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吉田南さん
(ヴァイオリン)

Piano 清水和音 & Violin 吉田南

2019.12.12(木) 19:00
銀座 王子ホール

ピアノ:清水和音  
ヴァイオリン:吉田南

◆プログラム
モーツァルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
   第24番 へ長調 KV.376
ベートーベン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
   第4番 イ短調 Op.23
ドビュッシー:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
   ト短調
フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
   イ長調 FWV8

吉田南さんがニューイングランド音楽院に留学されてからもうすぐ2年。2年間の留学で得たものすべてを出したい、苦労を乗り越えて成長した姿を披露したい、と臨んだ吉田さんのこの日の演奏会はピアニストが清水和音さん。そしてこの盛りだくさんのプログラム。留学や音楽に関する質問に対する吉田さんの回答は、少しも無駄にしたくない!と過ごしてきた濃密な2年間が垣間見える興味深いものです。是非ご一読下さい。

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Q1. この日の演奏会は清水和音さんとの共演。そして4人の大作曲家の名曲を揃えられました。ご自分でも「人生においての大事件」と仰っていますが、どのような理由で選曲されたのですか。

A1. 前半の「パリのモーツァルト」「ベートーヴェンのイ短調」の古典造形と対をなす、後半の「晩年のドビュッシー」「晩年のフランク」。世界観の異なる作品への私なりのアプローチを、和音さんなら理解してくださるのではないかと思ったことが、まず共演をお願いした理由です。

そして和音さんと私は、年齢も経験も色々な事があまりにも違います(食の好みだけは一致)。そんな二人が同時に演奏すると、どんな化学反応が起こるのかな・・・という密かな好奇心がありました。その好奇心を満たせそうな曲をいくつか選び、和音さんに提案してふたりで決めました。

とにかく和音さんは巨匠であり、私はまだ学生です。そんな私のわがままなお願いをニコニコと聴いてくださり、何日も一緒にじっくり時間をかけて4曲のソナタに取り組み、激しく興味深い化学反応を起こすべく向き合って下さったことは大事件に間違いないと思います。

コンサート前半終わりのとき

Q2. この日のプログラムには、留学の成果を披露したいという意気込みも感じましたが、いかがでしょうか。

A2. そのとおりです。10代の頃から私は私のスタイルや価値観を持ち、自分なりの音楽を求めて勉強しているつもりです。でも留学して2年が経ち、「変化していく自分」も実感しています。

ヴァイオリンの技術的な面に関わる変化も勿論ありますが、その他に、作曲家の意図や個性をくみ取りながら細かく楽曲分析してみたり、逆に曲を俯瞰的に捉えて作品にふさわしい世界観やスケール感を創出しようとしたりなど、以前は考えもしなかった事柄を試したり、悩んだりするようになりました。今は根拠ある解釈と共に、私が一番美しいと思うやり方で音楽を作るように心がけています。そんな「変化していく自分」を皆様にご披露したいという思いを持って舞台に立ちました。

コンサート終了後

Q3. ニューイングランド音楽院に留学されてもうすぐ2年になりますね。当初慣れるまでは、言葉、学校生活、食事等、いろいろと苦労されたことと思います。どんなことが大変でしたか。でも、それを乗り越えて今ではヴァイオリンの勉強に集中できているとのこと。苦労を乗り越えたことで大きく成長されたことと思います。ご自分でご自身がどのように変わったと思いますか。

A3. 私にとって一番の難関は「勉強」でした。音楽院といえども大学ですので、日本でいう一般教養(General Education)的なものがあり、心理学や文学、歴史など専門知識や高い語学力を必要とする科目をネイティヴ学生同様に履修しなければなりません。訳のわからない専門書を英語で読まされ、調べ、まとめたりレポートにしたり・・・ヴァイオリンの練習もそこそこに徹夜でレポートを書くなんて日常でした(今はすっかり慣れて上手くこなせるようになりました)。

勉強は本当に大変でしたが、広く知識を身につけることができたし、カリキュラムは心の豊かさや人間力を高めていけるようにプログラムされていて、それは音楽にも必ず通じるものなんだろうな、と思えます。

また「学校に出てきて勉強する」ということが大学生活の大前提ですので、日本でコンサートの依頼を戴いても帰れないことが多く、はじめのうちはジレンマに陥りました。しかし今はボストンの他アメリカ各地、海外でのコンサートの機会もあり、勉強した作品を人前で演奏することができます。長期休暇には日本での舞台も用意して戴けます。今はボストンでしっかりと勉強したものを、どこかの国のお客様の前で披露できるというサイクルに満足しています。

2019年度ニューイングランド音楽院Artist Award受賞記念コンサートにて

Q4. ニューイングランド音楽院で、カナダ、台湾、韓国、日本からの4人で「Nico Quartet」を結成されたそうですが、「Nico」という名前はどこから来ているのでしょうか。また、外国の方と組まれることで新しい発見等はありましたか。

A4.「Nico Quartet」という名前は日本語の「ニコニコ(Smile)」にちなんでつけられました。笑顔は幸せを運びます。『私たちの演奏が誰かの幸せの第一歩になりますように~』という願いが込められています。さらに、「Nico Quartet」の生みの親である、Nicholas Cords 教授のお名前から「ニコ」という発音をいただきました。

アメリカの学生はやることが沢山で忙しいので、合わせは簡潔に合理的に行います。ケンカを怖れずそれぞれがハッキリ意思を主張するので、曲が完成したときは皆が満足しています。そういうやり方に初めはとても驚きましたが、今は心地よく思えます。

日本では相手を慮るあまり物事を遠回しに伝えたり、目上の人には意見を言いづらくなったりしがちですが、外国の学生にはそのようなことは全くありません。逆に気を使って黙ると「意見の無い人」と思われてしまいます。

コンサートが終わると、それぞれの国のお菓子やご飯を一緒に食べたり、コンサート会場の周りを探検したり、Nicholas Cords 教授のおうちに押しかけたり、楽しい仲間です。

Nico Quartet: 今秋ボストン大学でのリサイタル終了後

Q5.留学されてから室内楽も随分と勉強されたとのことですが、室内楽の勉強がソロの演奏に与える影響はどのようなものがあるのでしょうか。

A5. 室内楽を沢山勉強すると、曲の構造や、旋律の組み合わせ方、それによって得られる音の響きがよく理解できるようになり、客観的に音楽を感じることができるようになる気がしています。頭の中で曲をバラバラにしたり、逆に重ねた音の響きを自由自在にイメージできるようになるということです。1度にどれほど沢山の楽器の音が鳴っても、それは可能です。

また、音楽で柔軟にコミュニケーションがとれるようになったり、人と呼吸感をを合わせられたり、リズムに敏感になったり、音色に対するイマジネーションが豊かになったり・・・ということもあります。

ヴァイオリン1挺だけの曲も、一度に複数の音を出す時は実は複数の演奏者による演奏をイメージして弾いています。J.S.Bach 無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータはその究極の形だと思います。主になる旋律とそれに付随する旋律があるわけで、最もシンプルな形の重奏=「ひとりアンサンブル」と言えると思います。たとえそれが室内楽やフルオーケストラとソリストの関係なっても、楽器や音の数が増えるだけで根っこの部分は変わりません。

日本では室内楽の位置付けは、ソロの活動の合間に・・・という形が多いので、室内楽独自のテクニックや法則のようなものをきちんと勉強するのは困難だと思います。
欧米のアーティストは皆さん基本のスキルとしてソロヴァイオリンと同じくらい熱心に室内楽を勉強します。アンサンブル体験が増えれば増えるだけ、ソロの表現の多様性も増してくるからだと思います。

Q6. 来年以降の目標、進路、予定等、意気込みを聞かせてください。

A6. 来年1月からは3回生になります。ボストンでの大学生生活を楽しめるようになり、信じられる仲間も出来、沢山の先生方と知り合い、お世話になりながら順調に勉強を進めることができています。なかなか日本に帰れないというのも、今は長い音楽人生の根幹となる部分を、自分の努力で培う時期だと思っています。『ただ弾けるだけの人』にはなりたくない!色々な困難と語学の壁を乗り越えやって来たアメリカなのだから、学べることは全て吸収するくらいの気概でこれからの日々も臨みたいです。それが音楽家としての自分の将来に必ずプラスに働くと信じています。

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最初は大変だった勉強も「今はすっかり慣れて上手くこなせるようになりました」と言う吉田さん。勉強だけではなく、音楽においても、普段の生活においても、人とのコミュニケーションおいてもそうなのでしょう。この2年間、目を見張る成果があったのは間違いありません。そして2020年もそれ以上の成長を遂げることでしょう。

「今は長い音楽人生の根幹となる部分を、自分の努力で培う時期」「学べることは全て吸収するくらいの気概でこれからの日々も臨みたいです。それが音楽家としての自分の将来に必ずプラスに働くと信じています。」とのこと。「無駄な努力はない」と言います。これだけの努力と経験を重ねている吉田さん。次はどんな音楽家として成長した姿を披露してくれるのか、本当に楽しみです。