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奨学生活動レポート

academic

2022.05
アガルワラ ユキ Yuki Agarwala
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――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

現在、イギリス、ロンドンにあるインペリアル・カレッジ・ロンドン医学部生物医科学科の2年に在籍しています。ある経験をして、中学校の頃からの夢であった難病の治療法確立の道へ進もうと決めました。中学3年の時に老人ホームでお年寄りにダンスを披露し、喜んでくれているお年寄りの姿に感動しました。しかし、その中にアルツハイマー病の方も多くいらっしゃり、その方たちはその日のことを思い出すことすらできないということを知りました。この病気がお年寄りやその方々の家族の毎日の生活に与える影響について考えても、自分は何もすることができないと感じ、とても悲しい気分になったことが今も印象に残っています。この経験をきっかけに、アルツハイマー病、転移性癌など、21世紀中盤に広がる難病の治療法を確立し、その病を克服することを目指すことにしました。

治療不可能とみなされている病気の研究を進めるには、生物医科学のみならず、様々な分野の専門家の考え方の理解、研究を現場で実現するための医療現場の方針、医薬品開発の知識、患者さんの置かれた生活環境の理解など様々な観点から考えることが重要だと思っています。この考えから、私の夢を叶えるための目標は、まず、学際的な視点を持ち問題解決に取り組む科学者になることです。二番目の目標は、生み出した治療法や診断方法が既に研究されたものでなくても、自信を持って自分の研究を進めていくことです。最後は、研究では成功も失敗もあると思いますが、「今、この時点で患者さんの生活向上のために何ができるのか、自分の研究が患者さんにどう影響を与えるのか」を常に考えながら研究をする科学者になることです。

難病と闘っている研究者の学術誌を調べた結果、人類生物学、統計学など、生物に関する多様な分野の理解が必要だと感じました。インペリアルは生物医科学の分野で最先端の研究を行い、理系の研究に特化している大学であるため、研究や人脈を広げる機会が他大学より多く与えられると思い、インペリアルに進学することに決めました。入学後は、インペリアルで世界最先端の腸癌診断法について研究を行っているグループとインターンをしたり、コロナウイルスのワクチンを開発した研究者の発表を聞き質疑応答に参加したりしています。さらに、ロンドンで大学同士が隣接しているからこそ参加できる生物医科学のカンファレンスに参加するなど、大変貴重な機会を得ることができています。これにより、自分の視点を広げ、将来は自分の知識と経験を生かし、難病克服を通して医療に貢献したいと切に願っています。

――日常生活、生活環境について

インペリアル・カレッジ・ロンドンに入学した時はコロナウイルスが世界中に急速に広がっている時期でしたので、1年次の授業はオンライン、Microsoft Teamsにて行われました。生化学、統計学、分子生物学など各授業を週に一回受けました。毎週の授業の前に約80ページのコンテンツが提示されますが、それを理解し、授業では決められたグループでその内容をもとにして問題を解きました。

2年目からも同様にコンテンツが提示さていますが、大半の授業が対面で行われていて、授業後に初めて他の学生や教授と授業テーマについて深く話し合うことができ、とても刺激的です。授業に加え、2学期と3学期は実験を行っています。

現在はCRISPR-Cas9というゲノム編集のテクニックを使用し、結核菌が免疫を回避する方法を研究しています。2年目からは授業前に提示されるコンテンツが膨大に増えています。さらに、ビデオやプレゼンなどの課題もありますので、1年次より、効率よく内容を理解することが必要です。授業と実験以外の時間は各授業の前に提示されたコンテンツを理解したり、それについて詳しく教授が推薦する教科書を読んだりしています。夕方は日により、救急の学生組織(イベントなどで急病人に応急手当てを行う組織)のミーティングに参加したり、寮のシニアとして1年生のためにイベントを開催したりもしています。それ以外の時間は他の研究やボランティアをしたり、インペリアルの日本ソサエティ(日本に興味を持つ学生の組織)との毎月の飲み会に行ったり、友達と出かけたりしています。また、1年次のオンライン授業をきっかけに、健康にも気をつけ、毎朝はジムに通っています。

セント・ジョン・アンビュランスの制服を着用し、大学前にて

授業以外には主に日本ソサエティと救急ソサエティという学生組織に所属しています。救急ソサエティはセント・ジョン・アンビュランスという世界的な慈善団体と関連があり、First Aider(応急手当てを行う人)として世界中のイベントで人々に応急手当をすることができます。First Aiderとして活動できるよう、1年目からFirst aidコースを受けることを目指していましたが、コロナウイルス流行によって延期され、ようやく今年の3月に受けることができ、修了しました。これにより、4月に制服が届き、ボランティアができるようになりましたので、ウインブルドン選手権やPlatinum Jubileeというエリザベス女王の即位70年の記念日の式典などのイベントでの活動を楽しみにしています。さらに、Hall Senior という役割がありますが、これに申請し、書類審査や面接に合格しました。その役割は、通常は退寮する2年目も寮に残り、初めて一人暮らしをする新入生のためにイベントを開催したり、勉強の仕方についてアドバイスをしたりすることです。私は現在この役割も担っています。7人のHall Seniorと、寮の管理者を務めている4人の大学院生や教授とともに新入生のためにイベントを開催しています。このチームと一緒に週に一回イベントを計画したり、ミーティングで雑談したりするのがいつも楽しみです。

Hall senior として寮の前で後輩と

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

入学してから毎日、寮やカンファレンス、研究会、授業後のディスカッションや学生組織を通して新しい人と交流し、人脈を広げ、幅広い観点から物事を見たり考えたりするようにしています。脳科学、薬理学など、様々な学生組織がゲストスピーカーを呼び、発表会を行っているので、興味がある発表会に参加し、人脈を広げると同時に最先端の研究や情報を聞き、学ぶことも心がけながら日々勉強をしています。先月は脳科学の学生組織でインペリアルのブレインバンクを担当しているGentleman教授と脳を解剖し、脳の病気を診断する時の問題などについて話し合う機会がありました。

Gentleman教授と脳の解剖中に撮影

さらに、将来はより効率よく生物医科学の研究ができるようにアンテナを張り、積極的に機会を得て経験を積むようにしています。昨年の夏は、製薬会社の臨床試験の部門でのインターンを通して、医薬品開発に不可欠である臨床試験や医薬品の副作用について、実際に考えるようになりました。将来、様々な疾患の医薬品開発の研究をする際、これらを踏まえて研究をしたいと思います。また、将来目指している難病の治療法発見のための勉強はもちろん、患者さんの生活の質向上のために日々できることを見つけ、現在積極的に行動することにしています。

去年4月からロンドンの病院でボランティア活動を始め、手術前の患者さんにお茶やクッキーを準備し、話しかけて心を軽くするようにしたり、認知症の患者さんに新聞を読んだり、家族に電話かけるのを手伝ったりしています。病気での入院期間は本人、または家族にとって大変難しい時期ですので、少しでも役に立ち、患者さんの笑顔だけでも取り戻し、生活の質向上に貢献できるよう、心がけています。病院でのボランティア経験によって、二ヶ月という長期間入院されている患者さんがいると気づき、患者さんの入院時に気を楽にしてもらえるように、音楽を使用する研究に取り組んでいます。生物医科学の知識や研究技術を身に付けるとともに、人脈を広げ、幅広い経験を積み医療への貢献を目指しながら、将来の可能性を広げていくために日々挑戦しています。

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

今年10月から3年生になりますが、10月から5ヶ月、インペリアルの外科と癌部門で胃腸癌を診断するための呼気検査についてハナ教授の下、研究プロジェクトを行います。今年の夏季休暇中の期間は同じ研究室でインターンをする予定です。大学の1年と2年で行ってきた実験では、短時間で実験結果を得ることは難しく、長時間取り組むことが必要だと感じましたので、夏季休暇中に実験手法や実技を身につけ、研究分野についてより深く調べたりし、研究をしていきたいと思っています。このインターンでは、現在研究者が直面している問題について深く理解し、研究の流れを考えるために大切である想像力も伸びるように努力していきます。さらに、自分の研究を学会などで発表したり、論文に掲載したりするなど、アウトプットを目指して研究していきたいと思っています。

来年は毎日の実験で時間が限られますが、病院でのボランティアやセント・ジョン・アンビュランスのFirst Aiderとしての活動を続け、同じような情熱を持っている様々な年齢や職業の人と出会い、人脈を広げることにも力を注いでいきたいと思います。また、生物医科学の技術や知識を身につけ、生物医科学の専門家や学生のみならず、他分野の人々と交流し、視野を広げたり、最先端の研究情報を得たりして、患者さんの生活の向上に貢献できるように全力で取り組んでいきます。

生物医科学を学ぶことができ、幅広い活動に取り組むことができる、この大変貴重な機会を与えていただいた江副記念リクルート財団の関係者の皆様、そして応援してくださる皆様に心より感謝とお礼を申し上げます。世界の医学界への貢献を目指し、結果を残せるよう、精いっぱい尽力していきます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

アガルワラ ユキ Yuki Agarwala
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