2025/12/15

北村陽 活動レポート

2025/12/15

北村陽

北村 陽 Yo Kitamura

生きることは分かち合うこと。まるで音楽がその瞬間に生まれているかのように、演奏を通して作曲家の想いを共有したいと思います。 これまで、室内楽やオーケストラ、そして国際コンクールやマスタークラス等に参加して世界の音楽家と交…

――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?

私には「音楽で世界を平和に」という夢があります。ベルリンに留学して最初に住んだアパートは、ユダヤ人が多く暮らしていた地域にあり、街には今も戦争の爪痕が残っていました。また、さまざまな地で出会った、祖国が戦時下にある人たちとの交流のなかで、それは簡単に口にできることではないと感じました。けれども私は、国境を超えて心をつなぐことのできる音楽だからこそできることを考え続け、わずかでも何かを動かすことができれば、その積み重ねの先に平和への希望が見えてくると思っています。

私のチェロとの出会いは3歳の時でした。その音色に心奪われ、両親に懇願して4歳から習い始めることができました。初めてチェロを師事したのは、ジョージア出身のギア・ケオシヴィリ先生でした。先生はジョージアの素晴らしさや、祖国の紛争のこと、そこに残してきた家族のことなど、いろいろな話を聞かせてくれました。今は亡き先生の演奏は、祖国への深い愛にあふれていて、心に鮮明に残っています。

ベルリン芸術大学にて

――日常生活、生活環境について

私は現在、ベルリン芸術大学でイェンス=ペーター・マインツ先生、桐朋学園大学で堤剛先生に師事しています。
マインツ先生に出会ったのは、14歳の時に受講したクロンベルク・アカデミーのマスタークラスでした。それ以来、留学する時は先生の元で学びたいと思っていました。先生の歴史的、論理的裏付けを伴った真摯な音楽へのアプローチには、いつも感動します。堤先生も、グローバルな視点と先生の語る偉大な巨匠たちの生の声が奥深く、お二人の教えは、私の音楽作りの礎となっています。
そして、ベルリンは多様な人種の集まる街なので、さまざまな文化に触れることができ、毎日とても刺激的です。

また、今年から私は、庄司紗矢香さん率いる水戸芸術館専属の室内楽グループ「新ダヴィッド同盟」の新メンバーとなりました。水戸、札幌、直島の3箇所を周り演奏しましたが、どの舞台もまるで世界初演のように新鮮な解釈で、作品の核に迫る、私にとって初めての経験となりました。

イェンス=ペーター・マインツ先生とチェロの巨匠エマヌエル・フォイアマンの巨大ポートレートとともに

――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること

作曲された時代背景、楽曲分析はもとより、その国、地域に根付く民族音楽をできるだけ多く学ぶようにしています。民族音楽の歌詞や音節から、その土地の記憶や息遣いに触れることができれば、作品のメッセージを伝える上で大きなヒントとなります。
作品が生まれた地に対し敬意をもって取り組むことで、国籍や信仰の違いを超えてつながり、閉ざしている心をも溶かすことができるのではないかと信じています。

――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負

夢のような共演者との出会いに恵まれ、素晴らしい環境で学ばせていただいていることに、深く感謝しています。
そして、人間の内面と真摯に向き合い、楽曲の真髄に迫ることで、表現の幅をさらに広げていきたいと思います。

ジョルジュ・エネスク国際コンクールファイナルの演奏を終えて