2025年12月25日(木)15:00開演 @東京オペラシティ コンサートホール
留学先で研鑽を積みながら、国内外で活躍する江副記念リクルート財団器楽部門の奨学生全員が一堂に会し、1年の成果を披露する第31回リクルートスカラシップコンサートが、2025年12月25日、初めて東京オペラシティコンサートホールで開催されました。
財団奨学生15名と特別出演の4名、計19名で6つの室内楽を披露する、まさに室内楽のフェスティバル。プログラミングは東京藝術大学教授でピアニストの伊藤恵先生。例年4月頃には出演者一人一人の個性を念頭に、これまでの共演者や演奏曲が重ならないよう曲目とチームを決定。各チームでリーダーを決め、事務局と連絡を取りながら12月のリハーサルを迎えます。
リハーサルでは同じく東京藝術大学教授でヴァイオリニストの漆原朝子先生のご指導もあり、先生の一言を一瞬で理解し即座に演奏に活かす出演者のレベルの高さに毎年驚かされます。同時に、個性溢れる同年代の才能ある若者が集まり、アイデアを出し合いながら一つの音楽を創っていく過程を目の当たりにし、本番への期待が高まります。
今回も、ホールに足を運べない方々にも楽しんでいただけるよう、また出演者の素顔を知っていただけるよう、インタビューやチームエピソード、卒業生の思い出を挟みながらライブ配信を行いました。
◆プログラム
- I. シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調作品44
佐々木つくし(1st Vn.)、外村 理紗(2nd Vn.)、石田 紗樹(Vla.)、佐藤 晴真(Vc.)、進藤 実優(Pf.)
- II. アレンスキー:ピアノ三重奏曲 第1番ニ短調作品32
HIMARI(Vn.)、鳥羽 咲音(Vc.)、吉見 友貴(Pf.)
- III. ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲作品56b
谷 昂登(1st Pf.)、重森光太郎(2nd Pf.)
- IV. ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 第2番イ長調作品81 B.155
竹内 鴻史郎(1st Vn.)、MINAMI(2nd Vn.)、鈴木慧悟(Vla.)、北村 陽(Vc.)、牛田 智大(Pf.)
- V. テレマン:四つのヴァイオリンのための協奏曲 TWV40:202第2番二長調
前田 妃奈(1st Vn.)、外村 理紗(2nd Vn.)、MINAMI(3rd Vn.)、佐々木つくし(4th Vn.)
- VI. フランク:ピアノ五重奏曲 ヘ短調
橘和 美優(1st Vn.)、前田 妃奈(2nd Vn.)、田原 綾子(Vla.)、佐藤 晴真(Vc.)、亀井 聖矢(Pf.)
企画・プロデュース:伊藤 恵
開演の挨拶 今年の開演の挨拶はチェリストの鳥羽咲音さん。「毎年違うメンバーと数々の室内楽を演奏するこのようなユニークな演奏会は他には無いのでは。奇跡とも言えるメンバーの音楽を間近で聞くことができる瞬間はまさに一期一会です。」そして、10月に初の女性総理に就任した高市早苗氏の「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」という言葉を模して、「私たち奨学生は真摯に音楽と向き合いながら、学んで、学んで、学んで、学んで、学んでまいります!」と笑いを誘い、和やかな雰囲気で幕を開けました。

- I. シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調作品44
佐々木つくし(1st Vn.)、外村 理紗(2nd Vn.)、石田 紗樹(Vla.)、佐藤 晴真(Vc.)、進藤 実優(Pf.)
一曲目はシューマンのピアノ五重奏曲。ホールに集った聴衆全員が固唾を呑んで第一声に耳を澄ます中、力強くエネルギッシュなテーマで始まりました。42回奨学生で世界で大活躍中のチェリスト、岡本侑也さんの解説によると、「この曲は19世紀の室内楽の最高傑作とも言われる曲で、当時はまだ珍しかったピアノ五重奏曲という編成を、この作品によってロマン派の典型的な編成として確立させている。後にブラームスやドヴォルザークなどもこの作品に影響を受けて、ピアノ五重奏曲を作曲している」という。
リーダーの佐々木さんは、「この曲は室内楽的な作品で、5人のバランスを考えたり、楽譜に書かれていることを忠実にかつ自然に表現できるように、メンバーみんなで話し合って曲作りをしています。ようやくクララと結ばれたシューマンの喜びに思いを馳せながら、心を込めて演奏したい」と意気込みを語ってくれました。


佐々木つくし(1st Vn.) 
外村 理紗(2nd Vn.)



- II. アレンスキー:ピアノ三重奏曲 第1番ニ短調作品32
HIMARI(Vn.)、鳥羽 咲音(Vc.)、吉見 友貴(Pf.)
ニ曲目は、リクルートスカラシップコンサートで初めてプログラミングされたアレンスキーによるピアノ三重奏曲。43回生で今大活躍のピアニスト、阪田知樹さんの解説によると「1861年、ロシア北西部の都市ノヴゴロドに生まれたアレンスキーは、9歳になる頃には歌曲やピアノ曲を多数作曲していた。1879年にはサンクトペテルブルク音楽院に入学。音楽院卒業後は12年間にわたってモスクワ音楽院の教壇に立ち、門下生からはラフマニノフ、スクリャービンなどの優れた作曲家を輩出した」という。
ヴァイオリンのHIMARIさんは、「実は私の師アイダ・カヴァフィアン先生の演奏を聴いてから、いつか弾いてみたいと憧れていた作品です。叙情的で哀愁あるメロディー、憂いある音色を届けられるよう楽しんで演奏したい。」そしてチェリストの鳥羽さんは、「美しい旋律と三つの楽器の絡み合い、特に第3楽章の深い哀しみに惹かれます」と話していました。三人それぞれの音色と演奏を存分に堪能できる、三重奏ならではの贅沢な演奏となりました。



- III. ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲作品56b
谷 昂登(1st Pf.)、重森光太郎(2nd Pf.)
三曲目は、ブラームスのハイドンの主題による変奏曲作品56b。この曲には管弦楽版(作品56a)と2台ピアノ版(作品56b)の2種類が存在する。また、本作は簡素な主題と8つの変奏とフィナーレからなるが、主題に続く8つの変奏では、それぞれ全く異なる世界を展開しているという。
2台ピアノのリハーサルができる場所がなかなかないのですが、早くから場所を確保し、オーケストラ版の楽譜も読み込み、音源も聞き、合わせを重ねたそうです。谷さんは「二人で合わせをする中で、どの楽器がこのメロディを弾いているのか等もオーケストラの音源を聞いて見つけたり、試行錯誤しながら理解を深めていきました。一方、二台ピアノならではのバランスの作り方も探しました」と明かしてくれました。オーケストラを想像しながら聴いたり、1st ピアノと2nd ピアノの会話や、それぞれの変奏の異なる世界観を楽しんだり、2台ピアノの魅力溢れる演奏でした。



- IV. ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 第2番イ長調作品81 B.155
竹内 鴻史郎(1st Vn.)、MINAMI(2nd Vn.)、鈴木慧悟(Vla.)、北村 陽(Vc.)、牛田 智大(Pf.)
チェコを代表する作曲家、ドヴォルザークは、自国の舞曲や民族色が反映された様々な傑作を残しているが、1888年に初演されたこのピアノ五重奏曲第2番も、彼の代表作として演奏機会が多く、今ではシューマンやブラームスのピアノ五重奏と並んで、この編成では代表的な作品。
1st ヴァイオリンは、このステージに立つことが夢だったという4月から財団の奨学生になった竹内 鴻史郎さん。リハーサル初日は今をときめく大先輩に囲まれ緊張の面持ちでしたが、直ぐに馴染み、若々しくも堂々とした、溌溂とした演奏を披露してくれました。
ピアニストの牛田さんは、「冬のヨーロッパで晴天が訪れるのはごくまれですが、そのときの開放感や、肌を刺すような空気の冷たさ、そして同時に春を待つ温かい期待をドヴォルザークのクインテットから感じることができます」と話していましたが、まさに様々な情景が移り変わり、最後まで聴き手の心を離さない、素晴らしい演奏でした。






- V. テレマン:四つのヴァイオリンのための協奏曲 TWV40:202第2番二長調
前田 妃奈(1st Vn.)、外村 理紗(2nd Vn.)、MINAMI(3rd Vn.)、佐々木つくし(4th Vn.)
五曲目は、テレマンによる四つのヴァイオリンのための協奏曲 TWV40:202第2番二長調。スカラシップコンサートの過去を辿っても初と思われるバロック音楽。テレマンは後期バロック音楽を代表する作曲家で、18世紀前半に特にドイツとフランスで高い人気を誇ったという。この曲は、ヴァイオリン4本のみというかなり特殊な編成で書かれており、「協奏曲」という題名はついているものの、低音を支える「通奏低音(チェンバロやチェロなど)」が存在しない。ただし、それによって伴奏だけに徹底するパートは無く、4つの声部は互角に渡り合い、均等に活躍の場を与えられている。
このメンバーは全員が財団在籍も長く、著名コンクールでの受賞者ばかりで、言わば「財団の秘蔵っ子」とも言える4人。この気の合った長い付き合いのソリスト級のヴァイオリニストが揃ってバロックを演奏するのは奇跡的。2ndヴァイオリンの外村さんも「このメンバーでバロックを演奏するのを楽しみにしていました。一人一人が主役で、それぞれがメロディを奏でて受け渡していくのが魅力的なこの曲を楽しんでいただきたい」と意気込みを語っていました。終わった瞬間、周りのお客様が「ヴァイオリニストも曲も可愛くて、癒しの一時でしたね」と話していたのが印象的でした。





- VI. フランク:ピアノ五重奏曲 ヘ短調
橘和 美優(1st Vn.)、前田 妃奈(2nd Vn.)、田原 綾子(Vla.)、佐藤 晴真(Vc.)、亀井 聖矢(Pf.)
最後を飾るのは、1822年ベルギーに生まれ、フランスで活躍したセザール・フランクによるピアノ五重奏曲。1879年に完成し、翌年の初演でピアノを務めたサン=サーンスに捧げられた曲という。
リーダーの前田妃奈さんは、「今年が初めての出演ですが、明るくて素晴らしい演奏をする橘和さん、包容力があり何をしても受け入れてくれる頼れる田原さん、「大先生」「教授」と呼ばれて引っ張ってくれる佐藤さん、そしてすばらしく安定感のある亀井さん」とメンバーを紹介。「濃くて激しい曲ですが、リハーサルは和やかに楽しくやっています。35分近い激動の大曲ですが楽しんでいただけたら嬉しいです」と話していました。


橘和 美優(1st Vn.) 
前田 妃奈(2nd Vn.) 
田原 綾子(Vla.) 
佐藤 晴真(Vc.) 
亀井 聖矢(Pf.)
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卒業生アンコール
今年度で財団を卒業するMINAMIさん(ヴァイオリン)による卒業生アンコール。曲は、MINAMIさんが卒業する時はこれを弾こうと、ずっとずっと心に決めていたという「ヴィエニャフスキのレゲンデ(伝説曲)」。ピアニストは、ボストンのニューイングランド音楽院でまさに苦楽を共にした吉見友貴さん。思いのこもった感動的な演奏となりました。
「私の音楽家としての原点は、間違いなく高校を卒業してからスカラシップ生として過ごしたこの9年間にある」と話してくれたMINAMIさん。音楽家としても奨学生としても皆さんの鑑のような存在だったMINAMIさん。心のこもった素晴らしいアンコール演奏をありがとうございました!これからも世界にはばたくMINAMIさんを応援しています!

カーテンコール
チーム構成、選曲、曲順など、年初から始まった伊藤恵先生の素晴らしいプログラミングや、漆原朝子先生によるリハーサルでのご指導、そしてコンサートの成功に関わったすべての方々、日ごろから応援してくださる方々への感謝を込めて、出演者全員のご挨拶で幕を閉じました。

4時間近い演奏会でしたが、伊藤恵先生のバリエーション豊かなプログラミングと、それに応える各チームの素晴らしい演奏の数々で、聴衆も最後まで集中して楽しんでいただけた演奏会となりました。
2026年は、12月26日(土)、東京オペラシティで開催予定です。お楽しみに♪♬
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演奏直後の満足そうな笑顔!

真剣なリハーサルの様子

配信でお送りしたインタビューの様子








