2026/04/09

白井那奈子 卒業レポート

2026/04/09

白井那奈子

白井 那奈子 Nanako Shirai

現在、緩和ケアに興味を持って学んでいます。患者さんを中心にサポートする家族と医療チームで「患者さんが大切にしていること」に焦点を当ててケアをします。当たり前のことと思われるかもしれませんが、病気だけに集中してしまうと治療…

私は今年5月にハーバード大学医学部を卒業予定であり、江副記念リクルート財団の奨学生としての活動も一つの節目を迎えました。これまでの数年間を振り返ると、「耳を傾けること(listen)」という姿勢が、学びの中心にあり続けたように思います。

医学の道に進んだ当初、私は研究を続けながら臨床にも関わる医師になることを目標としていました。祖父がパーキンソン病と診断された経験を通して、「治すこと(cure)」だけでなく、「寄り添い、支えること(heal)」の重要性を強く感じたことが、この進路を志すきっかけでした。疾患そのものに向き合うだけでなく、その人の人生や価値観に関わる医療に携わりたいという思いは、今でも自分の軸となっています。

医学部での学びの中では、緩和医療や消化器領域の研究に取り組み、Advance Care Planningに関する研究の論文化や学会発表などを経験しました。また、ナラティブ・メディシンの活動にも力を入れ、日本の東京医科歯科大学(現・東京科学大学)でもワークショップを継続して行うことができました。患者さんの語りに耳を傾けること、そして医療者自身が経験を振り返ることの重要性を実感し、今後は研修医としてのトレーニングの中でも、医療者向けのワークショップを続けていきたいと考えています。

医学部2年次に開催したWriting Retreatにおけるワークショップの様子(ナラティブ・メディシンの活動)

そして3月20日のMatch Dayでは、念願であったUCSF(University of California, San Francisco)にマッチすることができました。西海岸での医療を経験し、全米有数の医療機関で研修を受けたいという思いが以前からあり、自分が大切にしてきた価値観と合う環境で次のステップに進めることをとても嬉しく思っています。今後はこの環境で、自分が大切にしてきた価値観を実践しながら、さらに成長していきたいと考えています。

Match Dayの写真

こうした歩みのすべては、江副記念リクルート財団のご支援があったからこそ実現できたものだと感じています。医学部への進学という大きな挑戦において、経済的な不安にとらわれることなく、自分のやりたいことに真っ直ぐ向き合うことができたのは、財団の支えがあったからに他なりません。もしこのご支援がなければ、ここまで自由に挑戦を続けることは難しかったと思います。

また、財団を通して出会った方々とのつながりも、かけがえのないものでした。分野の異なる財団生の皆さんとの対話から、多くの刺激と学びをいただき、自分の視野が大きく広がったと感じています。

そうした経験の中で培われた価値観は、臨床の現場でも強く実感する機会がありました。臨床実習の中で、ある患者さんに「あなたが一番私の話を聞いてくれた、ありがとう」と言っていただいたことがありました。その言葉をきっかけに、患者さんの価値観や希望が改めて共有され、最終的には医療プラン自体が見直されることになりました。

その経験を通して、自分が大切にしてきた「耳を傾けること」が、実際に患者さんのケアに影響を与え得るのだと実感しました。同時に、時間や効率が重視されがちな医療の現場においても、自分の姿勢は間違っていなかったのだと感じることができた、大きな転機となる出来事でした。患者さんの言葉だけでなく、その背景にある思いや文脈に耳を傾けることこそが、医療者としての基盤になるのだと改めて感じました。

カンファレンスでの研究発表の様子

これから研修医として新たな生活が始まりますが、忙しい日々の中でも、自分の経験を振り返り、「耳を傾ける」姿勢を大切にし続けたいと思います。そして、患者さん一人ひとりの物語に寄り添いながら、自分らしい医師として成長していきたいです。

最後になりますが、これまで支えてくださった江副記念リクルート財団の皆様に、改めて深く感謝申し上げます。ここでいただいたご支援とご縁があったからこそ、私はここまで歩んでくることができました。その感謝の気持ちを忘れず、今後も精進してまいります。本当にありがとうございました。