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奨学生活動レポート

academic

2024.02
町野 有夏 Yuka Machino
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――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

私の夢は私にしかできない方法で人の役に立つことです。そのためにまずは自分にしかできないことを見つけ、知識や技術を深めて行きたいと思っています。

私は幼い頃から論理的に考えることが得意でした。数学オリンピックに出会った私は、論理力を使って解答を導くことの面白さを知りました。アイデアを思いついては思考を深め、筋を通して証明にする。そのプロセスがとても好きで毎日数時間、数学の問題を解くことに没頭しました。大学進学にあたって、自分の思考力を試すような、難しい問題を解くことは続けたいが、将来的には数学よりももっと直接的に人に影響を与え、社会に貢献できるような研究がしたいと思いました。そのため様々な理系の研究について学べるMITに進学することを決めました。MITでのリベラルアーツカリキュラムを通して視野を広げ、自分に合った分野を見つけるためです。

MITの最初の1、2年は色々な授業とったり、量子物理学やアルゴリズムゲーム理論、認知学などの分野で様々な研究をしました。そうやって色々な分野に触れていく中で、Computational Cognitive Scienceという分野に出会いました。この分野の肝は「人の行動や思考を、どうやって数理的に表現できるか?」です。

一見とても複雑な「人の行動」というものを数理的に表現するには、人のさまざまな要素をモデルに落とし込むことが必要です。例えば人がどうして誇張表現を使うかを、数理モデルを使って表現する場合、まず、聞き手が聞いた発言をどのように解釈するかを数理モデルを使って表します。次に、発言者が相手にある内容を伝えたい場合、どのように発言するかをモデリングします。どの発言をしたら聞き手に内容が的確に伝わるかということを考慮して、それぞれの発言の良し悪しを求めます。その後、聞き手と話し手それぞれのモデルを組み合わせます。最終的にこれらのプロセスを経てやっと、「あえて少し不誠実な、誇張した表現をすることによって解釈が一意的に定まる」という誇張表現の原理を説明することができます。

このように、認知現象を数理的に表現するためにはその現象をより細かな要素(例えば、聞き手や話し手それぞれの思考)に分解します。その一つ一つの要素をモデリングし、それを私たちの現象に対する直感的な理解と整合するように組み合わせます。一つの問題をいくつかの要素に分解し、それぞれを突き詰めて考え、綺麗にまとめてから直感的かつ論理的に組み合わせるというプロセスは、数学の証明を考えることに似ています。

そして、Computational Cognitive Science を研究することは私の「人の役に立つ」という目標に貢献するものです。実際にこの分野で「人の思考をアルゴリズム的に表すことによってより効率のいいAIを作ることにつながった」という研究は複数あります。私の短期的な目標は、この分野についての知識を深めていき、面白い研究をすることです。人間を数理的に表現することで、より人間を理解し、人間のために行動できるAIを作りたいと思っています。そしてゆくゆくはAI界に大きな影響を与えるような研究をしたいです。

ルワンダの学校で講演している様子

――日常生活、生活環境について

平日は授業のほかに研究ミーティングがあります。研究ミーティングでは私の研究について院生にアドバイスをもらいます。参考にしたらいい論文や、実験の改善点、または他の研究者が批判しそうな点やその対処の仕方などです。それらを受けて問題点を修正し、次のミーティングに挑みます。このミーティングは研究を改善するためだけでなく、この分野の研究者はどのような問題に関心があり、どのような視点を持っていて、どのようにアプローチをするのかについて知る良い機会にもなっています。

他にも他の大学から教授を招いて講演をしてもらうColloquiumというものがあります。私の興味に近い、AIやCognitive Scienceの研究に関わる講演はできるだけ出席するようにしています。いろいろな方向から興味のある研究について学ぶことができ、とても充実しています。

また、日常生活では勉強を効率的にこなすために、メリハリをつけるように気をつけています。まず、幼い頃から続けている水泳を週3回ほどすることで程よく体を動かして集中力を維持しています。大学のキャンパスは、プールやジムなどの設備が整っていて、授業の前や後に気軽に行くことができます。また、週末は友人とご飯に行ったり、コンサートを見に行ったり、MITのすぐ隣を流れているチャールズ川でセーリングをしたりなど、どれだけ忙しくても息抜きの時間はとっておくようにしています。

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

私の夢である「自分にしかできないことをする」という目標に向けて、MITという環境を最大限活かして色々な経験をするように心がけています。そうすることで私の対応能力を上げ、自分の引き出しを増やしていきたいと思っています。

毎年、冬休みや夏休みはどこか新しい国に行き、研究をしたり、高校生に数学を教えたりしています。去年の夏はブラジルのサンパウロ大学に行き、AIの研究をしました。ラボのおしゃべりな雰囲気や、ジョークを言い合う研究者同士のフレンドリーな関係性はMITと違い新鮮でした。またMITに比べてリソースが限られているため、サンパウロ大学では少ないリソースで実装できるAIの研究に集中している点など、研究内容は研究環境に非常に大きく左右されるということに気付きました。リソースも雰囲気も、MITと全く違う環境で研究をすることによって、研究活動に対する視野が広がりました。

また、MITで時間を共にするクラスメイトは、それぞれが何かのスキルにおいて非常に長けているため、彼らと話すことは大変勉強になります。時には他のラボでAIの研究をしている友達と、互いに自分の研究を説明し合ったりして、数時間話すこともあります。彼らとの時間を大切にし、これからもお互いに励まし合い、学び合える関係を維持したいです。

サンパウロ大学のラボの皆さんとの写真

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

短期的な目標として、研究をするスキルを身につけたいと思っています。そのためにまず必要なことは、近い分野の動向を理解するためにたくさん論文を読むことです。私にとって論文を読むことは時間がかかり、やりがいを感じにくいため、後回しにしてしまうことがよくあるので、いろいろな論文を読むことを習慣づけたいです。
また、研究をするスキルの中には、共同研究者とのコミュニケーション能力や、論文を完成させるためのタイムラインを自ら設定することなども含まれています。今は院生の方に手伝ってもらいながら論文を書いているのですが、彼のように「この期限までにこんな論文を書き上げたい」という目標を達成するまでのプロセスを、サブタスクに分けてそれぞれの研究者の知識や能力などを考慮して、それを遂行する現実的な計画を立てられるようになりたいです。論文を仕上げるまでには「この抽象的なアイデアを数式化する」など、どのくらい時間がかかるかわからないタスクもある中で、その不確実性も考慮して計画を立てるスキルは研究だけでなく、ビジネスや他の分野においてもとても大切です。計画性を向上することは、研究だけでなく、私の「人の役に立つ仕事をする」という目標達成につながる重要な一歩だと思っています。

町野 有夏 Yuka Machino
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