2021/07/08

久野 凌 活動レポート

2021/07/08

久野凌

久野 凌 Ryo Kuno

既存の化学と並行してデザイン学を追求することで、次世代の産業を牽引する超分子材料に関する、3Dモデルを利用した分子設計や化学反応シミュレータの開発に貢献したいです。現代技術の結晶であるコンピュータを駆使して、量子化学的見…

――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

偶然性に頼らない科学発見の理論構築を行うことです。「セレンディピティ」という、偶然をきっかけに幸運を掴む意味の言葉がありますが、近代科学の大発見の称号であるノーベル賞級の発見には、アレキサンダー・フレミングのペニシリンやウィルソンのビッグバンマイクロ波背景放射など、セレンディピティにより見つかったものが数多く存在しています。

古典的波動方程式の導出

高校までに学生が勉強するニュートン物理学には決定論的性質(ラプラスの悪魔)がありますが、18歳の時に私が出会った「量子論」と呼ばれる理論はニュートン物理学の決定論性を根底から覆すものでした。ミクロの世界では等式では表せない不確定性が存在するというのです。こういった理論を大学で学ぶにつれて、私は、セレンディピティに頼ることのない、もしくはセレンディピティを誘発できるような方法論が存在するのではないかと考えるようになりました。そういった理論を構築出来れば、偶然の発見に頼っていた従来の人類が取り溢したであろう発見や、未だされていない発見などを、理論に従って数多く作ることができるのではないだろうかと思っています。

自作の紫外-可視分光計

英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの化学科に進学した理由は量子論にあります。量子論の基礎・応用実験のスケールはちょうど原子や分子の大きさです。量子論は物理学と化学の中間に位置する学問であり、科学発見の理論構築という視点に立った際、化学が最も試行錯誤を行いやすい領域であると判断し、入学しました。学士、修士、後には博士号を取得し、研究者を目指します。

日々の生活、生活環境は?

新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、インペリアル・カレッジ・ロンドンで過ごした3学期のうち、1学期目と3学期目をロンドンの寮で、2学期目を日本の自宅で過ごしました。1学期は英国での爆発的感染拡大もあり、寮内にてリモートで授業を受けていました。最初の2学期間は講義の形で新しいことを勉強していました。水曜日に1週間で見なければならない講義のリストが更新され、木曜日から土曜日までにそれを観て、月曜日と火曜日に問題演習を含めたMicrosoft Teamsを利用した授業が行われる形式が基本でした。しかし、講義の量が膨大なのに加え、仮想的な実験などのレポートの提出なども同時に行わなければならず、効率よく情報を捌くことを徹底させられる日々でした。最後の3学期目は徐々に対面授業という形式で実験を再開しつつ、グループワークやプレゼンなどの実践的課題が多かったです。

環境学の学習風景

生活環境において、ロンドンは多くの博物館に恵まれています。インペリアル・カレッジはExhibition Roadという道沿いにあり、自然史博物館、ヴィクトリア&アルバート博物館、科学博物館などが隣接しており、さらに、電車で直接大英博物館にもアクセス出来るので、かなりの頻度で博物館に通うことが出来ます。対面での授業が再開した3学期に、事前予約ながら、私もようやくいくつかの博物館に行くことが出来ました。本格的に対面形式の活動が再開したら、さらに通い、何か面白い発見につながるものを探せたらと思っています。

ヴィクトリア&アルバート博物館の風景

 

夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていることを教えてください!

最新の量子技術の動向を追うようにしています。最近では、米IBMと独メルセデス・ベンツが量子コンピューティングを用いたバッテリーのシミュレーションにおいて研究の提携をすることを発表したことが興味深かったです。こういった産業の動きを追うことで、思ってもいなかった分野で量子論が活かされていることを知ることが出来、アイデアの種になることが多いです。また、量子分野だけに囚われず、化学というとても広い領域を勉強していることを利用し、有機化学、医学、環境学などの論文掲載学誌を複数購読し、知識を深めるようにしています。さらに、財団には自分以外の専攻の方がとても多く、今年度は特にリモートだったこともあり、積極的にSNSなどでアプローチをしお話をさせていただくことで、インスピレーションを貰うとともに、偶然性に頼らないこととは何なのかを多角的に考えることのきっかけにもなっています。

最後に、これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負をどうぞ!

量子技術に携わるにあたって、プログラミング技術の強化が私の目下の課題です。授業で扱っているPythonはもちろんのこと、Silqなどの新規量子コンピューティング言語の勉強を行いたいと思っています。また、夏季休業期間のインターンなどを通し、現場のエンジニアや科学者から量子論の扱い方や実践についての学びを得たいと思っています。
今まで一つのアイデアを形にするために継続出来てきたのは、財団の皆様のおかげで、感謝してもしきれません。全力で勉学に励み、結果を残せるよう、努力いたします。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。