2026/07/08

川村祐貴 卒業レポート

2026/07/08

川村祐貴

川村 祐貴 Yuki Kawamura

脳卒中の急性期治療の飛躍的な向上により多くの命を救えるようになりましたが、脳卒中は依然として患者の日常生活を一瞬にして奪ってしまうこともある「怖い病気」であることに変わりありません。私は脳卒中の新たな治療法を確立すべく、…

[臨床と研究を両立するPhysician-scientistを目指して]

江副記念リクルート財団奨学生としての5年を振り返るにあたって、私が財団に応募した時の資料を見返しました。私の最終選考でのプレゼンテーションでは、ビジョンとして
「脳卒中・心臓病が死に至る「怖い病気」でなく、予防・治療可能な世界を目指す病気が暮らしの足かせとならないために、生活の礎としての医学を追求する」
ことを掲げていました。

この夢は今も変わりません。この目標を達成するために財団応募当時は血管の疾患の研究と機械学習の研究を行っていたのですが、これらの研究で培ったスキルを活かして現在は脳卒中後の炎症機序を同定する研究を行っています。私の研究を通じて脳卒中後に脳内で起こる炎症の原因を突き止め、それを制御することにより後遺症を最小限に抑えることを目指し、なるべく現役医師として活動している間に治療薬の治験を行いたいと考えています。

卒業に際して署名した医師の責務を全うする旨の宣誓書です。

財団生としての5年間も終わり、無事ケンブリッジ大学医学部を卒業し医師免許を取得することができました。この間に主著論文4報と共著論文7報を発表しました。また、研究代表者として競争的研究費を獲得したり、診療ガイドラインの策定に参画したり、論文の査読を行うなど研究者としてアクティブに活動できたと考えています。今後もPhysician-Scientistとして精進していく所存です。

[財団生としての学び]

ケンブリッジ大学で5年間医学を学びましたが、むしろ患者さんと接する中で「生きること」について学んだことが多かったと感じています。様々な人の人生の苦楽について聞き、少しではありますが多くの人の生き様を近くで見させてもらう職業であるという点において、医師はどんなに恵まれているのだろうと思うことが多くありました。

私が一人っ子だからかもしれませんが、医学部の医療コミュニケーションの実習や病棟では、生まれてからこんなに本気で他人の話を聞いたことがないと思うほど、真剣に他の人の話を聞き、気持ちを慮る時間を過ごしました。試験勉強をしている時よりもずっと頭を使わなければいけなかったように思います。

先日、10年ぶりに会った高校の友人から「丸くなったね。」と一言言われたこともありました。「今までは尖っていたということ?」と思わず突っ込んでしまいたくなりましたが、似たようなことを他の友人にも言われたことを思うと、自分なりに人として少しは成長できたのかなという淡い期待を持っています。

赤の他人の状態から数分も経たずに、家族にも話したことのないようなことや、生き方そして生死にまで関わる話をする関係を構築することは容易ではありませんし、些細な言葉がいとも簡単に信頼関係を壊してしまいます。「患者さんだったらどう感じるか」と自分に置き換えて考えたり、患者さんのわずかなためらいから言葉の裏の想いを想像することなど、私なりに気をつけていることは多くありましたが、患者さんの数だけ多くあるコミュニケーションの方法に応えられるようになるまでにはまだまだ修行が必要だと感じています。私の座右の銘は「徳に於いては純真に、義務に於いては堅実に」です。努力ももちろん必要ですが、それを導いてくれるのは高い倫理観だと思います。いつも報われるとは限りませんが、真摯に、正しいことをするように努めれば自ずと伝わるものだと信じています。

卒業式では、いわゆる「ヒポクラテスの誓い」の現代版であるDuties of a Doctor(医師の責務)を全うするという宣誓を行いました(写真1)。ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでしたが、これまで支えてくださった方々への感謝とともに、医師としての責任を改めて胸に刻む、感慨深い瞬間となりました。

卒業式にて

[後輩へのメッセージ]

様々な分野で活躍されている財団生の皆さんにアドバイスというのもおこがましいですが、もし私自身の経験から一つお伝えできることがあるとすれば「時には一歩下がって全体を見てみること」の大切さです。私自身、目の前にある大きな問題に圧倒されそうになったとき、一歩下がってみることで、それが思ったよりも小さなことに思えたり、一つしかないと思い込んでいた解決策以外にもたくさんの道があることに気づけたりしました。

目標に向かって突き進んでいるときほど、私たちは視野が狭くなりがちです。私の場合も、病気を治すことばかりに意識が向くあまり、目の前の患者さんの喜怒哀楽という「人間らしさ」を見失いそうになることがあります。診療をするとき、「医師である前に人間であれ」と言われたことがありますが、時には「音楽家」「スポーツ選手」「芸術家」「研究者」という肩書きを忘れ、一人の人間として向き合うこともまた、前へ進むためには大切なのかもしれません。

最後に、この場をお借りして5年間手厚いサポートをいただいた財団理事・職員の皆様、そして共に過ごした財団生の仲間たちに感謝したいと思います。財団のご支援のおかげで5年間、心置きなく学びに打ち込むことができました。重ねて感謝申し上げます。