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第53回江副記念リクルート財団総会を開催:No.2(午後の部)

財団交流イベント
第53回江副記念リクルート財団総会を開催:No.2(午後の部)

午後の部は、財団活動報告、新規奨学生紹介、成果報告、パネルディスカッションといった従来のコンテンツに、奨学生による自身のキャンパスツアー、短い時間で専攻・競技の魅力を伝えるライトニングトークといった今回初となる企画を織り交ぜて、3時間があっという間に過ぎるような充実したイベントとなりました

(報告書:学術部門47回生 島戸 麻彩子

開催概要 午後の部 (※午前の部はこちら
◇日時:2024年3月31日(日)18:00~21:00
◇司会:学術部門47回生 島戸麻彩子
◇内容
1. 新規奨学生紹介
2. 成果報告① アート部門51回生 上野 里紗
3. 成果報告② 器楽部門52回生 佐藤 晴真
4. ライトニングトーク
 登壇者:スポーツ部門51回生 齋藤 咲良、学術部門47回生 冠 楓子、アート部門52回生 奥村 研太郎
5. キャンパスツアー
 5-1. ベルリン芸術大学:器楽部門50回生 鳥羽 咲音、52回生 北村 陽、佐藤 晴真
 5-2. リューベック音楽大学:器楽部門48回生 戸澤 采紀 
 5-3. ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン:学術部門47回生 冠 楓子 
 5-4. オックスフォード大学:学術部門47回生 石田 秀
 5-5.  インペリアル・カレッジ・ロンドン:学術部門49回生 アガルワラ ユキ、久野 凌
 5-6. セントラル・セント・マーチンズ:アート部門51回生 蔵内 淡
6. パネルディスカッション「異分野の視点で考える、日本を活気づける方法」
 登壇者:スポーツ部門52回生 垣田 真穂、アート部門49回生 鈴木 友里恵、50回生 増田 麻耶、学術部門47回生 石田 秀
7. 卒業生紹介 代表挨拶 学術部門44・49回生 久保田 しおん
8. 専務理事挨拶





1. 新規奨学生紹介 
今年度は器楽4名、アート3名、学術5名、スポーツ7名、合計19名が53回奨学生として採用され、江副記念リクルート財団の一員となりました。午後の部にはそのうち15名が参加し、自身の意気込みを語りました。




2. 成果報告① アート部門51回生 上野里紗
セントラル・セント・マーチンズに在籍している上野里紗さんは、食べものに関するプロジェクトについて発表しました。まず、Brillat Savarin氏の「あなたが何を食べるか教えてくれたら、私はあなたがどんな人か教えよう」という言葉を引用し、この言葉は様々な解釈が可能と説明しました。例えば、朝食は何も食べない、昼は魚の缶詰とパン、夜は牛肉と山盛りの野菜にご飯かパスタ、といった食生活をしている人の場合、加工食品を避けている、野菜から栄養を得ようとしている、朝に断続的断食を行っているもしくは時間がないーなどと、人間性が垣間見えます。

上野さんは「Nonsense Makes Sense When You’re Hungry」というプロジェクトで、パンのようなケーキのような食べ物が提供される晩餐会を開き、参加者に「口にいれるもの」に意識を向けるよう促しました。テキスタイルデザインの実践として、セロリやルバーブの繊維で作られた「指と手のための帽子」を用いて食べ物を口に運ぶ過程を通して、食用と食用でないものが共存した状態で「食べ物とはなにか、何が食べられ、何が食べられないのか」を参加者に問います。
このプロジェクトはLVMHなどの外部機関にも評価され出版にまで至ったそうで、上野さんの活躍ぶりが伺えました。

Nonsense Makes Sense When You’re Hungryの様子


3. 成果報告② 器楽部門52回生 佐藤晴真
ベルリン芸術大学に在籍する佐藤晴真さんは、「4スタンス理論と筋弛緩法ー筋肉の傾向を知り、パフォーマンスを最大限引き上げるために」というタイトルで発表しました。



1つ目の「4スタンス理論」とは、廣戸 聡一さんが提唱した「人間の身体は血液型と同じように重心のタイプ・筋肉の使い方が4通りに分かれる」という理論です。タイプに応じた筋肉の最大限の使い方を理解するためのもので、オリンピック選手の育成強化にも使用されているそうです。2つ目の「筋弛緩法」はエドモンド ヤコブソンさんが提唱したもので、筋肉を緊張させたあとに一気に脱力することでコリを段階的にほぐすというリラックス法です。こうして筋肉を緩めることで、心も体も質の良い集中を得ることが可能になるそうです。

興味深かったのはこの2つの考え方が、スポーツだけでなく器楽のパフォーマンスの向上にも通ずるということです。運動時以外でも、全ての人間的な活動には身体の使用が伴うことを改めて認識し、歩く、座るといった日常的な動作においてもこれらの考え方が応用できるのではないかと思いました。身体の構造や自分の身体的特性を再認識・考慮することで、違和感のある身体の使用法を避け、より良い演奏に磨きをかけようとする佐藤さんのひたむきな姿勢が見て取れました。

上野さんと佐藤さんのお2人は異なる分野で活動しながらも、部門を問わず応用・活用できるアイデアを共有してくださいました。例えば、食べ物は身体を構成する非常にクリティカルな要素で集中力や気分を大きく左右するため、演奏などのパフォーマンスに影響を及ぼしかねません。また、4スタンス理論や筋弛緩法を応用することで、集中力を保って作品づくりに取り組みやすくなることでしょう。



4. ライトニングトーク スポーツ部門51回生 齋藤咲良、学術部門47回生 冠楓子、アート部門52回生 奥村研太郎
今回の総会の新規企画として行われたライトニングトークでは、各部門ごとの視点や面白さ、そしてワクワク感を他部門に届けることを目的に、1人5分の短時間で専攻・競技について3人の奨学生が発表しました。

トップバッターとして、女子テニス世界大会で活躍されている、スポーツ部門51回生 齋藤咲良さんが登壇しました。4大大会と言われるグランドスラム出場を目指す齋藤さんが、トレーニングのスケジュールや、充実したさまざまな施設、テニス競技における男女格差の変革について幅広くお話してくれました。

トレーニング中の齋藤さん


次に、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに在学中の学術部門47回生 冠楓子さんが、ダウン症からヒントを得たアルツハイマー型認知症の根本治療に関する研究について発表しました。ダウン症の特徴である染色体異常によって過剰生成されたタンパク質が免疫システムによって脳で感知され炎症を起こすために、ダウン症の患者は早期アルツハイマー型認知症を発症するのではないか、という仮説から、アルツハイマー型認知症の治療の糸口を探っているとのことです。

冠さんの研究概要

最後に、イギリスのセントラル・セント・マーチンズに在籍しているアート部門52回生 奥村研太郎さんが、文学、美術、フェスティバルの3つの観点から「砂漠の創造性」というテーマでお話しました。砂は、無国籍性、極限環境、風化を象徴するものであり、その砂の側面それぞれに着目することで多様なアートが生まれている、ということを熱く語っていただきました。

「砂」をテーマとした作品群



5. キャンパスツアー
今年の総会では、奨学生が自身の大学を紹介するキャンパスツアーの映像を各自制作し、総会で放映しました。

5-1. ベルリン芸術大学 器楽部門50回生 鳥羽咲音、52回生 北村陽佐藤晴真
初めに、器楽部門の鳥羽咲音さん、北村陽さん、佐藤晴真さんがベルリン芸術大学を紹介しました。大学の器楽練習場や図書館といった充実した大学の設備や、様々な国の音楽が街中に溢れる国際色豊かなベルリンの街の様子などから、現地で器楽を学ぶ恵まれた雰囲気を実感できました。ベルリーナーというドイツの伝統的な美味しそうなドーナツを頬張る姿も見受けられました。

ベルリン芸術大学の教授にインタビューする鳥羽 咲音さん



5-2. リューベック音楽大学 器楽部門48回生 戸澤采紀

同じく器楽部門の戸澤采紀さんは、ドイツのリューベック音楽大学を紹介しました。リューベックの街並みは世界遺産に登録されているほど歴史があり、リューベック音楽大学の建物も非常に特徴的でした。外側からは一軒家が何軒も連なっているように見えるものの、実は中で繋がっていて1つの建物になっているそうです。素敵なホールや馬車の通り道、昔の暖炉などもありました。最後には戸澤さんの素晴らしいヴァイオリンの演奏を聴くことができました。

22軒が連なったように見えるリューベック音楽大学の建物



5-3. ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 学術部門47回生 冠楓子

続いて、学術部門の冠楓子さんが、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの脳科学研究所を案内してくれました。研究スペースには実験用具が溢れ、実験設備が充実していました。綺麗に整備されたストックルームや-80度の冷凍庫で保存された実験のサンプルもありました。冠さんの研究室には最近1億8千万円もする顕微鏡が導入されたようで、その大きさと性能に驚きました。他にも、顕微鏡で見たサンプルの画像を保存していく作業や、凍らせたサンプルを機械で薄く切り出していく作業が映し出され、冠さんの日々の研究生活そして実験室の様子がとてもよく分かる作品でした。

顕微鏡で見たサンプルを紹介する冠 楓子さん



5-4. オックスフォード大学 学術部門47回生 石田秀

学術部門の石田秀さんは、オックスフォード大学を紹介しました。ハリーポッターの撮影に使用された有名なボドリアン図書館はイギリスで2番目に大きい図書館だそうです。映像では、石田さんご自身の卒業式の様子から、寮のダイニングホール、学生の交流室、図書館といった設備も紹介してくれました。寮の前の草原では牛が、石田さんの所属する工学部の建物周辺にはアヒルが散歩しているなど、自然に溢れた穏やかな風景が見て取れました。

石田 秀さんが所属するクライスト・チャーチ・カレッジの様子



5-5. インペリアル・カレッジ・ロンドン 学術部門49回生 アガルワラユキ久野凌

その後、同じく学術部門の久野凌さんとアガルワラユキさんがインペリアル・カレッジ・ロンドンを案内しました。インペリアルは工学と医学、理学、数学、ビジネスの分野に特化した大学で、9つのキャンパスから成り立っているそうです。医学部専用キャンパスのうちの1つにある実験室を案内してくれ、深い歴史を持っているインペリアルの様子が分かりました。キャンパス内の売店では、大学のロゴ入りグッズが販売されており、日本製のBENTO箱も陳列されていました。実はロックミュージックの世界で有名なクイーンが大学の卒業生だそうで、彼らが初めて演奏したホールも紹介されました。

インペリアルの医学部専用実験室



5-6. セントラル・セント・マーチンズ アート部門51回生 蔵内淡

最後に、アート部門蔵内淡さんが、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズを紹介しました。蔵内さんのアートスタジオや講義の様子が映し出されました。大学内のアートブックストアや、色々な布のサンプルを展示している図書館の一角といった、芸術大学ならではの光景が垣間見えました。同じ財団生の奥村研太郎さんと昼食を食べる場面もあり、財団生同士常に支えあって作品制作に取り組んでいる様子が見て取れました。

自分のアート制作スペースを紹介する蔵内淡さん



6. パネルディスカッション スポーツ部門52回生 垣田真穂、アート部門49回生 鈴木友里恵、50回生 増田麻耶、学術部門47回生 石田秀
今回のパネルディスカッションは、アート・学術・スポーツ・器楽と異なる分野が集まった江副記念リクルート財団の特徴を生かし、異分野の考えや視点を交換することを目的に企画されました。「異分野の視点で考える日本を活気づける方法」というテーマは、スポーツが持つ社会への影響力にも深い関心を寄せている、スポーツ部門52回生・自転車競技アスリートの垣田 真穂さんからの提案によるものです。
アート部門49回生の鈴木友里恵さんのファシリテーションのもと、アート部門50回生 増田 麻耶さん、学術部門47回生 石田秀さんらパネリストと、視聴している奨学生の間で様々な意見が飛び交いました。

パネルディスカッションに登壇した4人の奨学生

 

垣田さんは、アスリートとして感じた世界で戦うにあたっての異分野の知見や協力の重要性について発言しました。「自分の頑張りだけでは世界では戦えないことに気づいた」と語る垣田さんは、スポーツ選手が世界でトップに立つには実は音楽・アート・学術・スポーツの4部門の協働が必要だと投げかけました。例えばレース分析やスポーツ医学には学術、レースや練習中の感情コントロールには音楽、スポーツが持つ元気や勇気の社会への発信にはアートの力が関係します。4部門トップレベルである江副記念リクルート財団の奨学生が実力を出し合えば、日本を活気づけられると信じていること、今回異分野のパネリストと意見を交わしてその思いがより一層強くなったという言葉で締めくくりました。

アート部門の増田さんは、国際的に活躍するアーティストの視点から、芸術が持つ異なる文化や社会を繋げる力について言及しました。芸術における「活気」とは何か、という自らの問いに対して、コロナ禍や世界で現在巻き起こっている戦争によって例えアート活動や展示が制限されても、音楽や芸術は存在し続け国を越えて交流していくものであるから断絶できないことに触れ、日本が他の国・地域と文化的なシームレスな交流を続けるために芸術が接着剤として機能しているのかという着眼点を芸術の「活気」と捉えたい、と語りました。

学術部門の石田さんは、日本の国際的なプレゼンスを高めて、より積極的に学術交流や技術革新を行っていくことが経済の活性化や社会問題の解決に貢献し、日本の未来を形作る上で欠かせない要素であると語ります。学術研究における「活気」において、国際スタンダードの策定やイノベーションを生み続ける環境づくりが要だと触れ、言語の壁を超えた協働と情報発信の重要性を強調しました。
そして、垣田さんや増田さんの発言を受けて、アートとスポーツでは活気の解釈に違いがあること、だからこそ他部門との議論が視野を広げてくれるというコメントがありました。言語の優位性が活気に関わる学術と比べ、非言語的なメディアを通じて言語の壁を越えて交流・発信のできるアート・音楽・スポーツといった分野に日本の活気の大きなチャンスがあるのではないか、アニメや食文化といった言語の壁を超えて国外で一定の支持を集める日本の文化に可能性を感じているそうです。また、テクノロジーを用いたアートや、音楽を通した健康促進といった近年の流行を踏まえ、4部門のコラボレーションへの期待を語りました。

さらに増田さんからはアートとスポーツにおける「非言語的活気」について意見がありました。様々な国のこれまで流行からエッセンスを取り入れることで現在世界的に人気を博しているK-popを例に挙げ、文化における活気は国の境界で分断されるものではなく、むしろお互いに影響を与え合い複雑に絡み合っているものなのだから、「境界を設けないこと」が活気づけにおいて重要だと語りました。ここで、視聴者の学術部門・久野さんから「競争に終始せず、お互いを認めて共創することが活気に繋がる」というコメントもありました。

最後に、今後どういった交流や貢献で日本を活気づけたいと思ったか?という鈴木さんからの投げかけに対して、スポーツ部門の垣田さんは、自身がアスリートとして結果を出すことで大好きな自転車競技をより周知させ一人でも多くの方に感動を届けたい、そして財団のようなコミュニティーでの異分野交流が今後社会を活気づけることに期待したいと答えました。

学術部門の石田さんからは、スポーツ選手や音楽家という普段あまり接点がない分野の同世代とテクノロジーとのコラボレーションのニーズを探ってみたい、財団生同士の留学先での交流頻度を増やしたいというコメントがありました。

アート部門の増田さんは、スポーツ部門奨学生の体の使い方や感情コントロールの考え方に興味を持ち、体の限界をテーマにしたパフォーミングアーツというアート分野に通ずる考えを得ることができたと語りました。

今回のパネルディスカッションでは、分野ごとの活気の捉え方や分野ごとの現状を共有したうえで、異分野をリスペクトしコラボレーションを積極的に増やしていくことが活気つながるという結論にまとまっていきました。



7. 卒業生紹介 卒業生代表挨拶 学術部門44・49回生 久保田しおん
2023年度は、12名の奨学生が財団から巣立ちました。皆さんは財団卒業後も引き続き各分野で活動を続けていかれますので、奨学生期間に築いた財団でのコミュニティーを生かした交流が今後とも続いていくことでしょう。

2023年度卒業生一覧

卒業生代表として、ハーバード大学博士課程に所属しつつ、現在イギリス・マンチェスター大学とスイス・CERNを拠点に素粒子物理学の研究に励まれている学術部門44・49回生の久保田 しおんさんが挨拶しました。8年間にわたる奨学生期間を振り返りながら、友人や教授に恵まれた自身の大学生活で実感した知的なセーフスペースで自由にディスカッションが繰り広げられる大学のコミュニティーの貴重さを強調しました。コロナ禍と重なり波乱の幕開けとなった博士課程を通して、不確定要素が多い現代において研究を通して世の中へと還元していく方法を日々模索しているそうです。他の奨学生に対しては、自らの興味に情熱を注ぎ続け、さらに分野の魅力・そしてそれに打ち込んでいる自分自身の魅力を発信していくことが、周りの人を巻き込みながら財団が掲げている「ずば抜けた活躍」に繋がる、とエールを送りました。久保田さん自身のこれからの抱負として、知の価値を社会に広めながら、より良い世界の構築を目指して世界で活躍していきたい、と語りました。

卒業生代表挨拶を務めた久保田 しおんさん



8. 専務理事挨拶
午後の部の締めとして登壇された専務理事の鶴宏明さんは、奨学生事業開始当初から「グローバルな視点から自分の位置を見つめなおし変革を起こしていく若者を応援したい」という財団の方向性は変わっていないことに触れ、不安定な国際情勢の中でもそのような奨学生を支援し続けるために財団の財務基盤を拡大していきたいとお話しされました。加えて、人としての幅を広げるために、分野の壁を越えて奨学生同士交流してほしい、そして好奇心を大切に将来日本を活気づける人材となるべく努力を続けてほしい、と奨学生を激励しました。


昨年に引き続き奨学生有志が運営委員を務めた今回の総会は、オンラインではあったものの、世界で活躍を続ける奨学生が新企画を含めた多彩なコンテンツで互いの活動を知り、刺激しあい、意欲を新たにする貴重な時間となりました。今後の財団生の交流や活躍、世界への挑戦に乞うご期待ください!

第53回総会 午後の部 総会委員
学術部門49回生 久野凌
学術部門47回生 島戸麻彩子
学術部門49回生 アガルワラユキ
学術部門49回生 鈴木友里恵
学術部門51回生 蔵内淡