――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
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私の夢は、航空機・宇宙機の開発に携わり、昔から憧れていた「未来」を自分の手で1日でも早く近づけることです。きっかけとしては、幼い頃から現在に至るまで、主に3つの関心の柱が今辿っている道へと収束したと見ています。 まず一つ目の柱は、航空機や乗り物に対する純粋な関心です。幼少期には扇風機に興味を示したり、駅に入って来る電車の車両の種類を見分けることなどを楽しんでいたらしいです。航空機への関心は、親の仕事の関係でアメリカに引っ越し、通学路上を飛行機が通過するのを見たのが始まりであったと思います。その後親に頼んでエアショーに連れて行ってもらったり、フロリダ州に住んでいたからこそスペースシャトルの打ち上げを実際に見に行きました。振り返ってみると、これらの出来事が私の航空宇宙に対する興味の原点であったのか、元々自分の中にあった「空を飛ぶもの」に対するより根本的な好奇心の表れであったのか、と厳密に決定できませんが、今でも外で航空機の接近音が聞こえると、必ず無意識に顔が空を見上げて、何か強い感動を感じます。そういう意味では、今通っているスタンフォードも含めこれまで偶然にも主要空港の着陸経路の真下に住んできたことを幸運に思っています。 二つ目の柱は、「未来」への好奇心です。題名は覚えていませんが、小学校の図書館で50, 100年後に実現する可能性がある技術(特に航空・宇宙機)の図がある本に出会い、何度も読み返したのを覚えています。また、DuneやIsaac AsimovのFoundationシリーズなどの本や、Star Trek, The Expanseなど全般的にSFにも夢中になり、本を閉じたり、映画を見終えたりする度に、描かれていた未来の世界にタイムトラベルしたい、という強い牽引力を感じていました。勿論それは不可能ですが、自分が見てみたい未来をいかに自分の手で近づけられるか、という思いがそこで芽生えました。 三つ目の柱は、数理物理学への興味です。特に中高生の時は、「数学の授業では数学」、「物理の授業では物理」、と分野間の内容の重複をあまり意識していなく、(入試での採点を考慮して)例えば授業Xの問題を授業Y (X≠Y)の手法で解くことはあまり推奨されていませんでした。そこで、ある日学校の物理の先生が通常の授業外で微積を使い、質量・バネ系とLC回路が同じ(微分)方程式に従うことを教えてくださり、一見異なる現象が、根底では同じ数式で結ばれていることに強烈な感動を覚えました。それが(一つの)きっかけで二重専攻ができるアメリカの大学に進学し、機械工学に加えて応用数学を専攻しました。偏微分方程式、複素解析、非線形力学・カオスなどと、その物理現象(特に航空宇宙工学の大きな柱である流体力学)への応用先を学ぶ過程で、数理物理学という学問に更に強く惹かれました。 冒頭で、私の夢は次世代の航空・宇宙(輸送)機の開発に携わることである、と述べました。しかし、航空宇宙工学は広大な分野です。そこで、学部時代の学びを通じて、航空機が空を安全に飛行したり、宇宙探査機が遠く離れた小惑星に到達する背景には、何世紀にもわたり人類が積み重ねてきた自然界に関する発見を表す物理学、そしてそれを論理的に結びつける数学という枠組みがある、という事実に強く感動しました。勿論これはエンジニアリングという営みの定義そのものであり、当然なことですが、学部時代の勉強で自分の肌でそれを確認できたのは、夢への道の明確化に繋がりました。 具体的には、航空機・宇宙輸送機、またはそれらが経験する物理現象を再現できる「デジタルツイン」を構築することができれば、物理的実験・試験のみでは計測困難な性能データを提供し設計や開発過程の加速化が見込まれます。これらのような「シミュレーション」は、その言葉から、パソコンで何らかのソフトウェアでボタンを押し、結果を得るような簡単なプロセスが想像されますが、実際はそれほど簡単ではありません。例えば、「航空機が空を飛んでいる」という状況をどのようにコンピュータに「伝える」か。そしてその航空機の部品に流れる空気の運動を、どのように再現するか。中高物理ではma=Fを解けばその物体が次の瞬間にどう動くかが分かると学びますが、流体力学の支配方程式であるNavier-Stokes方程式は解析的に解くことが殆どの場合不可能で(N.S.方程式の解に関する厳密な事情は、ミレニアム懸賞問題の一つであり、現在未解決です)数値解法を使って近似的に解く必要がありますが、物理をどのようにコンピュータに伝えるか(=離散化)によって最終解の質が変わったり、目的の物理現象が十分再現されないことがあります。また、航空宇宙工学を含む多くの応用先では流れが乱流であり、(簡略化すると)渦構造のスケールに大きな差が発生します。よって例えば「より細かく」解くことができますが、計算量は膨大になり、スーパーコンピュータを利用しても非現実的な時間がかかります。このような課題に関してより知識と経験を得たいと考え、数値流体力学の数値計算法、大規模な流体シミュレーションの先駆者のもとで直接学べる研究所を目指し、現在のスタンフォードでの博士課程生活に至っています。 |
――日常生活、生活環境について
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私の研究は主にコンピュータ上で行い、特に計算自体は別の州にあるNSF(アメリカの国立科学財団)のスーパーコンピュータ上で(リモートで)動かすため、理論上場所を選ばずに進めることができます。よって、何度かキャンパスの外のベンチや、カフェでの作業を試してみましたが、結局朝起きたら研究室に行き夜中まで残るというような生活に収束しました。スタンフォードの航空宇宙工学科のほとんどの研究室は一つの棟に入っていますが、私の所属している研究室はそれらとは少し離れた、一軒家のような建物にあります。そこには乱流を研究する研究グループが7つ集まっており、国際学会に行かなくても隣の部屋にさえ行けば乱流研究を世界的に牽引する教授やその学生と交流できる、と言う非常に恵まれた環境に幸い身を置けています。 私を含め学士課程を修了した直後に博士課程に進学した学生は、最初の2年間は修士号を取得するために授業を履修します(特に航空宇宙工学は工学部の中でも履修要件が多いと聞いています)。その後も博士課程の修了条件として(選択)授業を履修する必要があります。特に最初の2年間は復習に近いような内容の授業もありましたが、それぞれの分野を代表する教授がどのように問題を捉えて考えるのかを垣間見る機会でもあり、勉強になりました。例えば、1学期目の空気力学の授業を担当したのは現在次世代航空機の一種であるBlended Wing Bodyの開発に携わり、ユニークな航空機設計で有名な教授で、実際の設計現場で必要な流体力学現象に関する「直感」を利用した視点に大きな価値を感じました。 私は元々、専門分野に限らず新しいことを学ぶことが好きで、その点ではスタンフォードで興味深い授業が幅広く行われていることに魅力を感じています。例えば自動運転に興味を持った時には、その技術の先駆者であり現在シリコンバレーで起業されている方から直接学ぶ機会があり、その一環として一般向けのウェイトリストが開放される前にWaymoに試乗することができました。また、高校時代にYouTubeに上がった講義動画で見ていた時枝正教授の流体力学に関する講義にも参加することができました。何を学ぼうとしても、その分野の先駆者や第一人者から直接教えてもらい、交流できる環境で毎朝目を覚まし、勉強し、研究ができていることを心からありがたく思っています。 研究や授業以外では、学部生のメンタリングにも携わっています。最近では現地の中高生を対象に、カオスに関する入門授業を教えてみました。私は以前から教育に関心を持っており、上の文章でも述べた、私自身が高校生の頃に感じた数理物理学に対する感動を少しでも味わってもらいたい、と思いながら教えました。 |
――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
このレポートの最初の方で、将来の夢と現在の博士課程の研究が、幼い頃から持っていた3つの関心の柱から発展してきたことについて述べました。特にここ5年ほどで強く感じるようになったのは、以前に立てた人生計画を固定的なものと見なして道のりにこだわり過ぎるのではなく、途中で思いがけず出会った機会や発展した関心にopen-mindedで接することの大切さです。特に学部時代、専門知識を発展させる中、将来の計画を立てる際に用いる前提は、新しいことを学び、それまで考えたことのなかった知見や選択肢に出会う度に更新していくものだと気づきました。目標そのものを見失わない一方で、それに辿り着く道のりに関しては柔軟でありたいと考えています。
研究に於いても、以前学習したこととの類推によって、目の前の現象や概念を(それを学習した最初の時点では無関係に見えたとしても)より早く理解できていることに気づくことは珍しくありません。例えば、フーリエ変換を最初に学習した時は、乱流を正確にシミュレーションをする方法で利用できるとは思っておらず、後にスペクトル法を学習した時に感動を覚えました。
この考え方は、私が奨学生プロフィールの「座右の銘・抱負」に記した、”You can’t connect the dots looking forward. You can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dot will somehow connect in your future.”というSteve Jobsの言葉を思い起こします。続けて”This approach has never let me down…”とJobsは述べます。勿論適度な先見と計画は必要ですが、その上で自分が心から面白いと感じられる勉強や研究、新たな機会に挑戦していけば、それぞれの「点」が(例え数十年後であったとしても)いつか繋がり、幼い頃から抱いていた夢に自然と近づいていくと考えております。

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
博士課程の前半戦を終えた現在ですが、第一目標は勿論、これまで進めて来た研究を発展させ、自分の専門分野に於いて真の専門家と自信を持てるよう、疑問を一つ一つ徹底的に追求することです。私の現在の研究テーマは、騒音低減への応用を見据えた数値流体力学・空力音響計算です。航空機の騒音問題は、現在でも新しい航空機の設計にあたり重要な検討事項で、かつてコンコルドなどの超音速旅客機が広く普及しなかった理由の一つでもあります。そうした中、特に今年はNASAのX-59実験機の飛行試験が本格化し、航空宇宙業界による超音速飛行への関心も高まりつつあると見ています。
また、現在の研究テーマを深掘りするのと同時に、航空機設計全体についても学びを深め、システムとしての「広い」理解を熟成させたいと思っております。このように専門性と幅広い視野に両方注力することにより、航空宇宙工学が分野レベルで抱えるhigh-levelな課題を見出す力と、その実現を妨げているlow-levelの技術的課題を解決するための研究力・技術力を備えた研究者・エンジニアになることが、博士課程後半戦の目標です。
このような私のロードマップを信じ、スタンフォードでの学習・研究生活を支えて頂いた財団の方々に、厚く感謝申し上げます。



