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戸澤采紀さん
(ヴァイオリン)

NHK交響楽団

2023.11.5(日) 16:00
埼玉会館 大ホール

◆プログラム
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
  ソリスト:戸澤采紀
チャイコフスキー:交響曲題5番 ホ短調 作品64

指揮:梅田俊明
NHK交響楽団
ヴァイオリン:戸澤采紀

2年前にドイツのリューベック音楽大学に入学され、今年の10月には修士課程に進学された戸澤さん。毎月のスカラシップレポートでもとても充実した留学生活を送られている様子。ドイツでの留学生活は、音楽はもちろんのこと、ご自身にも大きな影響を与えているようです。

どんな留学生活を送っているのか興味津々で、質問が多くなってしまいましたが、とても丁寧な答えが返ってきました。

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Q1. 今回弾かれたシベリウスのヴァイオリン協奏曲 作品47は、これまで何回も弾いてきた節目節目で弾く大好きな曲とのことですが、「今回は今まで自分が弾いてきたのとは違う演奏になる」と書いてありました。 初めてオーケストラと共演した曲がこの曲とのことですが、どのように違った演奏になりましたか?

 一番違うのはやはりマインドかもしれません。初めて弾いたのは中学2年生の時で、その後高校1年生の時にも日本音楽コンクールの本選会で弾きました。当時は、思い入れが強すぎるあまり、自分の中にあるイメージ、情景を音に乗せて、物語を完成させることに必死でした。久しぶりに楽譜を引っ張り出してみて、自分の書きこみの多さにびっくりしたほどです。

気持ち新たに取り組もうと思い、今回はほとんどスコア譜しかみなかったと思います。楽譜を読むことで、先入的な絵を捨てようと努力し、エゴに突っ走らないように最善を尽くしたつもりです。 
 
N響ゲネにて
指揮の梅田先生と


 Q2. これからも留学先で研鑽を積んでいかれると思いますが、今、ヴァイオリンにおいて具体的に身に付けたいこと、学びたいことはどんなことでしょうか。  

国や時代様式それぞれに柔軟に対応する力を身につけたいです。個性が大事と言いますが、私は、どんな曲を弾こうとその体を通って外に出るのですから、そこに個の性格は自然と現れると思うのです。

留学して改めて自分のアイデンティティを認識し、そのコンプレックスを、自分の血には何もないからこそ、何にでもなれる、自分の白いキャンバスは何色にも染まれる、と意識を変えようと努力してきました。

ドイツ音楽もフランス音楽も、偏見や先入観なく、よりピュアな状態で楽譜を読む力、そしてそれをまた白い状態のキャンバスにリセットする勇気も、必要だなあと感じています。


Q3. 毎月のスカラシップレポートを拝見していると、大変ながらもとても充実した留学生活を送っていらっしゃるようですが、いかがですか? 留学してちょうど2年になると思いますが、この間、音楽面だけではなく、自分がどこか変わった、成長したと思われますか?

性格がオープンになって、コミュニケーションの幅も広がったなと思います。

やはり異国に来ているわけなので、どうにか社会的に生きていくために、「話しかけやすいオーラ」を出そうと頑張ったのが理由だとは思うのですが、一度それに慣れると、今度は自分から話しかける勇気も湧いてきました。自分がここに存在しているよ!というアピールが出来るようになってきたので、自信にもつながりました。

バッハがいたことで有名な聖マリア教会の目の前の建物の屋上でのパーティーの様子


 Q4. 今年の10月から大学院に入られたと思いますが、授業内容は学部と大きく異なるのですか?大学院ではどんな授業があって、何を求められているのでしょうか?  

ありがたいことに、院は学部よりもやることが少ないのです。大変なことといえば、1年に一度、アナリーゼの授業の論文を書くぐらいです。実技に集中しなさい、ということなのでしょうか。常にレポートやプレゼンテーションに追われていた学部の頃の自分に、よく頑張ってくれたと言いたいです、おかげで論文が可愛く見えます。

学部の頃は、教育学、教育心理学などの教職系科目が多かったですが、修士課程ではMusikbusiness というセミナーが必修科目として開講されています。演奏家として社会で生きるために、座学においてもより実践的な科目が増えたのが印象的です。
 

 Q5. リューベックはドイツの北の方に位置し、デンマークに近いとのこと。シベリウスはフィンランドの作曲家。戸澤さんは南欧より北欧の方が肌に合うのでしょうか?  

それはまさにそうだと思います。南欧に住んでいる自分は全く想像できません。毎日暗い暗いと文句を言いながらも、もともとストイックな性格ではあるので、何とか気を保てています。なのですが、面白いことに私の仲良したちは南欧の子ばかり。スペイン、イタリア、ポルトガル。トルコやイランの子達とも会うとよく喋ります。陽気で明るくて、会うとこちらが元気になります。

飲み会なのに、真面目なテーマについて凄いスピードで意見を交わしまくったり、はたまたテクノに合わせてダンスと言っていいのかわからない動きをし続けるドイツ人たちのストイックなスタイルには残念ながら全くついていけません(ちゃんとドイツ人たちとも仲良くしていますのでご安心ください)

学生オケ遠征公演の帰り道にて、大好きな友達と
 

 Q6. ヨーロッパの北の方では、この時期どんどん夜が長く、昼が短くなってくると思いますが、この時期、長い夜をどうやって過ごされていますか? 

どうにかこうにか起きている時間を長くしようと頑張っていた時期もあるのですが、最近はもう体に任せようという感じになっています。もちろん健康のためにビタミンDを取ったり、夜入眠しやすいようにヨガをしたりなどはしますが、朝頑張って7時半に強制的に起床する、なんてことはしなくなりました。最近は寝れない夜にはキャンドルをたいて瞑想したりなんかもしています。私は忙しくなると頭が全く働かなくなるタイプなので、これが意外と効くのです。

暗い夜が長いのはもちろんのこと、何と言っても朝も昼も太陽なんて出ていないので、起きるのが一番過酷。布団から出た自分を褒めながらコーヒーを淹れるのが毎日の日課になっています。そうしてゆっくりな朝を過ごした方が、その後の練習に集中できることに最近気がつきました。

とはいえ時たまの早起きは思わぬ幸運をもたらすのも事実で、先日朝9時にキールという街でリハーサルがあったため7時前の電車に飛び乗ったのですが、綺麗な朝焼けを見ることができました。見惚れていたら写真を撮るのが遅れてしまって空の色がピンクからオレンジになってしまいましたが。

北ドイツの車窓から、朝焼けの様子



 Q7. 
ドイツに行かれて大好きになったおすすめのドイツ料理はありますか? 

残念ながらドイツに美味しいものはありません。ご飯は日本が1番。ドイツ人みんなじゃがいもばっかり食ってるなんて嘘だろうと思っている方、残念ながら嘘ではありません。朝も夜も黒パンに何か乗っけて食べるだけなんて嘘だろうと思っている方、残念ながら嘘ではありません。

強いていうなら、シュペッツレという卵パスタがあるのですが、素朴な味で美味しいです。 余談ですが、ドイツではジャガイモは普通キロ単位で売っているのですが、ジャガイモレパートリーがカレーくらいしかない私にはなかなか手が出ませんでした。実は最近シェアハウスに引っ越しまして、家に自分以外の人がいるので、部屋だけでなくジャガイモもシェアできたらいいななどと考えています。

リューベックの菜の花畑


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留学して自分のアイデンティティを認識し、コンプレックスを感じたという戸澤さん。そのコンプレックスを「自分の白いキャンバスは何色にも染まれる」とプラスに変えたという。また、異国で生きていくために「話しかけやすいオーラ」を出そうと頑張り、自分がここに存在しているよ!というアピールが出来るようになったとのこと。

改めて、住み慣れた日本を離れ留学することは、未知だった価値観に触れ、視野が広がり、驚く程人を強くし、大きくするなと感じます。
一回りも二回りも大きくなった戸澤さんの演奏を生で聴くのが楽しみです!