2025/06/02

安藤万留 卒業レポート

2025/06/02

安藤万留

安藤 万留 Maru Ando

慶應義塾大学尾上研究室と共同で、体内で使用される医療デバイスの開発を目標に、グルコースセンサとして機能するマイクロビーズのpHカリブレーションについて研究し、国際学術誌Sensorsへの論文投稿や国際学会Micro TA…

 学術部門50回生の安藤万留です。この度、ジョンズホプキンス大学の医用生体工学専攻(B.S. Biomedical Engineering)を卒業しました。

卒業式

 15歳から4年間の単身英国留学経験の中で、日本で当たり前だった医療の考えが英国でのセルフメディケーションシステムを通して変わり、もっと新しい医療技術によって様々なことが改善できるのではないか考え始めました。そこで先端医療テクノロジー開発に必要な生物から工学まで幅広い科学分野の知識を深めるため、Biomedical Engineering(医用生体工学)を大学で学びたいと強く希望するようになりました。

 ジョンズホプキンス大学のBiomedical Engineering専攻は独自の選抜基準を設けており、Biomedical Engineering専攻学生は入学選考時に決定されるため、在学途中で本専攻にアプライすることができないのが大きな特徴です。米国大学でも大変珍しいこの専門専攻システムは、4年間じっくり少人数で医用生体工学を学べる環境を作り出しています。Biomedical Engineering専攻によって4年間同じクラスメートと切磋琢磨し、自身の興味分野をひたすら追求できる学部生活を送ることができたことは、私にとって大変貴重な経験でした。

 ジョンズホプキンス大学のもう一つの特徴として、大学とSchool of Medicineとの連携が強固で、学部生でもSchool of Medicineの研究に携わりやすい環境があります。私は高校生時に慶應義塾大学にて行った持続的グルコースセンサとして機能するハイドロゲルマイクロビーズの開発経緯から、マイクロビーズを利用した研究を行っていたIan Pitha教授の指導の下、School of MedicineWilmer Eye Institute(ウィルマー眼研究所)で緑内障の研究を大学1年生から開始しました。緑内障は様々な要因が複雑に絡み合った多因子疾患であるもののその多くがまだ解明されておらず、現在はそのうちの一つである眼圧に対してアプローチする眼圧下降治療しか存在していません。しかし、眼圧が正常範囲でも視野障害が発生したり、眼圧を十分に下降させても視野障害の進行を抑制できないケースも多く、眼圧を介さない新しい治療法の確立が期待されています。私は2年生より強膜という眼球の外壁部分のマクロファージに着目した研究プロジェクトを主導し、従来注目されていなかった強膜マクロファージと緑内障の関連性を示しました。大学3年次では、本研究成果を眼科領域で世界最大かつ最も権威のある学会「ARVO」年次総会にて発表し、6000を超える演題から最も新しく革新的な研究として’Hot Topic‘に選出されました。眼圧から独立した次世代の早期治療法への応用が期待される成果として評価をいただきました。4年次はさらに研究を進め、現在はこの研究成果をとりまとめた論文を執筆しています。マクロファージを探求していくうちに免疫作用の可能性に魅了され、研究興味が免疫学へ移りました。そして学部3年生よりBiomedical Engineering専攻のうちImmunoengineering(免疫工学)を専門分野として学びを深めました。

ARVO2024での発表風景

 ジョンズホプキンス大学のBiomedical Engineering専攻では、革新的な医療デバイス開発を行うBiomedical Engineering選抜学生チームDesign Teamメンバーが毎年選出されています。私は3年次からこのプロジェクトに選抜され、参加しました。4名のチームメイトと共にジョンズホプキンス大学病院と共同で最先端のストーマ(人工肛門)装具の開発を行い、Linda Trinh Memorial Awardの受賞と今夏の開発活動続行のためのグラントも獲得することができました。現在はチームメイトも増え、7名でプロジェクトを進行しています。卒業後もキャンパスに残り、研究活動と並行してストーマ装具の開発を続ける予定です。研究とは対照的に、臨床に近い視点で常に患者・医者・看護師のフィードバックを受けながら、医用生体工学の中でも異なる強みを持った仲間と医療デバイスの開発を経験できたことは、私の大きな人生の転機となりました。研究と臨床の両側面をエンジニアリングで繋げる役割が、目指していく研究者像として明確になりました。医用生体工学の勉強に加え、研究活動では免疫学、Design Teamでは医療デバイス開発と、理論と実践の両方で医用生体工学の幅広い学びをジョンズホプキンス大学で過ごした4年間で得ることができました。

Design Teamのメンバー


 この研究や学問に没頭できたのは、江副記念リクルート財団のご支援をいただいたからです。私はこの4年間で様々な困難を経験しました。その時もいつも温かい言葉をかけていただき、心の支えになりました。この支えがあったからこそ、卒業時には総合優等賞と学科優等賞を獲得できたと感謝しています。

 卒業後は医学研究分野への進学にむけて、Postbaccalaureateとして米国国立研究機関等での研究を検討しました。しかし様々な米国内の状況を考慮し、英国ケンブリッジ大学大学院の研究修士課程に進学することにしました。1年間がん分野における免疫学の研究を行う予定です。

 この4年間はけっして平坦な状況ではなく様々な紆余曲折があり、ハプニングだらけでした。しかしれらの状況下においても諦めず柔軟に対応していくことで、よい結果が生まれることをたくさん経験しました。また問題が発生した際は、様々な方から支援やアドバイスをいただき力になっていただきました。いろいろな経験を重ねたことで、他者への感謝の気持ちを忘れないことと、どんなハプニングが起きてもポジティブに変えることができる力がついたと思います。

 理想と夢をもって進学をされても現実的には様々な困難があるかと思います。私自身も予想がつかない出来事や思うように研究成果や成績が取れない時もありました。非常に悩みましたが、実は他の人も同じような状況や悩みをもっていることを後々気づくことが多くありました。うまくいかない時はひとりで抱え込まずに、誰かに頼ったり、助けを求めてもいいと思います。江副記念リクルート財団は、長い目で研究者を育ててくれます。スタッフの方々のサポートはもちろん、財団生のコミュニティが困難な時こそ力になってくれます。