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前田妃奈さん
(ヴァイオリン)

前田妃奈 ヴァイオリン・リサイタル

2019.7.9(火) 19:00
すみだトリフォニー

◆プログラム
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第18番 K.301 K6.293a ト長調
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調 第1楽章
パガニーニ:24のカプリス 作品1から第24番 イ短調
J.S. バッハ:無伴奏パルティータ第1番ロ短調よりアルマンダ-ドゥーブル、コレンテ-ドゥーブル
P.d.サラサーテ:カルメン ファンタジー作品25
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18

今年の4月から財団の奨学生としてお迎えしたヴァイオリニストの前田妃奈さんは、なんとまだ16歳の高校2年生。高校生のヴァイオリニストが日頃どんなことを考えているのか、興味津々。いろんなことを聞いてみましたが、とても丁寧に答えてくれました。すごく感性が豊かで、音楽が大好き~!という気持ちが伝わってきます。

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Q1. 4歳からヴァイオリンを始めたそうですが、ヴァイオリンを弾きたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。これまで続けてこられて、ヴァイオリンの魅力は何だと思われますか。

小さい頃から歌うことや音楽そのものが大好きでした。ヴァイオリンを始めた直接のきっかけは、教育テレビの子ども向け音楽番組をみて、1人しかいなかったとっても歌の上手な女性キャラクターが担当していたパートがヴァイオリンで、そして人形が演奏しているものだと信じ込んでいた私は、「人形が弾けるならひなも弾ける!」と言ったらしいです。

ヴァイオリンの魅力(全ての楽器に当てはまるかもしれませんが)は、自分の思ってること感じていること伝えたい思いが全て出るところです。その反面、その日の体調や気分で音はびっくりするほど変わってしまいます。遠い昔に書かれた音符一つ一つがどのような思いで書かれたか、思いを馳せながら音色を考えるのも楽しい魅力だと思います。

Q2. 昨年の4月から大阪から上京し、親元を離れて寮生活をされていますね。東京での学校生活はいかがですか。

音楽専門の学校に通うのは初めてで、また初めての寮生活。具体的な想像が全くできず、入学前はとても不安でした。でも高校では自分が好きな音楽の勉強を、学校で教えてくれるということに感動し、また普通教科の先生方も音楽を愛されてる先生方が多く、授業中の小話も楽しく毎日幸せな音楽漬けの日々を送っています。

そして初めての寮生活、一人っ子の私は最初の頃、寝ぼけて二段ベッドの階段からよく落ちていました。苦手な洗濯や部屋の片づけ、掃除にもだんだんと慣れ、何よりいつでもどこかの練習室から音楽が聞こえてくる環境に、毎日刺激をもらっています。

Q3. 今年に入ってからも、海外のセミナーに参加したり、コンクールに挑戦したりされていますね。そういう経験を通して、いろんなことを学び、大きく成長されていることと思います。ご自分ではどのように感じていますか。

海外での経験は、そこで直に学ぶことだけではなく、滞在するだけ、空気に触れるだけでも身体や心でいろいろなことを感じられ、私にとってとても大切な時間です。ヨーロッパの田舎を訪れ、滞在することが多いのですが、今年訪れたデンマークのオーデンセは町全体が絵本の中のようでした。古い昔ながらの建物も多く、石畳は歩きにくいですが、馬車の音が想像できたり、教会の荘厳な響きにいつも感動します。

そしてとてもセンスの良い、ヨーロッパの方々の演奏はとても刺激を受けます。マスタークラスやコンクールなどで色々な人と出会い、色々な人の考え、演奏を聴いて頭も心も満タンにして帰ってきます。今年は再度ドイツとコーカサス地方の音楽祭のマスタークラスへ参加する予定があり、とても楽しみです。

Q4. 今日のプログラムの冒頭、モーツァルトを演奏されました。モーツァルトの曲が大好きとのこと。本当に楽しそうに、幸せそうに弾いていらした顔が印象的でした。モーツァルトのどのようなところに惹かれていますか。

モーツァルトは、伝えられる人間性も興味深いですが、私はモーツァルトの書いた曲そのものが、大好きです。色々なキャラクターがたくさん想像できること、短調であっても重苦しくなく軽やかで弾んだ気持ちになれるところが好きです。弾いてると勝手にウキウキしてきます。

Q5. この日は無伴奏曲も演奏されました。たくさんのお客様を前に、舞台の上には自分一人。無伴奏曲を弾くときはどんな思いで弾いていらっしゃいますか。

無伴奏は、舞台に一人ぼっちで正直とても心細いです。いつもは後ろにいてくださるピアノの方がおられないことで一気に不安になります。

特にバッハは、お客様も本当に静かに聴き入ってくださるので、さらに孤独感が増します。パガニーニやエルンストなどの超絶技巧の無伴奏より、何倍も緊張します。

心を落ち着けて、響きを聴いて…とか、たくさんしなければいけないことはあるはずなのですが、やはりまだ余裕がないのか弾くことに必死になってしまいます。作曲家がその曲を書いた思いや、情景が聞いている人に伝わるよう演奏したいです。

Q6. ソロ、ピアノとの二重奏、室内楽、協奏曲等、いろいろな演奏形態がありますが、それぞれの魅力はなんでしょうか。どの演奏形態がお好きですか。

私は、どの演奏形態も大好きです。ソロにはソロの良さがあります。今最も興味があり、これからもっともっと学び、取り組んでいきたい室内楽も、ソロでは出せない音の広がりがあり、他の方々や楽器から学ぶこと気づくことが沢山あります。

そしてやはり協奏曲のソリストは小さい頃から憧れです。何十人ものオケの方々をバックに、難しいコンチェルトを弾くソリストの姿は、ヴァイオリンを始めてから、初めて見たヴァイオリニストの姿でした。奏者が多い分、音の組み合わせが壮大で、協奏曲にしかない魅力にもとても憧れます。

Q7. 今後どんなことを学び、どんな演奏家になりたいとお考えですか。

今までもこれからも、まずは演奏家、音楽家である以前に、人間として暖かく、慕われるような人になりたいです。教えて下さってる先生方は、音楽に造詣が深いのはもちろんですが、いつも演奏家、音楽家としても、人としても尊敬できる方々でとても憧れます。そのためにも、今音楽ができていることへの感謝を忘れずに、何をするにも一生懸命に励みたいと思います。

演奏家としては、私の昔からの課題でもありますが、もっともっと音で何かを伝えられる演奏ができるようになりたいです。まだまだ感情が先走ってしまって体に力が入ったり、表現するための技術が必要であったり、気分が乗らないときはいい演奏ができなかったり。昔よりは一定を保てるようになったかなとは思いますが、聴いて下さっている方の心に情景が浮かぶような演奏ができるようになりたいです。

Q 8. 今、一番楽しいな、幸せだな、と思うのはどんな時ですか?

難しい質問ですが(笑)私は、どんな時も幸せだと感じています。もちろん、楽しいことも面白いことも、辛いことも嫌なこともありますが、日々の色々なこと、その気持ち、瞬間を経験できること自体が奇跡だと思うし、素晴らしいことだと思っています。ヴァイオリンを弾いて、何事もなく学校に通って、ご飯を食べて、寝て…。こうして生活できるだけでも楽しいし、幸せです。

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「楽しいことも面白いことも、辛いことも嫌なことも、その気持ち、瞬間を経験できること自体が奇跡。ヴァイオリンを弾いて、学校に通って、ご飯を食べて、寝る。それだけでも楽しいし、幸せ。」という前田さん。どんなことでも自然と、最大限に楽しめるその若さとおおらかさ。それによって知らないうちに多くの事を学び、身に付けている。その満ち足りた気持ちがエネルギーを生み、演奏に注がれている気がします。前田さん、これからも毎日を、そして音楽を心ゆくまで楽しんでください🎻