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奨学生活動レポート

art

2023.11
増田 麻耶 Maya Masuda
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私の専門とする領域はNew Media Artといい、芸術を通して、現代のテクノロジー(先端技術)がもたらす表象や、そこに発生する政治性を批判的に捉えることを扱う領域です。私は当初科学者になりたいと思い慶應大学で勉強していましたが、その途中で科学技術の持つ政治性や抑圧により関心を抱くようになり、多摩美術大学メディア芸術コースを経て英Royal College of Artに進学しました。現在はベルリン芸術大学のNina Fisher氏のもと、クィア理論・エコロジカルな実践を通して核の生政治 (Nuclear-biopolitics)を研究しています。テクノジーを介した、人から人へ、人から動物へ、人から惑星への抑圧や支配のあり方について知ることは、私にとって自分自身の生存のための方法を知ることと同義でした。というのも、ユダヤ人やサフラジェットに対する抑圧に見られるように、人が動物等のに対して現在用いている暴力は、政治状況によって簡単に「正常ではない何か」へ、もしくは「動物と同様とみなされた人」へ拡張されるからです。私はこうした抑圧や政治のあり方について知り、批判し、別のあり方を想像することで、自分自身や周りの、クィアであり/移民であり/そして様々なマイノリティ性を持った沢山の人たちが、そうした政治から自由に生きのびることができる未来のあり方を模索しています。

Royal College of Artの卒業式にて

――海外と日本の学びの違い

私にとって、イギリスで出会ったアーティストとしてとても大切な存在なのがTai Shani ,Laura Prouvoust 2人です。Tai Shani はターナー賞を共同受賞したことでも話題のアーティストですが、彼女がクリスティーヌ・ド・ピザンの『たちの都市』という古典作品をインスピレーションとしながら演劇性・サイエンスフィクション・パフォーマティヴィティの3つの要素の伴う作品を作り上げたこと、またそれが、現代に存在するさまざまな抑圧と、周縁化されたコミュニティの感情を取り上げた作品であったことに私は心動かされたのを覚えています。同様にLaura Prouvoust も、映像を用いて人間・非人間を超えた混乱世界をとても主観的かつ独創的な視点から描いており、彼女らの示すオルタナティブな世界の情動性に私は惹かれてきました。海外における美術の動向の比較の一つをあげるとしたら、こうした主観性 / 情動に対する抑圧の薄さというものは挙げられると思います。

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

私は本を出版/編集すること、批評を書くことや、自分自身のリサーチをすること、翻訳を担当すること、展覧会作りを作品制作と並列して行なっており、そうした複数の要素の掛け合わせによって、自分自身の経済的な自律性をできるだけどの要素にも依存させないよう心がけてきました。特に国内におけるトランスジェンダー差別や植民地支配についての議論では、それが一部に快く思われずとも明確に意思表示をしなければならない状況があり、そうした場合に仕事を断れるようにするためです。私が仕事の一つとして大切にできたらと考えている批評やキュレーションは、ジャーナリスティックな性質もあることからも独立性がとても重要とされており、そうしたことからも自分の精神的・経済的な自立性を担保しつつ人と関わることを大切にしています。またどちらも人と関わる仕事であることから、たとえ同じ領域を専門とする人であっても、他者は絶対に自分と異なるということ、それぞれのペースや事情があり、それに寄り添って多様なプロジェクトへの関わり方を可能とすることも、私が重要視していることの一つです。

Gallery XY Olomouc, Czech Republic でのシンポジウム

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

20239月からの1年は、京都芸術センターでのキュレーション展、ロンドン大和日英基金での個展に加えて、ベルリン・サイレントグリーンでの展示など、欧州を中心に複数の展覧会の予定があります。私の今年の抱負は、①「美術」という社会的に形作られた狭い領域を超えて、「芸術」について多くの人に問いを投げかけるために、私がどう「美術」から距離を置けるのか? また、②ウクライナ戦争、ガザへの攻撃など切迫した社会問題が募る中で、自分はうまく手法間の時間的射程 (批評 , キュレーション , デモなどのダイレクト・アクション ,制作はそれぞれ全く異なる時間軸を持っています)を使い分けられているか? 2点を検証し、探究することです 🙂

Pour Your Body Out (2023)

増田 麻耶 Maya Masuda
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