トップページ > 卒業レポート > グェン イェン バン マイ

卒業レポート

academic

2023.06
グェン イェン バン マイ
第47回生 - ペンシルバニア大学院
卒業後の進路:ビザスク

>プロフィールはこちら

ニューヨーク大学での活動

4年間、ニューヨーク大学で「Neural Science/神経科学」を専攻しながら、同時に「Studio Art/スタジオアート」と「Child and Adolescent Mental Health Studies/子供と青少年のメンタルヘルス学」を副専攻として学びました。とりわけ、高校の頃からの目標である科学とアートの融合の研究を追求したいという思いから、ニューヨーク大学で教鞭をとりながらアート活動を行っているDenis Pelli教授の心理学・認知科学のラボで、Object Recognition/物体認識とBeauty Perception/芸術の認知に関する研究に携わりました。

 

物体認識

Pelli教授のラボのObject Recognitionチームに所属し、Crowding/視覚的混雑(1)の研究に携わりました。具体的に、文字のフォントが視覚的混雑具合や読む速度に与える影響について調査しました。この研究結果は、失読症の早期発見やリハビリプログラムなどにも応用できるそうです。約1年間の間、主に対面で被験者を募り、アイトラッキングなどの機材を使用して実験を実施しました。また、このチームでは、オンライン環境でもより多くのデータを収集するため、個人の端末(パソコンやスマートフォンなど)の内蔵カメラを使用してアイトラッキングやヘッドトラッキングを行うブラウザ拡張機能「EasyEyes」の開発も行われていました。私はこの開発プロセスに参加し、拡張機能のフィードバックやテストを行い、日本語版の翻訳を担当しました。

 「美」の認知

Pelli教授のラボのBeauty Perceptionチームのサポートの元、絵画鑑賞における親しい人との体験共有についての研究を行いました。約3ヶ月間、毎週末ブルックリン美術館に行き、対面で調査を行いました。4年の春学期には、この研究をテーマに卒業論文をまとめ、2022年5月にフロリダのタンパで開催されたVision Science Societyのカンファレンスでポスター発表を行いました。調査の方法や結果の考察について、有意義なコメントや意見をいただくことができました。カンファレンスではポスター発表以外にも大講堂で行われるプレゼンシリーズなどを通じて、視覚に関する新しい研究結果に触れることができました。


また、Beauty Perceptionの研究に取り組む際、Pelli教授が担当していた心理学のクラス「Experiments in Beauty/芸術の実証実験」でティーチングアシスタントを務めました。学生たちが「美」や「アート」に関する実証研究を計画し実施する過程を間近で見ながらサポートしながら、このテーマについてより深く学ぶことができました。

2022年Vision Science Societyカンファレンスの様子


ペンシルバニア大学院での活動

大学での研究を通じて、私は心理学や行動と認知科学の研究における実験デザインと方法の重要性に気づきました。これらの知識をもっと体系的に学ぶために、そしてよりアウトプットに注目した行動科学研究の社会的応用性に焦点を当てるために、ペンシルバニア大学院の「Behavioral and Decision Sciences/行動と意識決定の科学」修士プログラムに進学しました。

このプログラムでは、行動科学の研究方法と応用について、アカデミックな視点と応用的な視点の両方から学ぶことができました。行動科学、心理学、認知科学の分野における研究の問題点や解決方法や、さまざまな実験方法の長所と短所について体系的に学びました。追求したい行動科学の研究テーマに合わせた適切な実験デザインや結果分析方法を実践しながら学ぶ機会も得ました。

また、特に心理学や行動科学の研究において重要ながらも、定量実験に比べて軽視されがちな定性実験について触れたいと思い、「Research in Teaching/教育における研究」という授業を選択しました。この授業では、Focus group interview/集団面接法やEthnography/行動観察など、さまざまな定性調査手法について学びながら、各自でパイロットスタディを実施しました。私は美術教育の重要性をテーマに、美術教師を対象に実際にSemi-structured interview/半構造化インタビューを行い、定性データの分析方法を実践的に学ぶことができました。

「Behavioral and Decision Sciences/行動と意識決定の科学」プログラムで私は特に、文献の要約と自分の意見を結びつけ、関連する他の文献と分析した後さらに深く追求したい質問をディスカッションフォーラムに投稿するという授業スタイルを通じて大いに成長できたと感じました。投稿した意見や質問に対して、学生同士がコメントし合うことで、授業時間外でもインタラクティブで刺激的な学習環境が生まれました。自分の文献や知識の引き出しを増やすだけでなく、それを迅速に活用できる能力も身につけることができました。

Capstone project/卒業プロジェクト

卒業プロジェクトでは、生徒は2〜3人のチームに分かれて、本校のプログラムとタイアップしている企業や団体などが抱える課題について、行動科学を用いて解決策のアイディアを発案するデザインチャレンジ(2)が行われました。その後、企業や団体が採用を決めた場合、アイディアが実現する流れとなります。私は第一希望であった非営利団体「Save the Children」の中の、世界初の子供の権利と福祉に焦点を当てた応用行動科学チーム「CUBIC(The Center for Utilizing Behavioral Insights for Children)」のプロジェクトに携わりました。現在スペインでは中高生の間でネット上での性暴力(Online gender-based violence)が近年増え続けており、この問題行動が軽視されてしまい、十代の若者のメンタルヘルスに深刻なリスクをもたらすなど、緊急を要する問題となっています。Save the Childrenのスペイン支部では、この問題に対処しようとしています。

私たちのチームは、定量的調査と定性的調査のデータをもとに問題の原因を分析し、行動科学の知見を用いて解決方法を探り、最終的には主にソーシャルメディアを通じたビジュアルナッジ(3)を軸としたインターベンション(4)プランを発案しました。このリサーチ結果と介入案について、学部の年度末成果発表シンポジウムでポスタープレゼンを行いました。また、私たちのチームのアイディアは非営利団体Save the Childrenに採用されたので、来年実施される予定です。

「Behavioral and Decision Sciences/行動と意識決定の科学」プログラムの年度末成果発表ポスターシンポジウム



課外活動

過去5年間、私は学生支援団体であるHLABや留学フェローシップのサマープログラムでメンターとして参加し、大学内のJapanese Cultural Association/日本文化会で会長を務めるなど、様々な課外活動に力を注いできました。これらの経験を通じて、リーダーシップスキルやコミュニティづくりのノウハウを身につけることができました。また、日々新しいことに挑戦し、さまざまな人と関わりを持つ中で、自分の新たな長所に気付くことができ、これらの経験を通して自分の強みを周囲に還元していく方法を模索することができました。


このように、財団の支援のおかげで、私はアメリカの総合大学という国際的な環境でさまざまなバックグラウンドを持つ人々と討論する機会を得て、より多角的な視点から物事を学ぶことができました。また、科学とアートという全く異なる分野を同時に学び、それらを融合させた学際的研究に関わることができました。

今後の予定

今年の9月からはエキスパートネットワーク企業で情報コンサルタントとして働く予定です。さまざまな企業と関わりながら、社会、特に日本社会内の仕組みや課題に触れ、自分の視野をさらに広げ、必要な社会スキルを身につけていくことを目指しています。

それと同時に、Save the ChildrenのCUBICで行ったプロジェクトのように、今度は自分のコミュニティや日本社会内で、教育またはメンタルヘルスの分野で独自に行動科学を活用して問題解決に取り組みたいと思っています。アメリカの留学生活で身につけた行動科学の研究スキルと、日本で得た社会経験を活かして、将来的にはPhDを取得し、科学とアートの交差点で研究を続けることも考えています。これからも財団の皆様に見守っていただければ幸いです。

 

後輩へのメッセージ

常に自分自身のアイデアや成果に自信を持ちながら、好きなことを追求してください。その中で、ぜひ新たな挑戦に積極的に取り組み、当たり前だと思うことに疑問を抱く姿勢を忘れず、さまざまな視点から自分自身を見つめながら前に進んでください。財団の卒業生として、これからも皆さんの活動を心から応援しています。

ペンシルバニア大学院の卒業式




————————————

脚注

(1) 視覚的混雑:何かの目標物が集団の中で表示されているときに、人がそれを認識しにくくなる現象を指す。本や文章においては、文字と文字が集まっているため、目を動かさずに読むことができる文字の数には限りがあるとされている。この混雑現象は、主に文字と文字の間のスペースに関連しており、またフォントの選択によっても影響を受けることがある

(2) デザインチャレンジ:ある課題に対してどのように対処するかプランを考え、より良い解決策を出し合うアクティビティ。アイディアソン。

(3) ナッジ:行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチ。

ビジュアルナッジ:視覚的な手法を用いて人々の行動や意識を誘導する手法。具体的には、目に見える情報やデザインの要素を活用して、特定の行動や意識の向上を促すアプローチなどがある。

(4) インターベンション:特定の問題に対処するために意図的に行われる介入を意味し、一般的には、個人や集団の行動や状態を変えることを目的とした計画的なアプローチや解決策を指す。現在、教育、医療、心理学、社会科学など、さまざまな分野でインターベンションが活用されている。

グェン イェン バン マイ
>プロフィールはこちら