時間は運動することを目標とし、身体と心のケアを継続しています。


【臨床実習で忙しい中でも運動を継続】 メディカルスクールの先輩や後輩とランニングイベントに出場しました。


また、メディカルスクールのオリエンテーションで何度も強調された言葉が、「
be flexible and adaptable」でした。つまり、「柔軟性」と「適応力」を持つことです。何かを達成する方法は一つではなく、常に複数の道があります。計画を立てて努力することは大切ですが、それと同じくらい柔軟性も重要です。計画の変更や回り道を恐れない姿勢こそが、成功へとつながる鍵であり、肉体的にも精神的にも過酷な医療という職業を長く続けていくための秘訣だと感じています。

 

更に、オリエンテーションでは「call home」と何度も言われました。高校卒業後、ニューヨーク、そしてイギリスのオックスフォードへと移り住んだ私にとって、「home」とは日本にいる家族だけではありません。世界各地にいる友人や仲間と連絡を取り続けることが、困難な日々を支える大切なサポートとなりました。医学特有の倫理的課題について自分の考えを聞いてくれる親友や、同世代として将来のキャリアや人生について相談できる家族のような友人の存在は、日々を乗り越える大きな支えとなっています。またメディカルスクールでも、一緒に学び切磋琢磨しながら互いに高め合い、体調を崩した際には支え合い、週末にはドライブに出かけるなど、楽しい時間を共に過ごせる友人たちに恵まれました。

【メリハリの大切さ】 午前中に友人と勉強した後、イェール大学の体育館(Payne Whitney Gymnasium)の前で開催されたインドのホーリー祭に参加しました。

 

後輩たちへのメッセージ

 

この一年間の臨床実習を通して学んだことの一つは、目標を日ごと、週ごとといった小単位で設定することの大切さです。私は日々、改善したいことや新しく練習したいことを一つ決めるようにしてきました。例えば、上級レジデントや指導医の前で自分が担当している患者の口頭プレゼンテーションをより分かりやすく行うことや、超音波装置の操作を練習することです。このように目標を具体化させることで、過度なプレッシャーを感じることなく、限られた時間とエネルギーを集中させることができます。そして一日の終わりには、少なくとも一つのことは前進できたと実感することができます。

 

大切なのは、前に進み続けることです。もし前進していると感じられなくなったときは、少し方向を変え、周囲に助けを求めてください。信頼できる家族や友人、メンター、アドバイザーと話すことで、前進を妨げる要因が見えてくるはずです。

 

最後に、臨床実習を通じて指導医、研修医、そして患者さんからいただいた言葉のいくつかを紹介します。多くは臨床の現場で言われた言葉ですが、私はそれらを日常生活にも活かしています。このレポートを読む方々にとっても、何か参考になる言葉があれば嬉しく思います。

 

• “Be bold. This is different from being arrogant.”
「大胆であれ。これは傲慢であることとは違う。」(血液内科の先生)

 

• “Just because you can do everything, doesn’t mean you have to do everything.”
「すべてできるからといって、すべてやらなければならないわけではない。」(血液内科の患者)

 

• “Trust, but verify.”
「信ぜよ、されど確認せよ。」患者の言葉を信じつつ、客観的な検査データで必ず確認する。(神経内科の研修医)

 

• “Have mechanisms to not take things personally.”
「物事を個人的に受け止めすぎないための方法を持ちなさい。」患者や指導医の言葉に傷ついたときの対処法を身につける。(総合内科の研修医)

 

• “Practice the exercise of introspection—think about how a patient makes you feel and be able to verbalize it.”
「内省を習慣にしなさい。患者と接して自分がどう感じたかを考え、それを言語化できるようにする。」患者さんがあなたにどう感じさせるかについて、自分自身に偽りなく正直になる必要がある。これは彼らの臨床管理にも影響を及ぼす。(精神科の研修医)

 

• “In soul searching, know thyself. Be honest with yourself. Choose a medical specialty that you could see yourself doing for decades.”
「自分探しをするなら、まず自分自身を知ること。自分に正直になり、何十年も続けられると思える専門分野を選びなさい。」(講義に来られた先生)

 

• “None of us knew what we would end up doing when we were in medical school—there’s no need for you to have all the answers today.”
「私たちもメディカルスクールの頃は将来何をするか分かっていなかった。今日すべての答えを持っている必要はない。」(神経眼科の先生)

 

• “When there’s a will, there’s a way.”
「意志があれば道は開ける。」(神経内科の先生)

 

• “This is Yale not jail.”
「ここはイェールであって、刑務所ではない。」患者が入院を望まない場合、たとえ医学的に危険な状態であっても、無理に治療を強制することはできない。(循環器内科の先生)

 

• “Put your money down. Commit to your differential diagnosis and execute your plan.”
「自分の鑑別診断に責任を持ち、それに基づいて行動しなさい。」(循環器内科の先生)