トップページ > 奨学生TOPICS > 9/3「アーティストのキャリアにおける海外留学の意義」開催報告

9/3「アーティストのキャリアにおける海外留学の意義」開催報告

Q&A 

ーー質問 ;栗林さんに質問ですが、向いてないって言われた時はどのようなモチベーションで制作に向き合いましたか。

栗林 多分、みんなあると思うんだけど、たまにわけ分かんない自信がある時あるじゃん。そこを大事にしてたな。もう何万人とすごい人を見てきたけど、俺はそのすごい人じゃないから。俺はリヒターでもないし奈良さんでもないし。自分が分かっていればいいんじゃないかなと思ってて。ただ自分が分かっていればいいんだけど、分かってねぇんだよみたいなところでイライラしてたな。もちろん、才能が無いって人に言われたら落ち込むよ。当然その時はガーンみたいな!やっぱり俺才能ないんだみたいなさ。だけど、俺は自分との約束だから。あんまり気にしてなかった。

ーー質問 ;子育てしながらの海外留学は、アーティストとしての意義があるのでしょうか?水野さん、ご意見お伺いしてもよろしいでしょうか。

水野 私自身は子育てしてないので分からないんですけど、フィンランドのアアルト大学には子育てしながら、アート、デザイン、建築学部に留学されている方がたくさんいらっしゃいます。それに生活としては可能だと思いますし、子育てとアーティスト活動ってどちらも生き方に繋がってくる部分だと思うので、相互作用とかあるのかなと思います。子育てする中で子供の観点とか、そういったところからまた新しい視点が作品とか活動の制作活動の視点に入ってくるから来ると思うので、想像でしかないんですけど、意義としてはあるんだと思っています。

栗林 俺は結婚してないし、子供もいないんだけど、自分だって親の子供だったじゃない。俺は自分の親父とかお袋の一部だとは思ってて、そこを尊重してちゃんとした息子を演じてるんだけど。親父が作った世界、例えば実家は俺のもんじゃないし、あんまり親父にも干渉しないみたいなのとおんなじで。俺には作品が子供っていうアイデアがあって、これを言うと何を言われるか分からないんだけど、俺はあんまり作品を作るのが実は好きじゃない。作らされてる時がすごいあるわけ。俺がこのエッジはやり直しだと思ってやってると思いきや、実は作品からここを直せみたいなことを言われてやらされてる感じみたいなのがあって。タイトルとかも付けるのも苦渋の選択でタイトル付けたりとかして。でもその感じとか子供にすごく似ている。だからその普通の価値観で子供がいたらどうだとかっていうより、俺からすると一つの作品みたいなもんだから。子供と一緒に留学しようとか、もうスゲー面白いだろうし、俺は今、君らの歳の感覚で、また留学できるっていうのはうらやましいなと思う。不安があったり、どきどきしたり、子供がいていいかなとかさ。俺なんか何だろうな、別にもう何でもできちゃうっていうつまんなさ…、新鮮じゃない部分もあるかな。結局本人って皆さんしかいないから、皆さんが良しとして言ってあげないと、誰かがこう言ったから海外へ行ったけど、私は違ったって言うと人のせいにしちゃうじゃん。そのためには作品作るのもそうだけど、言い訳をしない為っていうかな。全部自分で決めていい。俺は子供がいたら、子供を連れて色んなとこ見せてあげたいし、ちゃんとお父ちゃんは才能ないって言われてるとこを見せてあげたい。

ーー質問 ;お二方に、海外で制作されたものを、日本で展示する/見せる際に意識されていることを伺いたいです。海外で活発な文脈を輸入する感覚だったり、観客の傾向にあわせて展示や作品の内容を変えることはありますか?

水野 今、フィンランドで作っているとか活動しているものは、かなりサイトスペシフィックなものです。こちらでは何回かワークインプログレスも含めて展示させていただく機会があったのですが、これをそのまま日本で展示したいかと言われると、そうではなくて、日本で表現したとしても、文脈とか分かりやすく伝わるような形、例えば何かアーカイブブックなどの別の形の展示を考えていきたいなと思っています。海外で活発な文脈を輸入することに関しては、例えばデコロナイゼーションとかフェミニズムみたいな概念とかって日本にいる時も聞いてはいたんですけど、やっぱり日本で生活して勉強しているだけだと実体感としてなかなか入ってこなかったものが、こっちに来ると授業でも聞くし、何となくここでの生活している中の感覚として実体感が湧いてきています。でも、それを日本に持って行った時にどう表現するかっていうところは私もまだわからないので、ぜひ栗林さんのお話を聞いてみたいなと思います。


栗林 やっぱり日本って芸術っていうのが美術っていうところから来てるから、すごくクオリティっていうものを見るね。皆さん分かると思うんだけど、海外はクオリティの意味が違うんだよね。外国の人達が見る質っていうのは、その物の質とはやっぱり内容だったりとか、そのアーティストだったりっていうのを見るんだけど、どうしても日本っていうのは作品自体をすごい見られてしまうみたいなのがあって。そこは変えるとかそうじゃなくて、ちょっと残念に思う。だからといって俺は変えないんだけど、日本でやるとクオリティが上がっちゃうっていう。例えば一緒にやるアシスタントとかでも変わってくる。日本とインドネシアの両方にアシスタントがいるんだけど、日本でやると本当はそんなにクオリティを上げたくないところのクオリティ上がったりするのが、俺からすると日本の残念なところ。質問とはちょっとずれちゃってるんだけど。自分で変えてるつもりはなくても変わっちゃう。そしてそれを評価する人たちもそういう見方をされてしまう部分が俺からすると残念というか。

ーー質問 ;高校3年生で今、ロンドン芸術大学(ファッション)を目指して勉強したり、アート活動に向き合っている学生です。自分は一年間、日本の専門学校で留学準備をするのでまだ日本を吸収したいなと思っているのですが何を一番大事にして向き合っていけば良いでしょうか?

栗林 何が一番大事って言うか、集中すると決めたらもうさ絶対外国には行けるから。準備っていう考えよりも今に集中するっていうのがすごく大事。さっきも言ったけど、これのためにこういう準備をしていかなきゃいけないっていう風になっちゃうとそれを越えられないんよね。だから、日本を吸収したいって思うんだったら、それこそ今に集中して、今自分にできることをやってたら、それが準備になって、それがやってると例えば違う出会いが出てきたりとかして、自分で設定してたのが違うことになっても、それはいいことだし。変な言い方すると、俺は今まで今の世の中の常識とか教育とかそういうものに対してやっぱり非常に色々な疑問もあるし、自分の考えてることとそこは全然ズレちゃってると思う。だから今の世の中の人たちは、俺の今までのことだって、普通に言語化してちゃんとこうやってこうやってってシステマチックにとか、そういうのを聞きたいのかもしれないけど、みんなその若い人たちが答えを求め過ぎちゃってて安心したがる訳よね。だからその答えを求めないっていうのと、今に集中するっていう真逆なことが大事だと思う。


◆ゲスト

栗林 隆/Takashi Kuribayashi
アーティスト。ベルリンの壁崩壊直後の1991年より、ドイツに滞在し「境界」をテーマにインスタレーション、ドローイング、映像、などの多様なメディアを使いながら作品を制作。現在は日本とインドネシアを往復しながら国際的に活動する。documenta fifteen (ドイツ カッセル、2022) 、MEET YOUR ART FESTIVAL 2022ーNew Soil (東京、2022) 、瀬戸内国際芸術祭2019「伊吹の樹」(香川、2019) など、数々の国際展や芸術祭にも参加している。

水野 渚/Nagisa Mizuno
アーティスト。大学学部では、日本とイギリスで国際関係・国際開発を専攻。デンマークのフォルケホイスコーレに留学。国家公務員、ライター・編集者として働いたのち、現在は東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻に在籍しながら、フィンランドのアアルト大学に交換留学中。「食べる」という行為を通じて、人と人、人と人以外のものとの関係性をテーマに作品を制作している。大学キャンパス内でヤギの世話や畑作業、野草採取をしながら、日常生活の中の美しい技(アート)を大切にしている。

◆進行
大竹 紗央/Sao Ohtake(江副記念リクルート財団アート部門第49回生)
アーティスト。シカゴ美術館附属美術大学にてFine Artsを修了。現在はニューヨーク大学大学院芸術学部 Interactive Telecommunications Programに在籍。作品にインタラクティブ性を持たせて、都市空間とそこに暮らす人々を紐帯することをテーマとした作品を制作。主な活動に、「東京オペラシティ リサイタルシリーズ B→C: 上野道明」にて演奏曲『Phoenix』にエレクトロニックインスタレーションアート提供 (東京、2022)など。

上野 里紗/Risa Ueno(江副記念リクルート財団アート部門第51回生)
アーティスト/編み作家。ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズで学士テキスタイルデザイン、修士Art & Scienceを修了。日常-衣食住を素材に、手引きとしての数学・科学とテキスタイル=考えを翻訳する道具を用いて作品制作する。LVMH Maison 0 / This Earth Awardショートリスト、MullenLowe Nova Award ノミネート(2023)。Interstice: Art & Science collectiveにて「Interstice」出版(2023)。

奥村 研太郎/Kentaro Okumura(江副記念リクルート財団アート部門第52回生)
アーティスト。東京藝術大学美術学部油画専攻卒業、ロンドン芸術大学大学院 セントラル・セント・マーチンズ アートアンドサイエンス在籍。映像や彫刻などの多様なメディアを用いて、哲学、科学、工学、美術の探索が密接に交わることで、作品とその体験という結晶につながるというビジョンを根底に、国内外で展示ベースの作品を制作。 主な活動に、アーティストフェア京都 (京都、2022)、五十嵐大地氏との共同展示「境界域」(東京、2023)など。

1 2 3 4