この度、私はエディンバラ大学の学部課程を終え、財団を卒業する運びとなりました。まずは、英国で学んだ5年間にわたり、私の挑戦を支え続けてくださった財団の皆様に、心より御礼申し上げます。
「タンパク質の構造と機能を解明する」という大きな目標を掲げ、渡英の準備を進めていた2021年夏頃、AlphaFold2が公表され、アミノ酸配列から単一のタンパク質鎖の立体構造を高い精度で予測することが可能になりました。その後、複合体を扱うAlphaFold-Multimerが登場し、さらに2024年に発表されたAlphaFold 3では、タンパク質だけでなく、核酸や低分子化合物などを含む複合体の立体構造や結合様式まで予測対象が広がりました。ロンドンとエディンバラで学んだ5年間で、構造生物学は私が渡英前に想像していた以上の速さで発展しました。
一方で、立体構造を予測することと、そのタンパク質が細胞内でどのように働き、他の分子と相互作用し、その機能の異常が疾患へどのようにつながるのかを理解することは同じではありません。そのため、私が5年前に抱いていた目標そのものは、今も変わっていません。ただ、何を明らかにしたいのか、そのためにどのような技術を身につけ、どのような研究者を目指すべきなのかという道筋は、以前よりもはるかに具体的になりました。現在は、AIやバイオインフォマティクスによる予測を実験へとつなげ、そこで得られた結果を次の仮説に生かせる研究者を目指しています。
このように自分の関心を広げながら、将来の方向性を時間をかけて模索することができたのは、ひとえに財団の奨学金による支援があったからです。私が英国に滞在していた5年間には、国際情勢や為替相場が大きく変動しました。特に急速な円安が進む中、財団からの支援がなければ、海外で学び続けること自体が非常に難しかったと思います。財団の支援のおかげで、研究活動に十分な時間をかけ、構造生物学、タンパク質工学、バイオインフォマティクス、計算創薬など、専門分野の境界を越えて関心のある技術を学ぶことができました。
同時に、支援を受けることは、私に大きな責任感を与えてくれました。自分の挑戦を応援し、今この瞬間にも夢を支えてくださっている方々がいる。その事実を意識するたびに、与えられた環境を当然のものと思わず、目の前の勉強や研究に一層真剣に取り組まなければならないと感じました。研究が思うように進まない時や、将来の方向性に迷った時にも、自分の挑戦を信じて支えてくださっている方々の存在が、もう一度前を向く力となりました。
2026年10月からは、ケンブリッジ大学のMPhil in Biological Sciencesに進学します。修士課程では、研究者として次の一歩を踏み出すために、学部卒業研究の中心であったバイオインフォマティクスやin silicoでの創薬研究から一度離れ、ウェットラボを中心とした研究に挑戦したいと考えています。特に関心を持っているのは、Hyvönen教授の研究です。Hyvönen研究室では、タンパク質の構造がその機能をどのように生み出すのかについて、生化学、生物物理学、構造生物学などの手法を用いて研究し、その知見を創薬に応用しています。修士課程を通して、タンパク質の発現・精製、相互作用解析、構造解析、アッセイ構築などのスキルを磨いていきたいと思います。

【財団生へのメッセージ】
財団生の皆さんは、それぞれの分野で大きな目標を持ち、高い水準を目指して努力されていると思います。その中で、私自身の経験から一つお伝えしたいのは、最初に掲げた目標への道筋が変わることを恐れないでほしいということです。
財団からの支援があるからこそ、自分の関心を深く掘り下げ、時には当初想定していなかった挑戦にも踏み出すことができます。皆さんにも、最初に定めた計画に自分を縛りすぎず、その時々の経験や出会いを通じて生まれた疑問や興味を大切にしてほしいと思います。目標を大切にしながら、その時々の経験に応じて道筋を変えていくことも、一つの進み方だと思います。
私自身も、まだ研究者としての出発点に立ったばかりです。これからも多くの失敗や進路の変更を経験すると思います。それでも、自分がなぜ研究を始めたのかを忘れず、計算と実験の両方を通してタンパク質の働きを理解し、いつか人々の生活を支える医薬品や治療法へとつなげられるよう、研究を続けていきたいと思います。

最後になりますが、5年間にわたり温かく見守り、挑戦を支えてくださった江副記念リクルート財団の理事、事務局ならびに関係者の皆様に、改めて深く御礼申し上げます。財団からいただいた支援と期待を、今後の研究を通じて少しずつお返ししていけるよう、これからも精進してまいります。



